ヤイレスの新国王、イシュクア・ソメイソン
「やあやあやあ、失礼する」
白馬に乗った華奢な男性が、戦いにはまるで不向きな装いで近づいてくる。
「これはこれはレディ…腰が抜けて動けなくなってしまったのかい?」
「はあ?」
肩までの金髪が風になびき、その度に薔薇の花びらでも舞うかの如きキザな香りがした。
「やれやれ、魔物ばかり相手にしているので最新式の火器に恐れをなして逃げ仰せたのか、スピアリーの男どもは」
「はあ…」
白馬から降りると、やおら私に近づいて「可愛らしい方だ」と言った。
「…貴族令嬢のようだけれど…争いに巻き込まれてしまったのかな?どうしてこんなところにいたのかは聞かない。ここは危険だからお逃げ」
頬へと伸ばされた手をはたき落とした。
「触らないで」
「…これはこれは…。僕は気の強い女性は嫌いじゃない。…そうだなあ、スピアリーに勝利した暁には君のことも貰おうかな」
あわあわと慌てている前線の騎士たちは漸く口を開くことができたらしい。
「へ、陛下!!その女は危険です!離れてください!!」
「危険?君はか弱き乙女を何だと思っているのだね。それに、ヤイレスには最新式の…」
「その女には最新式の銃も大砲も効きません!!」
「何を言っているのだ。今だに魔法だの剣だの槍だので魔物に応戦していた国だぞ。くだらん妄言を言うのなら首を刎ねるぞ」
「陛下ぁあ!!!その女は…勇者・メイリーです!!!」
後ろを向いていた派手な金髪の耳がぴくりと反応する。ゆるやかに、こちらに向き直った。
(この男が…新しいヤイレスの国王。イシュクア・ソメイソン)
「は、はは!!ははははは!!…貴方がメイリー殿か。噂は私の耳にも届いているよ。アレンが執着したという…。どんなゴリラ女かと思ったら…へえ?」
「ヤイレスの新しい国王というのは随分と失礼な方なのですね」
「…悪いことは言わない。降参した方がいい。君がどんなに武術に秀でていたとしても、こちらの武器は質が違うのだよ。パンチやキックでどうにもなるまい?ああ、そのナントカの剣を使うのかな?勇ましいね、くくく…可愛いなぁ」
なんだかとっても馬鹿にされてしまって、拍子抜けしてしまう。私は面白くなって反論する。
「失礼ですが…どんなに素晴らしい武器を持っていたとしても、私には効かない。無意味です」
「…大砲に驚かなかったのは褒めてあげよう。だが、原始人と現代人では、力量差は圧倒的だよ。君以外は既に及び腰らしいじゃないか。見ろ、あんなに後方で行く末を見つめている」
「あのね、それは私一人で十分だと分かったからよ」
「強がりたい気持ちは分かるがね。我々にはまだたくさんの武器があるんだ」
「それってまさかガトリングのことかしら?」
「おや、よく知っているじゃないか」
後方に控えていたイシュクアは、どうやら既に自慢の武器が破られていることを知らない。ヤイレスの騎士たちが恐る恐る手を上げる。
「あのう、陛下」
「なんだね君は、さっきから。本当に首を刎ねて…」
「ガトリングは、既にその女に発射済みです。地面に散らばった弾丸をご覧ください」
「ああ!?」
じゃり、と踏んだ弾丸が全て真っ二つに割れているのを見たイシュクアは「何だ?不良品か?」と言った。
どこまでも舐めていらっしゃる。
「…イシュクア殿、何度も言いますがそんなものスピアリーでは何の脅威にもなりません」
「ふ、強がらなくていい。聞けばシオン殿の奥方なのだろう?奴は妻を最前線に立たせ、慰み者にして良いから侵略は許せということじゃないか。なんと非道な男だ、可哀想に」
「そうね、王太子妃が両軍に挟まれる格好を見れば、普通はそう捉えるかもしれない。けれど、私は違う」
「何が違うのかな?」
「…この争いを終わらせに来た」
ぷっと吹き出したイシュクアは、げらげらと腹を抱えて笑い出した。涙を拭いて、私を見上げる。
「分かった、分かったよ。勇ましい王太子妃様。なら試しに、私にパンチしてみたら良い。ほら」
後方のヤイレス軍は「ちょ!」「やめてください!」「何を…」と騒然とした。前線に立つ彼らは私が普通の女ではないことをとっくに理解しているからだ。
けれど、イシュクアは溢れる微笑みを堪えきれずに口をくにゃくにゃと歪ませている。
右手と左手の手のひらをこちらに示した。そこにパンチしろということだろうか。
彼は目をつぶってうんうんと頷いている。
(…ぽこすかと叩くのを想像しているのだろうけれど)
「お生憎様、私はそんなに可愛げのある女じゃない」
あほの顔で「え?」と言ったイシュクアの左手が思い切り後ろに持って行かれた。
遅れてスパアァアアアン!!!!と気持ちのいい音がする。
「…れ?」
「多分、肩が抜けているわ。お大事に」
「う、うわあああぁぁ!!!いた、痛い!!!痛い!!!!ぎゃああああぁ!!!!」
「五月蝿いわね」
散らばる弾丸を踏む。尻餅をつくイシュクアの目の前に笑顔でしゃがみ込んだ。
「ひっ!!!」
「…これでも手加減するのが大変だったのだから。一応気を使って左手で殴ったけれど、次は利き手で殴りましょうか?」
だらだらだら、とものすごい量の冷や汗が額を伝っている。
「あ、が、ガトリング!!我らには最新の武器が!!!おい!お前ら!!!早く撃て!!!何でもいいからぶっ放せぇ!!!」
「…そんなところにいたら貴方も当たるわよ」
「ひっひぃっ!!!」
尻餅を引き摺りながら、何とか後退している。
(まぬけ…)
手に持った銃や、装填を済ませた大砲やガトリングが一斉に私に向いた。
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