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神殿へ③

 朝露がぽたりと頬を濡らした。薄目を開けると少しだけ身体がだるいと気づく。目覚めはあまり良くないようだ。


(良い天気だわ…)


 木々のすき間からまっすぐ伸びる眩い日差しと、小鳥の囀りが平和な森の朝を知らせている。

 すっかり燃え切った焚き火を挟んで反対側にワカナチが丸くなっていた。

 簡単に寝袋を畳んでしまうと、まだ夢の中にいる酔っ払いを起こすため、反対側に回った。


「朝よ、起きて」

「ん?…うーん…」

「ねえ、酔っ払いすぎよ、早く起きて」

「…っせえな…」

「あらそう、じゃあ置いていくわよ」


 立ちあがろうとしたが、腕を引っ張られた。

 まだ半分しか開いていないとろんとした目に見つめられる。


「…お前…」

「な、なによ」

「……旦那クンのこともこうやって起こしているのか?」

「…お、起こしたこと…なんてないと思うけど…」

「へえ?貴族なんてそんなもんなのか?」

「そういうわけじゃないけど…なにしろ結婚式の後すぐに冒険が始まったし……」


 じっと見つめている瞳は、すっかり眠気が払われている。


「なら忠告してやるよ。こういう時はくちづけで起こすもんなんだぞ」

「えっ!!?」


(シオン様に…くちづけで…そ、それはちょっと朝から過激すぎない!?)


「なんで顔を赤らめてんだよ!冗談だろ!」

「?何を一人で怒ってるの?変なワカナチ」

「お前が冗談通じないからだろ…」

「え!冗談なの!?まだ新婚生活が始まったとは言い難いから頑張ってみようって思ったのに…」

「……あのなあ。……ちっ。つまんねえヤツ」


 ワカナチはガバッと起き上がると、支度を整えてさっさと歩いて行ってしまった。


「ちょっ!待って!?」

「顔洗いに行くんだよ。…お前も目ヤニついてるぞ」

「え、うそ」

「嘘だ」

「…ちょっと!?さっきから何なの!?」


 寝床にした場所から沢はそんなに離れていない。

 冷たい水ですっきり目を覚ました。


「…今更ヤボかもしれねーけど、お前の旦那は俺と二人で旅をしてるって知ってるのか?」

「あら、知らないわよ。だって、彼も夢の中だもの」

「え?」

「貴方のおかげで夢の中から目を覚ませない人達の一人よ」

「なっ…俺はザダクの街で初めてあの百合を売ったんだぞ」

「察しが悪いわね。彼もパーティメンバーよ」


 ワカナチは立ち上がって、袖で顔の水気を拭きさると、無言で歩き出した。


「ちょっと!さっきから何なのよ…」

「…ガッカリだ。お前さ、いい人ぶってみせてるだけで、結局は自分のためじゃねぇか。あーあ、やっぱり旦那クン含め、お前のメンバーの目を覚ますの止めようかな」

「ッッッ!!!どうしてそうなるのよ!!協力するわ!?何でも、何だってするから、彼らを起こして!!」

「何でも…?」

「っ…」

「何でもと言ったな?…なら、再びザダクの街に戻った時、何でも俺のいうこと聞けよ?」

「なによ、それ…」

「…それが条件だ。あとは譲らない。できなければ、旦那クン達は永遠に夢の中だ。良いな?」

「……わかったわよ」

「へえ?どんなことか分かったもんじゃねぇぞ?」

「貴方こそ、約束は果たしてちょうだい」

「………けっ」


 しばらく睨み合ったが、ワカナチは、やがて苛ついているのが分かるほど大股で歩き始めた。

 そのすぐ後ろを着いて歩く。


(…シオン様は王太子だわ。いつかはこの国の王となる人なのよ。目覚めないなんて絶対にあってはならない)


 何がなんでも目覚めさせる!その気持ちだけが私の足を前に動かした。

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