表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/114

大砲と粉塵(後半、ミュークレイ公爵視点)

 ズババババババ!!!


 凄まじい轟音と土煙り。


 ドドドドドドド!!!


 火薬の匂いと、石が割れて漂う粉塵の独特な匂いと。


「……君が言うならと任せたが……肝が冷えた!!」


 耳元でシオン様が大声を張り上げるけれどところどころ聞こえない。


「前線はお任せくださいと言ったはずですよ!!なぜ来たのですか!!」

「なんだ!?聞こえない!!」

「んもう!!!」


 シオン様のバリア魔法は、最新式の大砲などものともしない。

 私たちからすれば、魔物の方がよっぽど相手にしにくい。動きが素早く不規則で読みにくいし、巨大な個体も多いからだ。


「…砲撃が止んだぞ」


 もうもうと土埃が上がる。風が強くないのでなかなか晴れていかない。


「シオン様、お手数ですが…」

「はあ、全く手の焼ける連中だ」


 魔杖が光を放ち、微かな空気の動きが始まった。


「ウィンド・ストーム!!」


 ゴウ!!

 視界を遮っていた土煙りは空へと巻き上がっていく。


「うわあああっ!!!」「と、突風だ!!」「俺の銃が風に持っていかれた!!」


 風がピタリと止む刹那、目の前のヤイレス軍が全員黙して私たちを見た。


「…バケモノ…」


 ぽそりと誰かがそう呟いた。


「こんなもん勝てるわけねぇ!!!」「逃げろ!!」「おい、早くどけよ!!!」「退がれ!!退がれぇぇ!!!」


 ワッ!!と人々のけたたましい絶叫が音圧となって、耳を劈いた。

 必死の形相で逃げおおせようとする前線の騎士達だが、何万という軍勢が後ろに控えていてそれを許さない。


「おい!!貴様ら!!!逃げるなァ!!!もっとぶっ放せ!!!」


 すっかり腰を抜かして尚声を張り上げるイシュクアに近づいた。


「っひ!!!」

「勘違いをしているらしいわ」

「…へ?な、なんなんだ!なんなんだよ!!来るな!」

「私は貴方たちと争う気などないの。考えてもみて、私たちは一切貴方方に手出しをしていない」

「あっ…」

「ヤイレスが私たちに勝てると、本気で思う?」

「ふざけるな!!!お前たちのような原始人に負けるわけが…」

「…その最新式の銃というのが私達にとって何の脅威にもならないこと、まだ分からない?」


 イシュクアは、ぎゅうと何かを握り直した。唇を噛み締めて、抜けていた筈の腰を立ち上がらせる。

 前のめり気味に突進してきたイシュクアが、私に何かを突き刺した。


「!!!」

「…腰が抜けていると思ったかな?子どもみたいな演技に引っかかるなんてやっぱり原始人だ」


 熱い。

 じわじわと痛みが迫り上がってきた。


「メイリー!!!」





✳︎ ✳︎ ✳︎





 胸騒ぎがする。

 あの娘のことだ。人間相手に死ぬようなことはないと思うが、どうしてもそわそわしてしまう。


「そうはいっても、あの子は女の子なのだ。勇者とはいえ、儂の大切な娘なのだ…」


 ぎゅうと胸の辺りを鷲掴みにした。


(そもそも…)


 メイリーがやりたいということは何でもやらせた。無理に嫁がせ、どこかの貴族夫人となり、社交界で生きていくのがどんなに大変か知っているからこそ、あの子の生き方を尊重してきたつもりだ。

 けれど、そんな娘は勇者になってしまった。


(もし、フェンネルの剣を抜きに行くと言ったら、儂は反対しただろう)


 それが不思議なところで、なんでも相談してくれたはずの娘は、勇者のテストだけは何も相談しなかった。今まで娘のやることに反対などしたことがないにも関わらず、だ。

 娘は何かを予感していたのだろうか。

 そもそも、行ったところで女であるメイリーがフェンネルに選ばれるなど、誰が予想できただろう。


(ならば、予感していたのは儂の方じゃないか)


 メイリー、お前はシオン殿下の妻となり、ゆくゆくは儂が最も愛したこの国の国母となる。お前は儂の誇りだ。

 一方で、リリエッタもメイリーの血を継いでいるのだから、その内宝石よりも剣を好むようになるかもしれない。それだけはなんとかならぬだろうか。


「やれやれ…本当に、メイリーは儂の心を揺さぶってばかりだ」


 すやすやと午睡している孫娘に、メイリーの面影を重ねる。

 気を利かせた乳母が、リリエッタと二人きりにさせてくれたのだ。


(そうそう、このくらいの赤子はこんな風に産毛がはっきり分かるのだ。…懐かしいな)


 何と愛しいことだろう。思わずリリエッタの頬に手を伸ばした。


「…リリエッタ、爺はもう疲れた」

「あぅ…」


 寝言だろうか、一言発してまた寝息を立てた。


「ああ、本当に…可愛いな」

面白かった!続きが読みたい!と思ったら、

ぜひ広告下の評価を【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】→【★★★★★】にしていただけたらモチベーションがアップします!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