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私の旦那様はとんでもなくおかしい4

「じゃあ一瞬!ちょっとでいいから付けて!?そしたらこの良さがわかるはずだから!」

「じゃあって何よ!っていうか何なのよコレ!すごく嫌な気配がするから絶対いやよ!」


大層不快で嫌な気配がする()()()()()を払い除けようとしたが、無駄に運動神経の良いコーリーによって軽々と避けられてしまった。


「そんなことないよ!これは……簡単に言えば、相手の奴隷になれる魔法具だよ!名付けて愛の手枷!」

「はぁ!?」


ネーミングセンスが最悪だ。だがそれ以上に効能が気持ち悪い。


「凄まじく違法な気配がするんだけど!?」


胡散臭い笑顔をキメる美貌に、ドン引き丸出しの眼差しを向ける。するとコーリーは、やけに稚い純粋そうな顔つきで「とんでもない!」と首を振った。怪しすぎる。


「そんなことないよ!これはあくまでもお遊び用のもの!奴隷と主人ごっこのための小道具さ!お互いがお互いの奴隷になれるよう、ちゃんと主従交代機能もついた優れものだよ?」

「何を言っているか理解できないのだけど?さっさと破壊してもらえるかしら?私の目の前で」

「くっ……手強い……だがそこがいい……!」

「純粋に気持ち悪いわねあなた」


頬を染めて悶えている夫を私は台所で見かけた鼠に向けるような目を向けた。つまりバリバリに殺意が宿った目だ。


「とりあえず私は自室に戻らせてもらうわ、夕飯までに頭に咲いてる花をむしり取っておいてね」

「それは無理かなぁ、カミラといると僕は常に常春の楽園にいるような気分なんだもの」

「くっ……」


あっさりと返された台詞に、私は思わず足を止める。


「……よくもまぁそんな恥ずかしい台詞を平然と吐けるわね!?」

「単なる事実を述べただけだからね」

「うっ」

「何を今更戸惑っているんだい?」


呻く私を前に、コーリーはキョトンと不思議そうに首を傾げている。


「いつも言ってるじゃないか。君と出会ってから僕の毎日は輝いているし、世界は常に薔薇色さ!君が僕の伴侶であるというこの奇跡についてだけは、さすがの僕も神や運命とやらの存在を信じずにはいられないよ!君と出逢わせてくれたことだけは、君がよく言う()()とやらに感謝しているね!」

「ぅううッ」

「この十年、僕が君以外のモノに関心を向けたことは一度もないよ?何度も言ってるじゃないか、僕は心から君を愛しているし、僕の世界は君が全てだよ!今生だけでは飽き足らず、何度輪廻を重ねても未来永劫離れたくないほどに、僕は魂から君を求めているんだよ」

「うううぁあああ!?」


私は思わず顔を覆ってその場にしゃがみこんだ。無駄に付き合いが長すぎて、この胡散臭い大言壮語な愛の言葉が、まるっとすべて掛け値なしの本音だと分かってしまうのが辛い。


