リリエッタ
意識が明瞭になる。
それは、突然のことだった。夢から現実に放り出される。
「メイ、リー!?」
シオン様が両腕で思い切り顔を覆って、その隙間からなんとか私を見ていた。
私から放たれる青い光があまりにも眩しいのだ。
どうしてそうなっているのか分からない。自分ではコントロールできない。
(まさか、この子が!?)
そう思った次の瞬間、鮮明になった意識下で身体が千切られるような痛みが襲ってきた。
「シオン様…!!い、痛い…痛い!!!助け…助けて…あああっっっ!!!!」
「なんなんだ、この光は!!くそっ!!」
息が苦しくて、逃れられない湧き上がるような痛みに、シーツをむちゃくちゃに掴む。
私の手をなんとか探り当てたシオン様が必死に握りしめてくれる。
「シオン様っっ…目が…」
激しい光の中で、その目を庇うのを止め、私をしっかりと抱きしめる。
愛の深さを知って、涙が溢れて止まらない。
「僕の目が潰れようと、そんなもの構わない」
絶叫と血の匂いと、喉の渇き。
初めて味わう恐怖と痛みに何度となく気を失い、目を覚ましては四肢を暴れさせた。
その度に、シオン様は私の手を握り、耳元で励ましてくれる。
(身体が、軋んでいる)
死ぬなら今だろうと思ったほどだ。
産婆の姿を探すと、あまりの眩しさに私から子どもを取り上げることができないらしかった。
腰を抜かして、自分の前後さえわからなくなってしまっているようだ。
「おい!頼む!!早く来てくれ!!」
何度も懇願するが、何しろ前が見えないのだから、首を振るばかりだった。
「〜〜〜っっっ!!!」
深呼吸が聞こえる。腹を括ったらしい。
シオン様は自身の目を犠牲に、私から子どもを取り上げることにしたのだ。
「君は安心してくれていい」
そんな風に言われた気がする。それでやっと力が抜けた。
そこからは、夢と現を行ったり来たりしていた気がする。
それで、どうやらなんとか生まれたらしい子どもは黒髪だった。
(金髪じゃない)
フェンネルが私に告げたのは、やはり夢だったのだろう。
そんなことをぼんやりと思った。
「ああ、お前か。お母さんを散々苦しめたのは。仕方のないやつだ」
ほにゃほにゃの泣き声の向こうから、微かだけれど言いようのないオーラを感じて、私は気を失った。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「全く、回復したから良かったものの、本来だったら目を潰してもおかしくなかったのだぞ」
国王陛下は、さっそく孫娘にデレデレである。
厳しい口調ながら、まだ首の座らないリリエッタを抱いて離さない姿はなんだかとっても可愛かった。
「父上、お陰で可愛い孫娘に会えたのですよ。感謝されても叱られる覚えはありません」
「全く子憎たらしいな。少しはリリエッタを見習え。あー、かわいいのう。目に入れても痛くないというのは本当だな」
シオン様の額にピキッと血管が浮いた。ため息をついて、両手を差し出す。
「今日は公爵邸で初めてメイリーの両親にリリエッタをお披露目するのです。そろそろ返していただけますか」
「ならん!儂も行く!!」
「失礼ですが、父上の腕は不安です」
「左がない分、右でしっかり持っとるわい!!」
(私が支えてるんだけどね…)
たはは、と笑って陛下を見る。
人はこんなにも変わるものだろうか。国王陛下としての威厳がなくなったわけではないが、雰囲気が柔和になった。言葉選びが変わった。
「リリエッタたんの行くところ、じいじは全部行く!」
「わがまま言うんじゃないですよ!」
(どっちが親なのかしら…)
変わったと言えば、シオン様の瞳の色だ。
琥珀色だった瞳は、青い光を受けて碧眼になったのだ。それは、回復しても変わることはなかった。
ぎゃいぎゃいと言い合う国王と王太子は、本当の意味で初めて親子の絆が結ばれたように見えた。
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