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空へ還す

 どさどさどさ、

 大層な音と共にテーブルに広げられたそれらを見るや、シオン様の表情が見たこともないほどに蕩けた。


「これが、ミュークレイが遺した、宝…か」


 色とりどりの折り紙、解読の難しい手紙、花を持った父の絵、絵、絵。


「…私としては全て処分しても良いと思ったのですが」

「なっ!!それはだめだ!!」


 勢いよく立ち上がったシオン様が一枚の絵を胸に当ててため息をついた。


「こんな…こんな可愛いものを…処分するなんて…許さん!」

「ええ…」

「これは…僕が保管する!」

「ちょ、ちょっと待ってください。父の棺に入れるにはもう遅すぎますし、折角ですから父に届けようと思うのです」

「届けるって…君、どうやって」


 微笑み返すと、彼は面食らったような顔になる。


「もう許可は取ってありますから」


 そう言って、箱に詰め直した思い出の品々を両手に抱いて庭園へと向かった。

 空は快晴。ほぼ無風。


「これは…」


 ガーベラを手に持った国王陛下が抜けるような青空を見上げている。

 その奥に、ミュークレイ騎士団の騎士たちが控えていた。


「お、来たの」

「お待たせいたしました」

「シオンも来たか」


 声をかけられた当の本人は何が何だかわからぬと言った様子だ。


「何が始まるんだ?」

「ワカナチが言うには、東の国では燃やして空に送る風習があるそうで」

「またあの野郎か。気に入らないな」

「本当は仲がいいくせに」

「なっ!良いものか!」

「とにかく、あちらでは、手紙など亡くなった人にそうやって届けるのだそうですよ」


 私は「では」と言って箱を置き、松明を持った騎士がそれに点火した。

 古い紙はよく燃える。箱ごとあっという間に炎に包まれた。

 国王から順にガーベラの花を手向けていく。

 

(本当にみんなから愛された人だった)


 その時、無風だったはずなのに、突然強い風が吹き荒んだ。「わ」と声を上げる人々が思わず顔を覆う。

 シオン様は反射的に私を抱き寄せた。

 腕の中、目を細めて見る光景は不思議な物だった。


(ああ…)


 幼い頃に父を慕って送った物が、遠い空に巻き上げられていく。

 突風が止むと、ぴたりと無風に戻ったので、みんなが顔を見合わせた。

 騎士団の騎士たちは涙を堪えて、胸に手を当てて頭を下げる。


「…どうやら、ミュークレイに届いたようじゃの」


 国王陛下はそう言うと、ひらひらと手を振って王城へと戻って行った。


 火をつけて燃やしただけ、本当にただそれだけのことなのに、不思議と心につかえていたものが取れた気がする。


「…僕たちも行こうか」

「はい…あれ?」


 見れば、シオン様の胸ポケットから紙が覗いている。


「シオン様、それって」

「あっ」


 不自然に目線を逸らしたシオン様は胸ポケットを押さえて動揺している。


「それ、私が描いたお父様の絵ではありませんか。いつの間に!」

「い、良いじゃないか!一枚くらい!いっぱいあったのだし!ミュークレイも一枚くらい多めに見てくれるはずだ!」

「…どうするのですか、それ」

「僕が死ぬ時棺に入れてくれ」

「もう!お母様と同じこと言わないでください」


 シオン様はなぜか感心したように「へえ」と言った。


「本当に、君の母君とは気が合うなぁ」

「…それ、なんだか複雑です」


 胸ポケットから取り出された絵を広げて、しげしげと見る目が今日の空と同じ色だと気がついて、どきりとする。


「そ、そんなによくよく見るような絵でもありませんでしょうに」

「…なあメイリー、これは誰だ?こっちは君の父君だろう?これは?」


 ひょいと覗いてみると、王冠を被った金髪に茶色の目の人物が描かれていた。


「…さあ?分かりません。兄じゃないですか?」

「む?君の兄貴に金髪はいないだろう」

「誰でも良いです!」


(お…思い出した)


 あれは、父に連れられて初めてシオン様にご挨拶した日に描いた、父とシオン様の絵だ。間違いない。


(内緒にしておこう)


 碧眼になったシオン様が、幼い頃のご自分の似顔絵を見つめて、考え込んでいる。そもそも王冠なんて王族しか被らぬのだから、すぐに分かりそうなものだろうに。


「ふふっ」

「なんだ、なぜ笑う」

「いえ、なんでも」

「気になるじゃないか」

「リリエッタが待っています、早く戻りましょう、ほら早く」


 シオン様の背中を押す。笑いを堪えるのが大変だ。


「…うん、やはり額装しようかな」

「なんですって!?そんな…子どもの落書きを!?」

「自信を持ったら良い。味があってとっても良いぞ。よし、早速そうしよう」

「シオン様っ!」

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