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勝利

「随分とボロボロだわ、死竜。私の仲間の魔法は良く効いたでしょう?」


 巨体を揺らすたびに、振動する大地。


『人間如きが…ッッッ!』

「残念ね、その人間如きは群れてこそ、その力を発揮するのよ。死竜、貴方は孤独だわ」


 カッ!

 口から光線が発せられる。一か八かで真横に切り裂くと、フェンネルの剣はその光線すら切り裂いた。


「フェンネル、どうか私に力を貸して!」


 耳元で、いつか聞いた声がする。

[…ああ、千年ぶりに腕がなるなあ]


 私の身体は勝手にラピの襟元を握った。それから小石を投げるみたいに聖女様を、ぶん!と放った。


「きゃあああぁぁぁあ!!!」


 ラピは、弧を描いて空中を泳ぐと、レントの腕の中にすっぽりおさまった。


「レント!ラピ様を頼んだわ!!」

「お、おう…」


 光線がダメだと悟った死竜は、巨大な爪で私を払った。

 私は後ろに跳んでそれを避ける。


(死竜の動きが、こんなにもゆっくり見える…ダークマターがだいぶ効いたのかしら…それとも…)


 着地と同時に足に力をこめて、前に飛び出し、その左腕を切り落とした。


『ウオオオォォォォ!!!!』


 カッカッカッ!!!!


 苦し紛れの三連の光線を躱す。

 狙いを決めかねていたディエゴが、遂に右目を射抜くことに成功した。この巨体の中にある目を、よく射られたと感心する。


「よおおおおっし!!!…え?」

「ディエゴ!危ない!!」


 死竜の右腕がディエゴ目掛けて襲いかかった。


(間に合え!!!)


ギイィィィィイン!!!!


「くっ!!」

「メイリーちゃん!!!」


 なんとか剣で爪を防いだ。

 物凄い力で押し潰されそうになる。

 死竜の方は、逆に潰さないように気を遣っているとでも言いたげだ。


『まるで蟻のようだ…初めから踏み潰しておけばよかったなぁ。ほら、ほら…くくく』

「ぐっ!!!!うううっ!!!!」


 なんとか持ち堪えたが、奥歯を噛み砕いてしまいそうだ。地面に足がめり込んでいくのがわかる。


「はあっ…はあっ…」

『…なぜだ…なぜ諦めない』

「なぜ、ですって?諦めないのが勇者だからよ!!!」


 フェンネルの剣が蛍のように仄かに光る。

 けれどそれは、死竜には眩すぎるものだったらしい。


『クッッッッ!!』


 怯んだ死竜の爪を弾き返した。

 右目が潰された死竜は、左目を庇って体をくねらせた。


 ビュン!!!


 すごいスピードで、巨大な尾が迫って来る。

(身体がついていかない!)

避けきれないと悟って、剣を盾に、瞬間的に硬直した。


「メイリー!!!」


 突然、フリックが目の前に飛び出した。

(何をして…)

 そう思っている間に、フリックは弾き飛ばされ、空中高く舞った。


(どうして…私を庇ったの…?)


「くそっ!!!くらえ!ファイヤーレイ!!!」


 宙に舞いながらフリックは詠唱した。

 炎の光線が死竜の身体を灼いて、畝るような絶叫が響く。


「人間を甘く見たことを…後悔しろ…っ!」


 フリックは脱力して、そのまま落下した。


「フリック…!!」


 怒りに柄を握りしめ、死竜に向かい合うと、傷だらけの太い指が私の手に重なった。

[俺様の目に狂いはなかったな。お前は生まれながらに勇者だ]

 それは、夢で聞こえたあの声と同じ。

[倒せるか。お前に]

「倒す。倒せなければ…死ぬだけよ」

[それでこそ、俺様が見込んだ勇者だ。行くぞ]


 驚いた。フェンネルは私よりも跳躍できたのだろうか。

 羽が生えたのだろうかと錯覚するほど、高く高く舞い上がる。

 それは、一足飛びで死竜の遥か頭上を超える高さだ。


 剣に聖なる光が宿る。

 直感的に感じた。これは、フェンネルが放つ光だ、と。


「滅せよ!!死竜!!!」


 ズン……


 深く、深く、死竜の頭に剣が突き刺さる。


「!?」

『オオオォォォ…』


 シュウシュウと闇のエネルギが死竜の周りを旋回した。

 剣が放つ光のエネルギーと拮抗している。


「くっ!!!」


 鋭利な闇のエネルギーは、私の体を切り刻んでいく。


[死竜、お前は地上を支配することも、冥界で永遠に生きることも叶わぬ。今ここで死ね]


 ドン!!!!


 身体が圧迫される程の強い聖なる光は、遂に闇のエネルギーを掻き消した。

 それと同時に、死竜は緩やかに地上へと倒れ込んだ。


 一瞬、まるで音のない世界が訪れる。

 巨体が没する音もなく、断末魔さえ聞こえなかった。


 パァアアァァァン……


 死竜は、小さなたくさんの粒子となって、やがて霧散して消えた。


 風が押し上げるように私を包んで、ゆっくりと地上に降り立つ。

 自分で何が起こったのか、理解するのに時間を要する。フェンネルの剣を見つめるが、いつもと同じ。

 暫くすると、膝が震え始めたので、拳で叩く。


「メイリー…」


 茂みから呻き声が聞こえる。

 それは、墜落して血を流しているフリックだった。駆け寄りつつ、ポシェットの中を探す。


「フリック、すぐにポーションを…」

「おい、止めろ」


 フリックが止めるのも聞かず、二本消費したところで、腕を掴まれた。


「もういい!止めろ!」

「ごめん、ラピ様に回復してもらったほうが…」

「そうじゃない!自分をよく見ろ!」

「え?」


 至る所から出血していて、自分でも良く立っていられたものだと感心した時、気が抜けて倒れ込んだ。


「ごめんごめん…あと一本、ポシェットに入ってるポーションをかけて…くれる…?」

「どこまでお人好しなんだ、馬鹿」

「馬鹿は余計だわ…」


 フリックはなぜか自分の懐からポーションを三本取り出すと、私に振りかけてくれた。

 三本も使うなんてと思ったけれど、それほど出血していたらしい。


「フリック、ポーション…持ってたの…?なぜ…」

「黙ってろ」

「だって…ラピ様が回復してくれるのだから、フリックは必要ないでしょう!?」

「お前が怪我するから…」

「え?なに?よく聞こえない…」

「絆を忘れるなと言ったはずだ」


(だって、ラピが来てから貴方達は…)


 私は何かを勘違いしていたのかも知れない。

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