こいつの本音、本当に殺傷能力が強い。

だから。


「ねぇ、お願いだよ。君に恋しておかしくなってしまったこの哀れな男に、ちょっとばかりの慈悲を与えてくれないか?」

「…………あーもう!仕方ないわね!ちょっとだけよ!?」


だから、つい。

うっかり絆されてしまったのだ。


「ありがとう!!愛しているよカミラ!」


そう言って飛びついてきたコーリーが、カチャリと私の腕に()()()()とやらを装着する。その瞬間。


「は!?え!?なにこれ!?」


体全体に薄い膜が張ったような感覚に襲われる。



「きもちわるいっ!」


己の神経制御を奪われたような、明らかな状態異常に対する危機感と恐怖に、私は咄嗟に己に浄化魔法をかけた。しかし。


「ははっ、無駄だよー。ソレ、解除条件が設定されてる呪具的な魔道具だから」

「はぁ!?」


コーリーはとってもイイ笑顔で私に告げた。


「お互いが心から『私はあなたの奴隷です』って思わないと外れないから、今日は一日なりきって遊ぼうね!」

「…………いやぁあああああッ嘘でしょおおおおお!?」


大昔の宗教画でしか見ないような奴隷服を片手に、恐ろしい言葉が放たれる。奴隷服は二着あった。二人で交互にやるつもりだ。


「馬鹿なこと言ってないで、さっさとこれ外せぇええええッ」


真っ青な顔で絶叫するも、私は理解していた。コレは本当に外れないやつだ、と。







「先に僕が奴隷をやるね!……呼び方は奥様が良い?ご主人様がいい?」

「どっちも嫌よ!」

「じゃあ女王様にするね!」

「悪化した!!」


奴隷服をきたコーリーは、そっと地べたに膝をつく。剥き出しの素足が硬い床に触れて痛そうだが、とても楽しそうだ。そしてやけに見栄えがいい。奴隷服なのに。


「……ほんっとうに、アンタは神様に依怙贔屓されたような顔面よね!」


こういう宗教画、大神殿にあった。神の愛し子が奴隷とされ虐げられていたところに、光が降り注いで天使が迎えに来る、みたいなやつ。


「宗教画の具現みたいな顔して、脳みそ沸いてんのよねぇ」

「お叱り嬉しゅうございます、僕の女王様」

「うわぁ……」


気づけばコーリーは私の靴を脱がせて、ついでに靴下も脱がせて、勝手に足の爪に口付けている。ノリノリすぎて引く。


「悪趣味すぎるッ」

「えぇ?こんなの、まだ序の口だよ?」

「ふざけるな!早く終われー!!」


ブチ切れた私が叫ぶと、コーリーはさも残念そうにため息をついた。


「仕方ないかぁ……ねぇ、僕の女王様。僕はどんな目に遭わされたって、いついつまでも喜んで、あなたの奴隷であり続けますからね」

「気色悪ッ」


妙な宣誓に私がゾッと震え上がり両腕の鳥肌をさすっていると。


カチッ


「ん?」


妙なスイッチ音がした。


「え?何?」

「はい、交代」

「は?」


あっさり立ち上がったコーリーが、奴隷服を脱ぎ始める。そしてポイと女物の奴隷服を渡された。意味がわからなくて戸惑っていると、コーリーが不思議そうに首を傾げた。


「だから、次はカミラが奴隷だよ?早くって言うから交代してあげたのに」

「何言ってんの?」


とんでもなく余計なことを言ってしまったのではないかという気がして、たらりと背中を冷や汗が伝う。

そんな私の焦燥など知らぬげに、コーリーは楽しそうに言い放った。


「カミラが僕の奴隷だと認めるまで、そしてそう言葉で宣言してくれるまで、ごっこ遊びを楽しもうねっ」

「いやぁああああアッ!」


明後日は仕事なのにどうするんだと机に突っ伏した私に、コーリーはやけに自信に満ちた満面の笑顔を見せた。


「大丈夫!明日中には仕上げてあげるから!」

「仕上げる!?仕上げるって何よ!?」


ぞっとしない言葉に私は頬をひくつかせる。本当に予想以上にやばいことばかりしでかす夫を持って悲惨すぎる。こんな不運な人生、前世で何の罪を犯したのだろうか。


「こんなことばっかで、もう嫌!!早く離婚したぁああああいッ」

「そんなこと言っちゃダメでしょ、可愛い奴隷ちゃん?反省のポーズして?」

「ぬぁ!?」


急に全身が魔力で包まれ、私の体は勝手に地べたに這いつくばった。


「酷いこと言ってごめんなさいは?」

「はぁ!?何を、ぬっ、……ひっど、いこと、いってご、めんなさ、いっじゃないわふざけんなッ」

「うーん、さすがカミラ。隷属魔法にわりと逆らえちゃうなぁ」


感心したような言い方だが、隷属魔法だと!?


「バリバリ違法魔法じゃないのよぉおおお!」

「家庭内で楽しむだけなら大丈夫だよ!」


心底楽しそうにこの()()()()()を満喫している夫に、私は髪を逆立てんばかりに激怒した。


「楽しいのはお前だけだぁあああー!!」







「始まりましたねぇ」


カミラの絶叫とともに、使用人たちは夫婦の部屋の鍵を外から閉める。そして公爵様から渡されている、強力な守護魔法がかけられた護符を部屋の外にかけた。


「お二人の夫婦喧嘩でお屋敷が壊れたら大変ですからね」


ぽつりと呟いて、使用人たちはそっと祈りつつ、本日の持ち場へと移動を開始した。


今日も今日とて、コーリーとカミラの屋敷では、とんでもない休日が始まるのであった。


書き忘れているネタはなさそうなので、ひとまずこれにて完結です。

お付き合い頂きありがとうございました!

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