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【第一章完結】ブーケトス

 魔物と共生する、穏やかな世界。

 黄金時代と呼ばれた千年前、王国の人々は心も生活も豊かだったというのは、なるほど納得である。

 第一に物流がスムーズになったこと、次に多くの人々が行き交うようになったことが大きいだろう。


 平和を噛み締めると同時に、冒険の日々を懐かしく思う自分がいた。こっそり稽古を続けているのは誰にも内緒である。


 高らかに鐘が鳴り響く。

 今日はシオン王太子殿下と私の結婚式だ。

 花嫁支度を終えた私を見るや、シオン王太子殿下はふんわり柔らかく私を抱き留めた。


「…メイリー、綺麗だ」

「なんだか…くすぐったいわ」

「ハイネックのレース。とてもよく似合っている」

「肩の傷痕が消えなかったので…誤魔化せてますか?」


 肩口に唇を寄せて、口付けを落とされる。


「誤魔化す?レースがあってもなくても、ありのままのメイリーが好きなんだ」

「っ…」


 求婚されてからというもの、シオン王太子殿下は毎日甘い言葉の魔法をくれる。

 顔を赤くして俯く私の髪を掬った。


「よくここまで伸ばしたな」

「なんとか肩ぐらいまでは伸びました。これだけあれば、なんとか様になるアレンジはできると、侍女の方が一生懸命に結ってくれたんですよ」

「ああ、この瞬間を閉じ込めて…メイリーをずっと見ていたい…」


 微笑みを湛えた口元がゆっくり近づいた時、ノックが響いた。


「シオン王太子殿下、メイリー・ミュークレイ公爵令嬢様、お時間でございます」


 思わず笑い合う。

 エスコートの腕を取って、式場へと歩んだ。



 厳かな空間。家族や友人、そして国王陛下が見守る中、誓いは交わされた。


「メイリー・ミュークレイ。僕は命を賭して戦った勇者を心から愛している」


 ベール越しの景色が鮮明になり、重なった唇に確かな絆が結ばれた。


 扉が開かれ、来賓から盛大な祝福の花が舞う。そこには、冒険の途中で籠手を譲ってくれたあの家族の姿もあった。嬉しくなって、思い切り手を振った。


「知り合いか?」

「ええ。私に最高の防具をプレゼントしてくれた人たちです」

「へえ、それはぜひ話を聞いてみたいな」


 ゆっくりと階段を降りてゆくと、一番下でレントとディエゴが跪いていた。

 その手には、フェンネルの剣が高く高く掲げられている。


「恐れながら、シオン王太子殿下、メイリー・ミュークレイ様」


 ざわつく来賓をシオン王太子殿下が制した。

「構わん。申せ」

「はっ…。神殿の一斉討伐のために派遣した調査団が苦戦。多数の怪我人が出ている模様です。神官達が一部暴徒化しているとの情報が入っております」


 シオン王太子殿下は、にっと笑ってから大声で言った。


「それは我々勇者一行が行かねばならぬな!」


 私は持っていたブーケを後ろ手に放ると、差し出されたフェンネルの剣を受け取って、天高く掲げた。

 ブーケは誰かが運良く落下する前に受け取ったらしい。「わあ!」と歓声が上がった。


「お、おい!シオン!!メイリー!!」


 国王陛下が悲鳴に近い声で叫んだ。


「父上!どうやら我々はまた冒険に出なければならないようです!」

「っっっ!!な、ならん!!!よせ!!お前達はこの国を治める……」

「結婚式は滞りなく終わりましたのでっ!」

「メイリーまでっ!!!」


 ふらふらと頭を抱えてよろめいた国王陛下は、公爵である私の父の腕を掴んで揺さぶった。


「ミュークレイ公爵!ご令嬢を止めてくだされ!!」

「はっはっは!あれは根っからの勇者なもので!はっはっは!」

「た、頼むから儂を安心させてくれぇ…!!!」

「お互いまだまだ隠居はできんようですな!!」


 国王陛下は狼狽したが、人々は喝采を送った。

「いいぞ!」「頑張って!」「勇者・メイリー!」「気をつけてね!」

 私達は、背中にその声援を受けて、フェンネルの剣と勇気を一つ持って駆け出した。


 後に、結婚式でブーケを後ろ手に投げ、それを受け取った人が次の花嫁になるという話がまことしやかに言い伝えられ、ブーケトスは大いに流行った。

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― 新着の感想 ―
ここまで一気に読みましたが、実に面白いですね! 続きもこのまま読んでいきます!
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