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私の旦那様はとんでもなくおかしい2

「まぁ仮に、王太子ご夫妻がたとえこの国一番のラブラブ夫婦だったとしても!相手の言うことを全部丸呑みできるって訳じゃないのよ」


オヨヨと泣き崩れている馬鹿夫を仁王立ちで見下ろしながら、私は懇々と説教を続けた。今後同じ過ちを二度も三度も四度も五度も起こさないためだ。


「それなのに夢薔薇のリスクを説明せずに渡すなんて、大間違いよ?本っっ当に馬鹿じゃないの!?」


私がカンカンに怒っているのに、コーリーは膝を抱えて不貞腐れたように私を見上げた。そしてフンと顔を背けて口を尖らせた。


「まぁでも、王太子はきっと昨夜使ったろうし、もう遅いよ」

「あああああっ!!神よ王太子殿下の股間をお守りください!」


思わず膝をついて手を合わせて神に祈ってしまった私に、諸悪の根源はケラケラと笑いながら首を振った。


「神様ねぇ、たとえ神様がいたとしてもそんな変な()()守ってくれないと思うよ」

「黙んなさい元凶が!神よ、この天才のくせに死ぬほどポンコツな男から王太子殿下の股間をお守りください!!」


私は改めて床に額ずいて神に祈った。王太子殿下の股間に、今もきちんとスティック一本とボールが二個付いておりますように!頼む、王室の未来がかかっているのだ!わりとガチで。


「まぁまぁ、そんな心配しなくても!奥さんのエイダ嬢は、なんでか分かんないけど王太子のことを盲愛してるから大丈夫だよ」


ニコニコしながら私を宥める男に、私は頭を掻きむしって喚く。本当に納得できない、なんで神はこの頭のおかしい男に才能だけでなく権力と財力も与えてしまったのか!


「殿下にも妃殿下にも失礼よ言葉を慎みなさい!そして何度も何度も言ったけど、愛してるからと言って全て受け入れられる訳ではないの!」


今後は夢薔薇には、被術者が術者の願いを本心から嫌がっている場合は術返しされるように設定しよう。被術者の本心が丸出しになるけどまぁ無理矢理プレイになるよりはマシだろう。あと私には効かないように設定しよう。……コーリーに解呪できないような魔法って可能かしら。呪術と霊術を組み合わせればいける?


「たしかになぁ……」


私が内心でそんなことを考えていると知らないコーリーは、不満げな納得顔で私を見て呟いた。


「カミラ、僕のことを愛しているはずなのに、僕のお願いはいつも拒否するもんねぇ」

「……チッ」


僕は悲しいよ、と呟くコーリーに、私は完全にカチンとくる。そして反射的に、これまでなされたコーリーの()()()の内容を瞬時に思い出し、思わず行儀悪く舌打ちしてしまった。


「あ〜の〜ねぇ〜?」


顔だけは天の遣いのように秀麗なのに、内面は魔の眷属としか思えない己の夫を睨んで、私は目を見開いて吐き捨てた。


「コーリーが許容範囲()のオネダリばっかりするからでしょ!この頓珍漢の非常識男がっ!」

「でも今回のは違うよ!?絶対カミラも気にいるから!!」

「やっぱり今日も何かあるのか!」


そんな気がしていたと、内心でうんざりと毒づきながらあからさまにため息をつく。しかしコーリーは気にする様子も欠片もない。いそいそと近くにやってきて、私の目の前に指南書のページを開いてみせた。この変態め。


「ここ読んで!役者ごっこの項……これやりたいんだ!」

「いやよ!」

「嫌じゃないって、きっとカミラも気にいるよ!」

「んなわけないでしょっ!」


案の定とんてもない()()()をしてきた。私は即座に切り捨てたが、コーリーは目を輝かせながらグイグイと迫ってくる。


「それに、これは倦怠期で飽きてしまうことによる浮気の防止に良いらしいんだよ!カミラは飽きっぽいから、僕は飽きられるんじゃないかと常々心配なんだ!哀れな夫の頼みを聞いてくれないか?」

「聞き捨てならないわね!誰が飽きっぽいって言うのよ!」

「カミラだよ!気に入っていた服やアクセサリーも、すぐに中古商に売っちゃうだろう!?」

「うっ」


その通りだが、それにはきちんと理由があるのだ。


「だって中古商ってば掘り出し物ばっかりなんだもの!良い古書や何に使うのか謎な魔道具とか見つけると欲しくなっちゃうんだもの!だから代わりに売ってるだけで、別に飽きてる訳じゃないわ!」

「普通に買い足せば良いじゃないか!」


その通りだが、趣味嗜好に金を使うのは堅実に育った私の金銭感覚が許さないのだ。だから欲しいものがあるときは、手持ちのものを売って、その分のお金を手に入れて買うのだ。理にかなっているじゃないか。


「僕があげたネックレスを売ったの、忘れてないからね!」

「死ぬほど不愉快な思い出があるから仕方ないでしょうがッ!」

「愛のメモリーなのに!?」

「ストーカー用魔道具でしょうが!」


このポンコツ夫め、アンタは己の記憶を改竄しすぎだ!


