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神殿へ①

 ザダクの街が遥か遠くに見える。

 出立が昼過ぎだったため今日は野宿になりそうだ。

 魔物が襲ってこないとはいえ、出会ったばかりの二人が野宿だなんて、できれば遠慮したかったがそうはいかない。


 ワカナチがおこしてくれた焚き火を囲む。

 カバンの中から、宿の女将さんが持たせてくれたサンドイッチや鴨の燻製を取り出して、二人で分けた。


「…うまいな…」

「でしょう?ここの宿はご飯が美味しいだけじゃなく、温泉だって入れるからオススメなのよ」

「へえ」


 明日からは、こんなに美味しい食事は難しくなる。


(冒険で美味しい食事が食べられるのは本当にありがたいわ。ゆっくり味わって食べよう)


 感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。


「この燻製は完全に酒のアテだなぁ」

「ああ、そういえば、うちのメンバーはいつもビールと一緒に食べていたわね」

「メイリーは飲まないのか?」

「私、お酒は飲めないの」

「ふぅん。人生損してるぞ」

「それ!別に飲みたくないものを飲む方が損じゃなくって?飲みたい人が飲めば良いのだわ」

「…お前、意外と気が強いのな」

「な、なによ」

「別に。そんなんじゃ嫁に行けねぇぞ」

「おあいにく様。私、新婚ですから」

「あーそーですか。新婚早々、嫁が冒険なんてな。同情するぜ」

「本当にいちいちムカつくわね…」


 少ない装備のどこに入れていたものか、ワカナチは酒瓶の蓋をキュポンと開けた。


「…野宿で飲むの?」

「悪いかよ。別に魔物も出ねぇのに…。ああ、それにはあんたに感謝だな。ウートゥー」

「?なにそれ…?」


 ワカナチは胸の前で合掌している。なんのポーズなのだろう。そういえば、彼が回復を行うときに見るポーズである。


「俺の神に祈りを捧げる所作だ」

「ワカナチの?この国の神ではなくて?」

「俺はもともとこの国の産まれじゃない。遥か東にある国の小島で生を受けた」


 確かに、ワカナチという名前を聞いた時、珍しいなという印象を受けた。

 小瓶を煽っては鴨の燻製を頬張っている。

 焚き火が、彼の顔の模様を怪しく照らし出していた。


「…俺は捨て子だ。あの島では、子どもが帰ってこられないように、西の大陸に捨てるんだ」

「え…」

「俺の顔の模様、気色悪いだろう?これは、目印だ。島中の厄や災いはこの模様を見ると、それに寄っていくんだと。それで、遠方に捨てる。つまり、殺しはしないが生贄みたいなもんかな」

「そんな因習、間違っているわ…なんてことを…」

「災いまみれの俺と一緒にいたら、メイリーも不幸になるかもしれねぇな」

「そんなもの、迷信だわ」

「…どうかな。リーリエは幸せじゃなさそうだ」

「リーリエちゃんも…その…」

「ああ、俺たちに血のつながりはない。名前だってあいつのはいかにも大陸の名前だし。っていうか全然似てないだろ」

「うん、全然似てない。リーリエちゃん、可愛いもん」

「おい」


 何度も煽った小瓶は空になったらしい。後ろ手に放り投げると、何かに当たった音がした。

 木にでも当たったのかもしれない。


「ちょっと、あなた、飲み過ぎじゃない?」

「さあ?…そうだ、俺は飲むと強くなるらしいぞ」

「?」


 酒が強い、ではなく飲むと強くなるとはどういうことだろう。


「試してみるか?」


 彼は私の腕を掴んで、押し倒そうとした。慌てて抵抗しようとするが、想像以上の力に押さえつけられてしまう。


「っ!!!」


 ぬら、


 突然黒い影が落ちた。その影は低い声で私たちを威圧した。


「…お楽しみだったみたいだなあ。くくく、やっと見つけた」


 黒い塊みたいな、熊のような、何かがこちらを凝視していた。

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