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天命

「メイリー様!!ああ、良かった!!早く…こちらへ!!」


 侍女のトリアリが帰城したばかりの私を見るや駆けてきて、慌ててそう言った。

 見渡せば、城はなんだか物々しい雰囲気である。


「行っておやり」

「ですが、すぐに国王陛下に報告を…」


 そんなやりとりを見た侍女は「お二人とも、早く!」と言ったので顔を見合わせた。

 早足で案内するトリアリに続く。


「何があったんだ?」

「…ミュークレイ公爵が倒れました」


 私は思ってもみない言葉に足が止まる。


「父が…?」

「今、回復師が総出で回復に努めていますが…」


 回復できないのなら、それは寿命きた、ということであろう。


(お父様はもうそんなにお若くない)


 ずっしりと心臓が重たくなって蹲った。シオン様が柔らかく背中に手を当ててくれる。


「…立てるか?」

「まるで道が畝っているように感じて、足がもつれて、とても立っていられません…」

「父君が君のことを待っている。力づくで連れて行くが良いか?」


 こくり、と頷くとシオン様は私を抱き上げた。泥だらけのドレスがシオン様の袖を汚す。ヒールが片方脱げてしまった。

 トリアリは脱げた靴を持ち上げると、また足早に歩き出した。


「ミュークレイの容体は?」

「…昼頃倒れられてから意識はありません」


 私はシオン様の腕の中で「そんな」と発した。トリアリは堪らないという顔になって私に言った。


「今メイリー様のご兄弟もこちらに向かわれております。お覚悟を」


 目の前が暗転する。気を失えば楽になるだろうか、一瞬そんなことを思う。


「メイリー、気をしっかり持て」

「っ…うぅ…」


 客間の一室の扉を開くと、そこには回復師が数人父を囲んでいた。


「…お父様!!」


 ベッドに横たわる父を何度か揺さぶった。反応は、ない。

 先に来ていた母が私の肩を抱く。


「メイリー、うぅっ…」

「お父様はどこか悪かったの?」

「いいえ。本当に突然のことで…」


 回復師達は必死に延命している。多分、家族が揃うまで続けるのだろう。

 私は立ち上がって回復師達に頭を下げた。


「…もう、十分です。どうかその回復をやめてください」

「メイリー様!しかし!!」

「父が逝きたい時に逝かせてあげて欲しいのです」


 彼らはお互い顔を見合わせると、回復の手を下ろした。

 これできっと、そんなに長い時間は生きられぬだろう。


「お母様、ごめんなさい」


 母は泣き腫らした顔でゆっくりと首を左右に振った。


「自宅に連れて帰った方が良いでしょうか?」

「ミュークレイには世話になった。思い入れのある王城で最期の時間を迎えると良い」

「ありがとうございます」


 シオン様は「父を呼んでこよう」と言って退がった。

 私の頭からつま先まで目線を上下させた母はため息をついて泣き笑いのような顔になる。


「全く、相変わらずだわ。あなた本当にお父様そっくりよ」

「泥だらけでしょう?酷かったのよ」

「怪我がなくて良かったわ」

「あら、左腕を刺されたのよ。すぐに回復してもらったけれど」

「聞いているだけで痛いわよ。お父様もそうだったわ、随分長いこと帰ってこないと思ったら泥だらけで帰ってくるんだもの。似たもの親子ね」

「私は、お父様には遠く及びません」

「やあね、及ばなくて良いのよ。貴方は王太子妃なんだから。それよりあなた、王太子妃御自ら前線に立ったと聞いたわ。心臓がいくつあっても足りないわよ」

「シオン様にも同じことを言われました。お二人は案外気が合うかもしれません」

「…普通の感覚よ」


 それから兄弟達が集まり、国王陛下もわざわざ別れの挨拶をしに足を運んでくれた。

 ミュークレイ家は、一同畏って頭を下げる。


「…ミュークレイ。儂の片腕、儂の戦友、儂の友人よ。お前が逝ってしまうと実につまらなくなるな。まあ、だがそれも天命だ」


 不思議なことに、父の瞼がピクピクと痙攣して薄目を開けた。

 全員がわっと声を上げる。しかし、それを国王が片手で制した。


「もうよい、ミュークレイ。お前ほどの忠臣はおらんの。なあ、そうだろう?」


 国王は父の瞼をすっと撫でる。


「最期の王命だ。苦しまずに逝けよ」


 父は、その言葉を聞いていたのだろうか。すうと吸ってふうと吐くと、ぴたりと呼吸が止まった。

 最後まで第一の忠臣として逝った。

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