「位置情報発信魔法付きのネックレスの何が悪いのさ!?」

「全部よ!アレを見るたびに過去の悪夢が蘇って夫に対する憎しみが増すから売っぱらったのよ!」

「そんなぁあああ!?何がそんなに嫌だったんだ!?」

「言わないわよっ!思い出したくもないっ!」


そう、あれは思い出したくもない黒歴史だ。

ケーキを食べ過ぎてお腹を壊した私は、厠滞在時間が長すぎると心配したコーリーにドアの外から三十分声をかけられ続けられるという、淑女にはあるまじき恥辱を受けたのだ。あれは歴代のコーリーの()()()()の中でもかなり上位を争う最悪っぷりだった。

なお当然だが、売り払う前に魔法は解除してある。まぁ、一人暮らしのご老人には使い方によっては安心な魔法かもしれないと思ったので、今後改良してあの魔法を使う可能性はあるが、そんな話は横に置いておく。今はこのポンコツを()()()のが先だ。


「それに誰よりも飽きっぽいアナタに言われたくないですけど?ぽんぽんアイデアのままに実験して、結果をまとめる前に放り出し、次から次へと移っていくアナタの研究をまとめているのは、この私よ?」


私の言葉にぎくりと顔を強張らせたコーリーは、やはり自覚があるのだろう。日々私に尻拭いをさせていると。……分かっているならやるな、本当に。毎日常人には理解できないような内容の研究が乱立していき、放置するにはあまりに惜しいそれらを形にするために、私の前には超高難度なタスクばかりが積み上がる。私の睡眠を削っているのは目の前のこの美貌の悪魔だ。そんな怒りを湛えて睨みつければ、コーリーは不利を悟ったのか、慌てて次々と言い訳を口にした。


「研究は仕方ないじゃないか!だ、だって神様が僕に次々とインスピレーションを与えるんだもの!忘れる前にとりあえずやってみなければと思うし、やってるうちに新しいアイデアが浮かぶから、思いつくままに次々と、その」

「言い訳は聞き飽きたわね」


取り付く島もなくバッサリ切って捨てれば、コーリーは涙目で縋り付いてきた。


「で、でも!僕はカミラに会ってから君以外の人間に興味を持ったことはないよ!?」

「いや、人間に興味がなさすぎるっていうのも問題なのよ?」


この男はなにしろ私以外のほとんどの助手の名前を、まだ覚えていないのだ。魔力属性と魔力量で呼んでいる。


「あ、水属性魔力量中の方ちょっと来て〜」


みたいな感じだ。普通に屑上司である。

まぁそんなことはどうでも良い。助手達も気にしていないようなので。

それより、身近に迫った我が身の危機である。


「それに、その役者ごっこ(・・・・・)とやら、ソレ専門の娼館とかでやるやつじゃないの?普通の家庭でやることじゃなくない?」

「は?」


意味不明なコーリーの要求を退けるべく、そう指摘すれば、今までしょぼくれていたコーリーは突如顔色を変え、ぎらっと目を光らせて私の両腕を鷲掴んだ。


「え?なんでそんなに詳しいの?まさかカミラ、行ったことあるの?浮気?」

「どうしてそうなる?」


とんでもない方向に進んだ会話に、私は真顔で問い返す。このポンコツに振り回されて多忙極まりない毎日で、どう浮気しろと?


「じゃ、じゃあ何で知ってるの!?誰に聞いたの!?いや、誰がピュアなカミラにそんないやらしいお店のことを教えたんだ!許せない魔力を全部引っこ抜いてやりたいっ!」

「違う、落ち着け、興奮するな」


私をブンブンと振り回さんばかりに揺さぶるコーリーに、私は舌を噛まないように気をつけながら押し留めた。


「結婚前の閨房術講義の一環にあったのよ、男性の好むアソビの一例として。趣味の一つだから、妻の立場にある者は目くじらを立てず生温く見守りましょうってね」

「はぁあああ!?ふしだらすぎない!?何を()()()してるのさ!」

「私は快楽大好きクソ爺もしくは折檻大好き好色親父に嫁ぐ予定だったから、必須知識だったのよネそういうの」

「あああああああああ思い出させないで!このまま城を破壊してしまいそうだよっ!」

「なんでよ、意味わかんないわよ」


頭を掻きむしって唸っている馬鹿夫を半眼で見下ろす。コーリーは顔を上げると、天使のような美貌に毒々しく荒々しい笑みを浮かべ、危険な光を宿した眼を見開いて叫んだ。


「というか何?何でそんなに熱心に()()()してたわけ!?カミラってば、他の男、いや、好色ヒヒジジイとはイヤラシイことをするつもりだったくせに、僕とはできないって?どういうこと?全然意味がわからない。僕のこと愛していないわけ?」

「あなたこそ私がしたくないと分かっていてそんなこと言うなんて愛がないんじゃないの!?愛しているなら私が嫌がることはすべきではないわよね!?」


愛の定義から問い直したいと思いつつ言い返せば、コーリーは大層美しい笑みを浮かべて、自信満々に言い切った。


「君は嫌がらないよ!僕には分かる!」


全く分からんが?



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