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ポーションもないはずの村

 二日ほど寝込んでいたので、随分と足止めを食ってしまった。


 ぐう、とお腹が鳴る。

 ここへきて初めての空腹感。自分の身体の素直な反応が嬉しかった。


 時折レントやディエゴがパン粥を持って来てくれたが、もう自分で食堂まで行けるだろう。

 まだ少しふらつくのは空腹のせいだろうか。

 軽快とまではいかないまでも、階段の上り下りくらいは何ともない。

 ほっと胸を撫で下ろした。


 下から談笑の声が聞こえてくる。


(レントとディエゴと…ラピ、様)


「ははは!そうなんだ、それでさ……あっ…」


 ディエゴが私に気付き、一気に視線がこちらに向いた。背筋が伸びる。


「ご迷惑をお掛けしました。お陰でこの通り、回復しました」


 ぺこり、と頭を下げる。

 良かった、これでまた前に進むことができる、そんなふうに思った時、思いがけない言葉がぶつけられた。


「…メイリーちゃんさぁ、ラピちゃんは君のことを回復したくないんだから、気をつけてくれないと。ここで三日も足止めを食らったんだよ?」

「本当にその通りだ。良い迷惑だな」


 何を、言われているのだろうか。私は頭を下げ続けるしかなかった。


「もう良いわよ。森の中を歩くより快適だったしぃ。野宿よりマシだもの。そうそう、今日もみんなで飲みましょう?」

「勿論だよ」

「フリックにも声をかけておこう」


 床を見つめる私の視線に、華奢な靴が映る。ラピだ。

 耳元で甲高い声が響いた。


「良かったわねぇ、死ななくて」


 ルン、と鼻歌混じりに輪の中に戻って行った。


(私が…ポーションばかりに気を取られて、解毒薬を持っていなかったのがいけなかったのだわ…もっと念入りに装備を…)


「邪魔だ。どいてくれないか」


 振り向くと、階段を降りて来たフリックが目線も合わせずに私を押し退けた。


「ご、ごめんなさ…」


 私をチラッと見ると、そのままラピ達の元へ行ってしまった。


「フリック、ラピちゃんがこの後酒場に行こうって」

「メイリーが回復したなら出立したほうが良いんじゃないか?」

「次の街まで山を二つ越えないといけないんだ。あと一泊しようぜ」

「それもそうだな」


 私はパンと頰肉煮込みを頼むと、楽しそうな会話を横目に離れた席に座った。


(籠手、新調しなくちゃ…)


 もそもそと味気ない食事を済ませて、一人ショップに向かった。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 ショップの扉を開けると、軽いベルの音が響く。


「いらっしゃいませーー!…ん?なんだあ、女じゃん」


 見ればまだ幼い少年が店番をしている。


「こんにちは。籠手を探しているのだけれど、見せてもらえないかしら?」


 しかし、少年は私を下から上に品定めしている。


「お姉ちゃん、本当に冒険者?」

「?そうよ」

「ふうん。籠手ならそこに置いてあるだろ?ウチにあるのはそれだけだ」


 見ればそれは革製のグローブだった。

(皮か…防御力がかなり劣るわね…)


「これ以外には…ない?」

「ない」


(困ったわね…ないよりマシ?うーん…)


 カツカツ…カツカツ…


 見れば、少年は小刻みに震えている。それを誤魔化すように小銭でカツカツと会計台を叩いていた。


(?)


