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神殿へ④

 歩きながら、リボンで肩まで伸びた髪を結ぶ。


(慣れてないから上手く結べないわ…)


 シオン様から頂いた翡翠の髪飾りは勿体無くて付けられないでいる。

 防具の中に隠して、時折取り出してはぎゅっと握り込んで勇気をもらっていた。


(…シオン様、ディエゴ、レント…待っていて。必ず目覚めさせるから)


「おい、何やってんだよ。置いてくぞ」

「あ、ちょっ、ちょっと待って?髪が結べないのよ…」

「あ?おしゃれなんかしてる場合かよ。これだから貴族様は。ほんと自分のことしか…」

「えっと…私がおしゃれ、好きそうに見える?…髪の毛は冒険の邪魔なのよ、結びたいわ」

「だったら切っちまえば良いだろ。ま、貴族のご令嬢は髪の毛が命とか言うもんな。土台お嬢様には冒険なんて無理無理の無理だ」

「あら、伸びたのよ、これでも。別に切っちゃっても良いのだけど…事情があってそれは無理だわ」

「…どんな事情か知らねぇけど、俺の足を止めるほどの事情なんだろうな?」

「あのねぇ、ワカナチがリーリエちゃんを大切に思うように、私にも大切な人がいるわ。その方がね、新しい冒険が始まって髪を切ろうか悩んでいる私にこれをくれたの」


 防具の隙間に入れていた翡翠の髪飾りを取り出した。髪飾りはあの日の輝きのまま。私はシオン様の顔を思い浮かべて、ふっと微笑む。


「それが理由なら、その髪留めで留めれば良いだろ」

「一等大切なものなの。落としたり無くしたりしたら大変だわ。無事にその人が目覚めるまで、大事に持っておくことにしたの」

「……」


 一気に目の奥の光が消える。ワカナチは髪留めを取り上げると、懐に隠した。


「は?ちょっと?何をして…」

「これは俺が貰っておく」

「ちょっと…返して!!」

「ばァーか。大事なもんを人に見せるもんじゃねぇんだよ。貴族様」

「子どもみたいなこと言ってないで返してよ!!あなた、髪留め使うほど髪の毛長くないでしょう!?」

「アホか。これは言わば、お前がリーリエの言葉を取り戻すまで付き合うことを保証するカタだ」

「そんなことしなくたって…私…っっっ!!第一、夫が犠牲になっているのよ!?最後まで付き合うに決まっているでしょう!?」

「分かったもんじゃないね。まず、俺はお前を信用していない。リーリエだってザダクに置いてきたんだ。妹に万が一のことがあった時、お前は市民相手に戦ってくれるんだろうな?」

「…あなた…人を信用しなさすぎだわ…」

「約束できないなら、俺はザダクに戻る」

「……っ」


 今までどんな生き方をしたら、こんなにも人を信用できなくなってしまうんだろう。

 彼の生い立ちは確かに非道いものだった。けれど、何かが引っ掛かる。

 私は仕方なく了承する事にした。


「…わかったわ。その代わり、大事にしてちょうだい。なくしたりしたら、絶対に許さないわ」





✳︎ ✳︎ ✳︎





 勇者・メイリー、その面差しがなぜだか俺をイラつかせる。

 なんの苦労も知らない貴族令嬢というだけで腹が立つと言うのに。


(おまけに新婚だなんて、嬉しそうに浮かれやがって)


 こっちはリーリエの為にどれだけ苦労してきていると思っているんだ。

 聖女とは名ばかりのクソ女ラピを、魔物が跋扈する中、城まで送り届けた勇者だと聞いたが、貴族令嬢が冒険の役に立つわけがないのだ。

 きっと、虫が出ただけで悲鳴をあげるんだろうし、多くの護衛を伴って行ったに決まっている。その護衛の後ろに隠れて魔物が倒されるのを目を瞑って待っていたのだろう。想像に難くない。

 そう思っていたのに。なんで俺と二人で旅をすることになっているんだ。

 手慣れた様子で野宿なんぞしやがって。今に化けの皮を剥いでやる。

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