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フリックはラピの護衛に…

 後は森を抜けるだけ、王城までまもなくだ。心の底からほっとするのは、どれくらいぶりだろう。


 ここではゴーレムクラスの魔物がせいぜい。苦戦するような魔物は出ないだろうが…時折、上空を旋回する魔鳥の鳴き声が響いてくる。

 我々を警戒しているのだろうか。不穏な気配を放っていた。

 魔鳥は単体なら苦戦することはないが、仲間を呼ばれたり、魔鳥の鳴き声に反応した魔物が寄ってくるのは望ましくない。


 ディエゴが徐に膝をつき、抜けるような青空へと矢を構える。みんながそれを見守った。


 キリキリキリ…


 戦闘中、繁々と見ることもなかったが、照準を狙い定める彼の目は、まるで狼のようだ。凄まじい集中力を放っている。


 シュッ…


 マッチをするような僅かな発射音。一瞬の間の後に、魔鳥が落下した音で命中したことを知った。


「…さて、行くか」

「さすがディエゴ!」「見直した」「…お陰で面倒に巻き込まれなくて済んだな」

「おう」


 親指を突き立てて、少しだけ長い前髪を掻き上げた。


(ディエゴ、命中率が上がってる。私ももっと頑張らなくちゃ)


 私だって、冒険を始めた頃よりも確実に強くなっている自信はある。けれど油断をしてはならない。

 自信を持った今だからこそ、慢心してはならない。

 気の緩みが、大怪我につながりかねない。

 私は聖女・ラピに回復してもらえないのだから。


 ラピは新調した服を、腕を伸ばしたり、スカートの裾を広げたりして、満足そうに見せつけてくる。

 最悪なことに、多めに買いたかったポーションは、ラピのせいで五本しか買えなかったのである。

 そもそもヴェーダの村で散々飲み明かしたらしく、賃金が乏しかったのにくわえて、あろうことか一番高い服を買わされた。彼女はデザインや着心地ではない。値段で選んだ。


(王城に着いたら、好きなドレスを何着でも買ってもらえるだろうに…!!)などという私の心はすっかり見透かされており


『最初の印象は大事でしょう!?一等高価な服じゃなきゃ絶対にダメよ!』なんてことを抜かしていた。


(なら私のことも回復して…)


 でも、よく考えればラピにしてみれば、回復させるのはすごく疲れる上に、自分のことは回復できないのだ。

 これまで、回復してもらって当然などという態度は良くないと思って敢えて黙っていたのだ。

 気に入らない相手を回復してやるほどお人好しになれないラピは、今まで散々そういう人たちが寄って来たのじゃないかなという想像くらいは容易にできた。

 初めて会った時『神殿だ!回復してもらお!ラッキーとか思った!?』と言っていたのはそういうことなのかも知れない。


(けれど…気は使っても同情はしないわ…)


 だからと言って、仲間を見殺しにしようとしたり、守ってもらうのが当たり前だと思ったり、回復したくない相手からポーションを取り上げるのはやはり許せないのだ。


 モヤモヤしながら歩いていると、突然後ろからフリックに抱き寄せられた。


「っ!」


 見れば足元は毒沼だった。禍々しい紫色の液体がボコボコと音を立てて泡立っている。


(うそ…来る時に散々確認したはずなのに…!!)


「しっかりしろ、もうすぐ着くからと言って気を抜くな」

「あ、ありがと…ごめん…」


(ぼーっと考え事なんかして…私、ダメだな…)


 すぐ感情に左右されてしまう。勇者失格かもしれない。

 こんなことでドキドキするなんて、きっとどうかしている。熱くなった身体を諌めた。


(違う、これは毒沼にハマりそうになったせいなのよ!フリックに他意はないのに…何にドキドキしてるのよ…馬鹿みたい)


 はあ、と荒くなった呼吸を整える。

 次の瞬間、耳元にラピの口元が近づいてきてぼそりと囁いた。ぞわっと総毛立つ。


「ああ…アンタ、やっぱりフリックのことが好きなんだぁ。…良い男だものねぇ」

「なっ!」


 慌てて耳を押さえる。

 まるで蜘蛛の巣がまとわりついたような不快感が耳に残って何度か払った。


「ふふ…昨夜は楽しかった?面白そうだから、アンタを男どもと相部屋にしてあげたの。感謝してよね。まあ、もちろん何にもなかったんでしょう?可哀想〜」

「私たちは仲間よ…変な勘繰りしないで。みんなにも失礼だわ」

「ぷっ、ムキになっちゃって。フリックと相部屋で嬉しかったくせに。勇者のくせに男漁りですかあ?相手にもされてませんけど!くすくす」


 ニヤニヤした顔面が、食むような距離感まで近づいてくる。不愉快極まりない。そのしょうもない発想を真顔で見下した。けれど彼女は、そんな私の内心に全く気が付かないらしい。


「男に囲まれながら朝までぐっすり眠るなんて、さぞかしショックだったでしょう?」


 もはや閉口するしかない。全然話が噛み合わない。

 それからラピは、頬を両手で包んで踊るように身体をくねらせた。


「そうそう!フリックがね、冒険が終わった後も私の護衛になってくれるんだって。まあ、王太子の方が全然もっと良い男だけどぉ。秘密の関係って燃えるじゃない?アンタもそう思うでしょ?女を捨てた勇者サン」


(フリックが…旅が終わった後もラピの護衛に…?嘘でしょう?)


 ふるふると頭を振った。冒険が終わればこのパーティは解散になることくらい分かりきっていることだ。

 それぞれの人生を歩む、それだけのこと。

 私がフリックの人生に口出しするなんて、そんな烏滸がましいことは許されないのだから。

 なのに…なぜこんなに胸に何かが詰まっているような不快感を感じるのだろう。


「そう、ですか…。フリックがそばにいれば、ラピ様もご安心でしょう」


 とだけ言った。


「おーい!ラピちゃん!メイリーちゃん!どうした?早く来いよ!!」

「ごめん!今行く!」


 ラピは見下すような微笑みを湛えて、随分と進んでしまったメンバーを追いかけるため、再び歩き出した。

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