 私が視線を向けると、両手を握りしめて会計台の下に隠した。


「…ねえ、先日この村に立ち寄った時、ここのショップにはポーションもないと聞いたわ。あれはキミのお父さん?」

「だから何?買うならさっさと…」

「キミ、ちょっとこのグローブを試してみたいんだけど、革紐を結んでくれない?」

「えっ…」

「一人じゃ結べないわ」


 少年は目を泳がせてから、恐る恐るこちらに歩んで来た。

 震える手でグローブを取ったのを見て、私は少年の腕を掴んで一気に引き寄せた。


「!?」


 素早く私の後ろに隠すと、奥の扉を足で蹴り破る。


「あっ!うわっ…っっ!!!」


 少年は私の後ろで尻餅をついている。

 先日、ポーションはないと言っていた男がゆらりと姿を現した。手にはしっかり斧が握られている。


「おうおうおう、何だお前。また来たのか。あーあ、どうしてくれるんだ、この扉ッッッ!!!」


 斧を振り下ろしたので、私はそれを紙一重で躱わし、勢い余って床に突き刺さった斧に飛び乗った。

 膝のバネを最大限活かして、ムーンサルトをお見舞いする。

 顎に思い切り食らった男は、目を回して昏倒した。

 すぐさま商品棚にあった縄でぐるぐるに縛り付ける。


 奥を覗くと、少年の両親と思われる二人が猿轡をされた上に縛り上げられていた。


「お父さん!お母さん!」


 少年が二人に抱きついた。

 二人の猿轡を取り、縄を解く。


「た、助かりました…ありがとうございます…」

「何とお礼を言って良いやら…」


 少年に水を持ってくるようお願いする。

 二人は呷るように水を飲み干した。


「あいつは、盗賊なのです…うちの金品だけではなく、この村に来た旅人を襲っては、山に捨てるという事を繰り返していました」

「そうだったのですか」

「な、何かお礼を…」

「お礼など…」と言いかけてそうだ、と思いつく。


「その、できればいい籠手とポーション、それから解毒薬を売って欲しいのです」

店主は「それなら!」と手を叩いて、奥から持ち出して来た箱を差し出した。


「これは?」

「我が家に伝わる、オリハルコンの籠手です」

「オリハルコンの籠手!?も、持ち合わせが…」

「いいえ。お金は頂けません」

「そういうわけには…」

「これに値段はつけられません。そしてまた、あなたも値段のつけられない行いによって我々を救ってくださった。この籠手は、貴方にこそ相応しいでしょう」


 私の手を取って、その籠手を持たせてくれた。

 ニッと微笑んだその顔に負けて、私はその籠手を譲ってもらうことにした。


 それから、ポーションと解毒薬だけは半ば強引にお金を受け取って貰い、気を失っている強盗を肩に担いで山に捨てに行くことにした。


 ショップを後にした時、背中から家族の微笑ましい会話が聞こえて来た。


「貴方、なんだか嬉しそうね」

「まあな!」

「お姉ちゃんかっこいいね」

「本当にね」


 私は久しぶりに少しだけ笑って、手をひらひらと振った。

 気絶した大の男を担ぐのは少々手こずったけれど、山の中に分け入り、盗賊を木の根元に括り付けた。


「…ん?…いてててて…」

「あら気がついた?」

「おい、何してんだよ…おい!縄を解け!」

「散々同じ事をして来たのでしょう?自分に返って来ただけだわ。自業自得って言葉をご存知?よし、しっかり結べた!じゃあ、私はこれで」

「おい!!解いて…解いてくれ!!!!た、頼む!」

「あんまり大声を出すと、魔物が寄ってくるわよ」

「ひっ…!!!」

「例え生き延びたとしても、金輪際あの村には近づかないことね。さよなら、幸運を祈るわ」

「ま、待て…待ってくれ…」


 私は元来た道を戻る。日暮前だったのが幸いして、魔物に遭遇することなく、村へ戻って来れた。

 ほっとする。まだ身体が完全に回復していないからだ。


 村の入り口には、フリックが立っていた。

 すれ違いざま、腕を掴まれる。


「何をしていた」

「貴方が気にするほどのことではないわ」

「勝手な行動は控えろ」

「ご心配ありがとう。安心して、もう宿に戻るから」

「……」


 新調した籠手をじっと見ている。私はその手を振り解いた。


(いけない、気持ちに漣が立ってる)


「フリック、迷惑をかけてごめんね。本当に、ありがとう」

「っ……」


 ねえ、何て顔をしているの、フリック。

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