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私の旦那様はとんでもなくおかしい3

「あーはっはっはっはっは!面白い冗談だこと!」


キラキラ瞳を輝かせながら確信に満ちた顔つきで言い切った夫に、私はやけっぱちの高笑いを放った。


「だけれど残念ね、あなたが何故そう思ったのかが、私には全くわからないわ!」


眉間に深い皺を五本ほど刻み、ぴくぴくと頬を痙攣させながら言い返す。


「あなたの頭の中の私は物凄く寛容か、もしくは物凄く頭が緩いかどちらかのようだけれど!私は恐ろしく狭量で、ついで道徳心も倫理観も趣味嗜好も真っ当で極めて常識的な人間なのよ!コーリーみたいにあらゆる面において変態を極めてる人間と一緒にしないでちょうだい!」


ビシッと人差し指を突きつけて宣告したが、コーリーは妙に生ぬるい笑みを浮かべて首を振った。


「そんなことはないと思うよ?安心して、カミラは十分に非常識でぶっ飛んでるよ」

「はぁ!?」


いっそ慈愛に満ちたと言っても良いような優しい顔で、何一つ安心できる要素がない台詞を吐かれ、私はまた眉間の皺を増やした。私が早く老けたら絶対にコーリーのせいだ。


「アンタにだけは絶対言われたくないわよ!!」

「まぁ確かに……?……いや、自覚があるだけ、僕の方がマシな気すらするけどね」

「なんか言った!?」

「いや、何も」


憤然と言い放つ私に、コーリーは小さな声で何やらぼそりと呟いた。絶対悪口を言ったに違いない。卑怯である。


「ふんっ、もう知らないわ。せっかくの休日だってのに、喧嘩売ってくるだけなら私は部屋に引っ込むわよ!」


喧嘩しながらも、途中からは自らの席に戻って食事を続けていた私は、食後の紅茶を一気飲みすると荒々しく立ち上がった。


「じゃ、また夕食に」

「ちょちょちょちょっと待って!?せっかくの夫婦の休日だよ!?愛を確かめ合い深め合うべきだよね!?」

「馬鹿旦那と話していたら、すっかりそんな気はなくなったわ」

「そんなぁ!?」


私だって当初はイチャイチャしつつ二人でダラダラと過ごすのもアリだなと思っていなかったわけではない。だが最早そんな気分は消え去った。このポンコツ愚夫から早急に距離を置きたい気持ちでいっぱいだ。


「ろくなことがなさそうだから失礼するわ」

「待って!?せ、せめてこれだけでも見てよ!せっかく準備したんだから!」

「は?……これ、なに」

「もちろん、()()()のための小道具さ!」

「はぁああああ!?」


ということで、冒頭に戻る。


「さぁ!試しに付けてみてくれ!」

「意味わかんないわよ絶対に嫌!!」

「そこをなんとか!頼むよ!夫の夢を叶えると思って!」

「妻の悪夢の代わりに叶える夢なんか捨ててしまえ!」


睨み合う私たちの間に鎮座しているのは奇妙なデザインの腕輪が二つ。二つだ。


「これが小道具?いや、魔道具?何で輪っかなのよ?」


この腕輪、手枷みたいで気分が悪い。製作者の趣味を疑う。

そう思いながら問い返せば、コーリーは意気揚々と口を開いた。


「良いだろう!?このデザインは、僕個人の趣味嗜好というかね!視覚的に得られる快楽が大きいと思ってチョイスしたんだ!」

「……えぇ?」


輪っかの形状から視覚的快楽を得るとはまた高度な、さすがコーリーというべきか。


「輪っかが?完全な円に欲情するタイプなの?変態数学者にでもなれば?」

「ちがうよ!!」


気味が悪そうな気持ちは隠さず、夫に今後の進路について助言すれば、コーリーは不服げに否定した。


「この形、いかにも拘束されてるって感じじゃない?それに円は永遠って感じがするでしょう?つまり、永久に君を拘束したいっていう僕のピュアな恋心だよ!」

「シンプルにものすごく気持ち悪いッ!」

「ひどい」


思わず己の体を抱きしめながら絶叫してしまった。普通に鳥肌がたっている。夫からの愛の言葉のはずなのに、とてつもなく危険で悍ましい気配を感じたのだ。このポンコツ本当に気持ち悪い。


「ひどくないわよこんな趣味の悪いモノどこから買ってきたのよ!返してらっしゃい」

「いや、僕が作った」

「は?…………ちょっと待って」


私の怒号を受けてコーリーがあっさりと返した一言に、思わず思考が停止した。待て、待ってくれ。


()()全部、コーリーお手製なの!?」


先ほどとは違う恐怖に絶叫する。嘘でしょ、この全然魔力回路が読めない遺跡から発掘される謎の魔法具みたいなヤツ、全部コーリーが作ったの!?……いつの間に!?私に仕事押し付けていたくせに!?こんなものを作ってたの!?は!?重罪では!?


「君の体につけるものを僕がその辺で購入するわけがないだろう?」

「相変わらずコーリーは本当にきもちわるいわね!あらゆる意味で最低よ!!この変態!」


心の底から罵る私に、コーリーはなぜか嬉しそうにはにかんだ。


「変態だなんて……お褒めにあずかり光栄だな!僕は死ぬまで、カミラ専属の変態だよ」

「褒めてない!照れるな!頬染めるな!言動と外見を一致させろ!」


あぁ、失敗した。結婚前に、屑旦那の始末の仕方を殺し屋に習っておくべきだった……。いや、変態旦那の調教術を特殊娼館のお姉様方に師事しておくべきだったのか……。それとも諜報部隊に伝手を作って、危険人物を無害化する洗脳方法を学ぶべきだったのか……。

心の中で激しく過去を後悔していると、コーリーが私の足元に跪き、まるで求婚するかのような恭しさで一つの魔道具を差し出してきた。


「さぁ、分かっただろう、僕の本気が!……頼む!頼むよカミラ、どうかこれを付けてくれ!」


そう言って手渡されたのは、いかにも()()といった風体の腕輪。


「嫌に決まってんでしょ倫理観狂ってんの!?」


この流れで付けるわけないのに何故そんなに自信満々で差し出せるのか。我が夫ながら本当に理解できない。


「君に狂った哀れな男の頼みだよ!?」


目を潤ませて今にも泣き出さんばかりのコーリーは、あたかも人間の愚かさに悲しみ嘆く宗教画の天使のようである。だが、まるで被害者のような振る舞いはやめろ。どう考えてもお前が加害者だ!


「アンタみたいな男に捕まった私の方が哀れよ!!」


あーー!!

本当に心底、今すぐこのポンコツと離婚したい!!



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