第8話 イベント開催決定
覆面を着けた声優さんの周りで起きる話です。
舞台は異世界なので、実際の現場と違うとか言わないで下さいm(_ _)m
事務所の会議室にて
四人の男女が集まっていた。
「なんで、うちの事務所っていちいち呼び出すのかね。」
〇野が愚痴をこぼす。
「メールで済ませば良いッスよね。」
良川が相槌を打つ。
「社長が直接話す方が思いが伝わるっていってたよ。本当はメールが面倒臭いからだと思うけど。」
覆面声優Aが答える。
「でも社長に直接言われると納得すること多いんですよ。」
福田が経験を伝える。
「里美は改名断ってたじゃん。納得してなくない?」
覆面声優は企画の初期に、福田だけ断れたことを少し恨んでいたので、拗ねた声で問い詰める。
「さすがにアレに納得なんて、普通できないと思いません?」
同情を誘うように返す福田。
〇野はその会話で女装した社長との会話を思い出す。
(社長が女の子に見えるなんて、本当に魔法としか考えられないから、社長がマインドコントロールとかしてるのかもな、怖いな。)
社長が入ってきて話を始める。
「各自選曲は明日までに決めといてね~、よろしく~。」
集まった四人にそう告げる社長。
「開口一番で、何言ってるんだかさっぱり分かりませんが、社長。」
〇野が指摘する。
「何言ってるの、1週間前にメールで指示したでしょ~。」
「……あっ、そうっスね。すみません忘れてました。」
良川が少し間を空けてから謝罪する。
(あっ!これマインドコントロール、いや記憶改変だ!俺は絶対受け取ってない。魔法使い怖ぇな。)
〇野は社長に対する警戒心を強める。
「あ~、〇野君には送ってないから~、ごめんね~、忘れちゃった~。」
(なんだ、違うのか。疑い過ぎた。)
「……ちゃんと、俺にも分かるように説明してくださいよ。」
落ち着くために一呼吸おいてから話始める〇野。
「じゃ~、おさらい兼ねて説明するね~。『風呂敷戦記』のイベントが決まりました~。新オープニング曲の発表があります~。その曲もイベント台本もクソなので~、皆が歌って間を持たせます~。歌いたい曲選んでね~。歌う曲は配信もあるからレコーディングもするよ~。」
社長の雑な説明が始まる。
「なんかメールと話が違う気がしますけど。」
福田が言うと。
「チッ、掛かりが甘いな。能力者か?」
一番近い〇野にだけ小さな声が聞こえた。
(あー、やっぱり記憶改変だよコレ、さっきのは俺に魔法が効かないから誤魔化しただけだよ。怖いよ、人が信じられなくなるよ。)
「じゃ~、詳しく説明するね~。コネで企画通した馬鹿が余った金でオリジナル曲作って~、オープニングに採用するようにゴリ押ししてきて~、」
「いや、そういった裏話は聞きたくないんですけど。」
出来事の裏側から話し始める社長の言葉を遮る〇野。
「〇野君はこういった~、会話の潤滑剤みたいな話が嫌いだよね~。だからソースコードにコメント入れないで周りに迷惑かけるんだよ~。」
「決めつけないでください。(当たってるけど)」
〇野の前職はプログラマーだった。
「そういう訳でスケジュール調整は明日までにしておくから、選曲結果はこの紙に書いて渡してくれても、後でメールでも良いよ。」
〇野の言葉の直後に、説明が終了した前提で話を続ける社長。
「えっ?(説明されてない。)」
(〇野君は記憶のインストールにも耐性があるみたいだから、あとで社長室来て。注意事項も含めて説明するから。)
〇野の脳内に社長の声が響く。
「うわっ!(なんだこれ!)」
(〇野君黙って!テレパシーとか伝心話法とか呼ぶやつだよ)
記入用紙をおいて出ていく社長。
「どうしたんスか?」
「いや、大丈夫。(どんどん常識が崩れていくな。)」
「そうッスか?病院は早めに行った方が良いですよ。」
〇野の体調を心配する良川。
「本当に大丈夫だから。あ、良川君もう書いたのそれ。」
良川の持つ用紙を指さして言う〇野。
「こういうの後回しにするの気持ち悪いんスよ。でも、好きな曲って年代で違いますよね、今回だと何が受けるんスかね、〇野さん気を付けないと『以外にオッサンなんだ』って思われちゃいますよ。」
見た目や会話の印象とは異なり、実は客層など戦略的な事も考えて行動するタイプの良川は、〇野の選曲に助言をする。
その言葉を聞いた覆面声優Aは
「あっぶ……」
独り言を言いかけてやめ、用紙を握り潰す。
「私、先帰るね。」
手を振りながら部屋を出ていく覆面声優A。
「何書いたんですかね。」
「里美さん、そこは気付かないふりしてあげないと、ね。」
つづく




