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神殿へ⑤

「さて、ここから山を二つ越えるわ。私たちが冒険した時は魔物が凶暴だったから、少なくとも二回は野宿したけれど…。どうかしらね。サクサク進めれば一回くらいで済みそうなのかしら」

「…お前さあ、なんでそんな普通なんだよ」

「普通…なら良いんじゃないの?変だったら嫌だわ…」

「そうじゃなくて、大事なもの取られてなんでそんなに普通にしていられるんだって」

「……正直、今すっごいムカついてるの!」


 無作為に握った細い木の枝を、ばきりと折った。

 それをワカナチの鼻先に突きつける。


「でもね?ご存知の通り、あのラピと一緒に冒険したのよ?これくらいの嫌がらせでいちいち足を止めていたら一向に目的を果たせないの」

「……」

「ワカナチがどういうつもりか全然わからないけれど、今は私と運命を共にしているのよ?貴方こそそこのところをしっかり理解したほうがいいわ」

「へえ、随分肝が据わってるじゃねぇか。だがな、もう魔物に怯えなくてもいいんだ。いちいち大袈裟なんだよ」

「そんな世の中に変えたのは一体どこの誰だと思って?」

「…随分と恩着せがましいじゃねえか。どうせ、お飾りの勇者のくせに」

「お飾り?どういうことよ」


 ワカナチは大袈裟に両腕を広げた。


「お前、公爵令嬢様なんだろう?なんでお前が勇者に選ばれるんだよ。国民人気のためか?」

「なんで選ばれたか、ですって?それはフェンネルに聞いてちょうだい」

「イカれてんじゃねぇの?それともふざけてんのか?」


 フェンネルの剣を脇から抜いて眼前に差し出す。


「このフェンネルの剣が私を選んだのよ。それ以上のことがあって?」

「はあ、付き合わされた奴らに同情するよ。国を上げてのパフォーマンス、それに心酔する女勇者ってところか」

「貴方と話していると物凄くイライラする。もうその口を閉じてちょうだい。さっさと進んで目的を果たしましょう。お互い精神衛生的によろしくないみたいだから」


 私達は黙してひたすら前に進んだ。


(一つ問題があるわ…)


 そろそろ食料を見つけておきたいが、人々の往来が増えた為か、動物たちが増えた為か、木の実や果実などが前よりも確実に少なくなってきている。

 今朝も何も食べていない。沢があれば魚でも釣りたいが、あまり時間をかけてもいられない。


(ああ…。ディエゴがいてくれたら…)


 上空を鳥が飛び交っている。こんな時、ディエゴだったら射落としてくれただろう。


(分かっている、このイラつきの大半は空腹感だ…)


 携帯食が早々に底をついてしまったのには訳がある。

 ワカナチが管理していたが、寝ている間に熊にでも持って行かれてしまったらしい。

 それを責めたつもりもないけれど、以降彼は一層イライラしているのだ。


「くそ、ちょろちょろ鬱陶しいな!」


 その声に振り向くと、蛇がワカナチの足元を這っていた。


「あら!丁度いいわ!」

「なにがだよ!それより蛇がいるぞ。貴族様はさっさと逃げた方が…」


 素早く蛇の頭を捕まえると、長く苦しまないよう、手早く頭を落とした。


「え…っっ」

「ここでお昼ご飯にしましょうか。次いつ食べられるか分からないし。ワカナチ、もしまた何か見つけたら教えてちょうだい」

「おい、嘘だろ?お前、食うのか?蛇を…?」

「だって、アオダイショウよ。食べられるわ」

「そ、そうじゃなくて…」

「あ、そうか、ワカナチは異教徒だったっけ?蛇は食べられないのかしら。ん?でも、貴方たちは神殿から来たのよね?あれ?」

「〜〜っっっ!!!!だから、そんなもんまともな感覚の人間は食えねんだよ!!!」

「え…?」

「え、じゃねぇだろ!!蛇なんて食ったことねえよ!」

「あら、ラピみたいなことを言うのね。ワカナチ、貴方どうやって神殿からザダクまで来たのよ」

「それは…携帯食が…あったから…」

「で、今その携帯食は?」

「なんだよ!!俺のせいだって言いたいのか!?大体大事なもんならお前だってちゃんと目を見張って管理して…」


 ぐうぅぅぅう……

 ワカナチの腹から、切実な音が聞こえてきた。


「ッッッ!!!!」

「毒もないし、別にどうってことないわよ。一緒に食べましょう?ね?」

「っわかったよ…」


 私は皮を剥いで、腹を割いた。

 ワカナチが汲んできてくれた水で綺麗に洗う。


「本当は油で揚げるのがオススメなんだけど、ここではそうはいかないから」

「それはなんだ?」

「乾燥させた香草や塩を混ぜたスパイスよ」


 スパイスを肉によく塗り込んでから、起こした火で炙った。

 最初は顔を顰めていたワカナチも、結局最後は美味しそうに頬張っていた。


「お前、蛇触れるんだな。公爵令嬢のくせに」

「公爵令嬢のくせには余計よ。それくらいできなくて、冒険ができて?」

「まさか、お前本当に…」

「?なによ」

「…別に…」


 ワカナチは歩き出してもずっと無言のままだった。


(蛇を食べたことがそんなにショックだったのかしら)

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