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お花を買ってください④

 少年の家には、静かに横たわる母親をなんとか起こそうとした形跡があった。

 懸命に引っ張ったのだろう、ベッドからだらんと床へと垂れる腕、布団や枕は床に落ちて散乱している。


 未だに嗚咽が消えきらない、ひくついた喉で、それでも気丈に七歳のコノリーは話し始めた。


「っっ…女の子…十歳くらいだと、おっっ、思う…っっ」


 小さな子どもが直面している現実に、レノンさんと私は顔を見合わせた。


(胸が詰まる思いだ…)


「コノリーくん、空き家からその花売りの女の子が出てきたのを見たのよね?」

「ひっっ……っっうぅ…ううぅぅ!!」


 涙の筋をなぞる様に、ぼろぼろと流れるそれが再び頬を濡らしながらも、こくこくと頷いている。


「…案内できる?」

「むり…」

「え?」

「無理だよぉぉお!!ううぅっっ…!!母ちゃぁぁん!!!」


 少年が蹲って絶叫のような泣き声を上げる。


「…レノンさん、ひとまず出直すか私たちで少女を探して…」

「おい!コノリー!!!」


 突然の怒声に驚いて、肩をすくませる。


「お前だけの問題じゃねぇんだぞ!立て!立ちやがれ!!」

「レノンさん…!いくらなんでも、子ども相手にそんな…」

「今、お前だけがこの街の希望なんだ!!母ちゃんそのまま起きなくても良いのか!!?」


 コノリーは「ふううぅっ!」と身を固くした。


「コノリー!男なら立て!!立って母ちゃんの目を覚ますために協力しろ!!!」

「レノンさん!!」

「はっ!どうやら、俺はお前のことを買い被ってたらしいぜ!」

「ちょっと!!やめて下さい!急に何を…」

「コノリーなら、この勇者様を花売りの少女って奴のところに案内してくれるって思ってたんだけどなぁ!そんなに泣き虫だとはな!がっかりだぜ!!なあ、コノリー!!何とか言いやがれ!!」


 コノリーはぐっと袖で涙を拭うと、「うるせーー!!!」と信じられないくらいの大声で反論した。


「誰が泣き虫だって!?な、泣いてねぇし!!」

「はァん?そのほっぺたについてるのはなんでしゅかねぇ!?」

「ばっ!!これは…ちっげえよ!!…あっ…」


 袖で何度も頬を拭うコノリーは「くそ!」と言って自分の頬を叩いた。

 にやにやしてそれを見ているレノンさんの方が、だいぶ、いやかなり子ども染みている気がする。


「レノンだってハーリーさんに怒られて泣いてたくせに!!」

「ぐっ……あれは…泣いてたんじゃなくてだな…」

「ハーリーさんに子ども泣かせたってチクってやる!!」

「チクれるもんならチクりやがれ!!」

「な、なんだよ…それ…」


 レノンさんは、顔にかかっている前髪を後ろに撫で付けた。

 胸ポケットを探って、よれよれのタバコにマッチで火をつけると「ふしゅー」と紫炎を吐き出す。


「おい、ふざけんな。人ん家で…」

「…あいつも今、夢ん中さ」

「…え?」


 口元を歪ませて、笑っているのか泣いているのか分かりかねる表情で「…悪かったよ」と言った。


「…おう、良いよ別に。空き家に行くんだろ?着いてこいよ」

「なあ、コノリー、灰皿ねぇの?」

「ねぇよ!」


(これは、良かった、のかな…?)


 ただオドオドするしかなかったけれど、何とかなりそうで胸を撫で下ろした。

 しかし、レノンさんとコノリーのこの奇妙な関係は何なのだろうか。


「ねえ、コノリーくん。レノンさんと仲良いの…?」

「「はあ!?」」

「だって今も声が合ったし…」

「「そんなんじゃねぇ!…あっ」」


 コノリーとレノンさんは「いーっ」と歯を剥き出してから、そっぽを向いた。


(へ、変なの…)

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