第5話 七色の声
覆面を着けた声優さんの周りで起きる話です。
舞台は異世界なので、実際の現場と違うとか言わないで下さいm(_ _)m
収録現場にて
◯野は目の前に居る人物を見て思った。
(目覚めている時の悪夢って始めて見た。)
そこに居るのは、覆面を着け、ミニスカートを履いた、女性、ではなく小太りのオッサン。覆面からはチョビ髭も見えている。
◯野の事務所の社長だ。
「社長なに……」
言い終わる前に『覆面』をした社長に腕を引かれスタジオの隅に連れられる◯野。
「私が社長に見えると?」
普段とは違う口調に緊張する◯野。
「社長以外の誰に見えると言うんですか?」
「フム~、そうですか〜。」
「何で覆面なんですか、いや、それ以上に何でミニスカート履いてるんですか?しかも生足で。」
「ウム~、そうか~、そういうことですか〜。」
チョビヒゲを触りながらうなずく社長。
「だから、何なんですか。」
すると、社長は◯野に向かい普段とは違う口調で話し始める。
「今から私が話す事は、君の今後の人生に大いに役立つことだろう。」
(……なんか非常にヤバそう。この変態から逃げるには転職考えないといかんかなー。)
「いいかい、君は幻覚魔法に耐性がある。」
(は???)
「何言ってるんだって顔だね。君は魔法なんてこの世に無いと思っているだろうが、それは違う。君が認識しているものとは異なる法則がこの世を支配しているのだよ。」
※この作品の舞台は異世界です。
※この作品の舞台は異世界です。
「いやいや、そんな訳ないじゃないですか。」
「それにしても、私の超絶技巧魔道具作製スキルで作った認識阻害覆面の幻覚魔法が効かないとはね。私達が既に魔王を倒していなければ、君が勇者に成っていたかもしれないね。」
「何の台本のセリフですかそれ。」
「君は幻覚魔法意外にも耐性を持っている可能性が有るのだよ、それは今の世ならば魔王になる事さえ……」
真剣な口調で語り始める社長。
「フクちゃん、そろそろ収録始まるよ。」
スタッフが覆面声優に声をかける。
「あ、ハイ。」
高い声で返事をする社長。
「可愛く『あ、ハイ』じゃねーよ。」
ツッコむ◯野。
「君、終わったら話有るから待機ね。社長命令。」
「……あ、ハイ。」
普段の口調と違う社長の言葉にビビり、可愛く言ってみる◯野。
収録後。
「何処まで話したっけ〜。」
社長の口調は戻っていた。
「社長が魔王を倒したとかナントカ。」
少し安心する◯野。
「そうそう、魔王については詳しく話せないけど、君は本当に私がおっさんに見えるのかい?」
「いや、なに言ってるんですか、どう見ても……あっ!」
以前事務所で話した時に、良川が覆面声優の正体に気付かなかった事を思い出す○野。
「えぇぇ!本当に魔法なんですか?」
驚き過ぎて漫画のように両手を上げる◯野。
「そうだよ~。凄いでしょ~。」
胸を張る社長。
「それと社長の女装に何の関係が?」
「服装には幻覚魔法の効果が弱いから~、スーツを着るわけにはいかないんだよ~。」
社長の回答が理解できない◯野。
「本人は、何してるんですか。」
(「それでミニスカにする意味は?」って聞きたいけど、話が長くなるから止めた方が良いな。)
少し話題を変える◯野。
「今日は休みだよ~。」
「病気かなんかですか?」
「いや~、彼女が子供からオッサンまで~、七色の声を持つ実力派って売り文句にして~、宣伝用のオッサンの声は~、私が声当てといたら~、私が担当する予定でできなくなっちゃった~、キャラの代役が回ってきちゃって~、さすがにこんな低音出ないから私がきたんだよ~。」
かなり異常な経緯を話す社長。
「ん?それ、社長本人として来れば良いのでは?今居るんですから。」
経緯に疑問を感じた◯野。
「この私はドッペルゲンガーだよ~、今日は究極破壊魔法を勇者に教えてるからさ~、ここに来れないうえに魔力残量が厳しいから~、覆面の幻覚魔法が必要なんだよ~。」
「えっと、もう訳分かりません。お疲れ様でしたっ!」
現実とは思えない状況に混乱した〇野は、その場を逃げ出したくなりダッシュで帰っていった。
つづく




