9.リベンジ
さあ準備は整った、食人木にリベンジだ!
と思ったんだけど……。食人木どこ?
「思えばあの時も適当に森の奥に行ったら、遭遇したんですよ~。」
そう、食人木の居場所がわからないのだ。森の奥に行ってみたりしているけど、全然会わない。甘い匂いもしない。
何回か森に入っては帰ってきてを繰り返していたが、あまりの見つからなさに村長の家に来て愚痴っているところだ。
「食人木はあの通り、自由に動けますからね。我々は自分から探したりはしないから気づきませんでしたけど、場所を移動しているのかもしれませんね。」
「そんな~。」
食人木に挑む気満々だったのに出鼻を挫かれてしまった。このまま運に任せて探すしかないのかな……。
「まあまあ、ほら、あんぱんちゃんの好きなスープを作ってきたから、食べて元気出して! 村長もどうぞ。」
「やったー! いただきます!」
「ありがとうございます、カラクル。いただきますね。」
この羊肉と野菜がゴロゴロ入ったスープは、このゲームで初めて食べた時からすっかりはまってしまって、カラクルさんがよく作ってくれるようになった。体力も回復するしいいことずくめだ。
「それにしても、召喚ってすごいのねぇ。もう一人の私が経験したことが、私にもわかるなんてびっくりだわ。」
「ええ本当に。でもこれなら無駄に心配しないで済みそうです。」
そうなのだ。あの召喚スキルは召喚解除した後に、分身の記憶が本人に戻るようになっているらしい。二人は便利だというが、私的には分身がダメージを受けたときや、死んだときの記憶も戻ってしまうということにもやもやしたのだが、二人は「貴重な体験ですよね。」「貴女と同じ体験ができて嬉しいわ。」と言ってくれたので、私も気にせずに二人を召喚することにした。
「ご馳走様でした! 美味しかったです!」
「うふふ、元気でたみたいね。」
「ふふふ、美味しいものを食べると直ぐに機嫌がなおるんですから、単純ですね。」
…………この二人、召喚の件があってから遠慮がなくなった気がする。でも悪い意味じゃなくて、なんか家族的な遠慮のなさみたいな……、うまく言えないけど。
「んん! とにかく! 今は食人木の場所ですよ!」
話題を強引に戻す。でも本当にどうすればいいんだろう。
「そうですね。食人木に会ったのは貴女だけです。甘い匂いの他に何か気になることはありませんでしたか?」
他にか……。
確か食人木には沢山虫が集っていたな。よっぽど甘い樹液を出していたんだろう、滅多にいないカブトムシとかクワガタムシがいた。
「うーん、虫が沢山いたってことくらいですかね。木にうじゃうじゃって集まってて……。」
思い出してゾッとする、……気持ち悪かったなアレ。
「虫ですか。……木についているだけでしたか? 周りに飛んでいたりとかは?」
「あっ! いました! 甘い匂いにつられて飛んだりしているのを見ましたよ。」
「じゃあ、飛んでいる虫の後を追って行ったらいるのかしら?」
全部が全部そうじゃないと思うけど、可能性はあるかも。兎に角今は可能性があるなら、やってみよう!
◇◇◇
話のあと早速森に入り、飛んでいる虫を探すが中々当たりは見つからない。蝶や蛾は見つけることができるのだが、後を追ってもフラフラ飛んで木にくっついたり、こっちに襲い掛かってきたのもいた。
村長とカラクルさんはまだ召喚していない。探すのには人手はいらないし、虫の攻撃でダメージを受けてもなんだから、食人木を見つけたら召喚しようと思ってる。
よし、また見つけた。
飛んでいる蝶を見つけたので、襲われないようにあまり近寄らずに後をついていく。
地味で飽きそうになるが、大人しくついていく。
………………………!
甘い匂いがしてきた! 食人木が近くにいる!
「〈召喚〉」
村長を召喚して、召喚のクールタイムが明けたころにカラクルさんも召喚する。
「見つけましたか。」
「まだですけど、甘い匂いがしているので近くにはいます。私と村長が戦いますからカラクルさんは一歩後ろに居て、体力がやばくなった方に回復薬を投げてください。あと食人木が変な動きをしたら教えてください。」
「わかりました。」
「わかったわ。」
食人木は枝と蔓の手数の多い攻撃だから、後ろを取られたり、足元をすくわれやすい。カラクルさんは全体を見て注意喚起をしてもらうことにした。
甘い匂いがだんだんと強くなってくる方へ三人で向かっていくと、虫に集られた木が見えた。
「いましたね……。」
「じゃあ村長、行きましょう。」
村長と二人で木に近寄っていく、食人木はまだ動かない。
まだ動かない。ので、こちらから仕掛けることにした。
ダッと地面を蹴って、虫が集まっている幹にシープホーンを振り下ろす。
バキィ! という音を立て、ついていた虫たちが消えていくと同時に枝がグネグネと動き始め、ズゴッと根っこが地面から抜かれる。それと同時に相手の体力バーが現れるが、減っている様子は見られない。虫が鎧の役割をして、先ほどの一撃ではダメージを与えられなかったのだ。
「くそっ」
ダメージを与えようともう一回シープホーンを振り上げる。と相手もジッとしているわけじゃない。蔓を私に伸ばして拘束しようとしてくる。
「させませんよっ!」
村長が私に伸ばしていた蔓をまとめて掴み取り、そのまま引きちぎる。私はそのままシープホーンをたたきつける。
やった! 攻撃決まった!
私の体力の二倍くらいある体力が三センチほど減った。このまま村長は蔓や枝を弾いて、私は攻撃に専念することにする。
村長が攻撃を弾いているうちに攻撃を続けているけど、蔓と枝が多すぎる。私にも攻撃が掠るようになってきた。
一撃死は流石にしなくなったが、防具があっても結構削れる! もう半分無くなった!
「これを!」
すかさずカラクルさんが回復薬を投げてくれたが、攻撃が激しくなってきたのか、すぐに体力は削れていく。
「一旦離れますよ!」
見かねた村長が私を抱えて後ろに下がる。枝や蔓が追いかけてくるが、届かない場所まで素早く下がる。根っこが足の役割をしているとはいえ、奴の移動速度はすこぶる遅い。
「手数多すぎますね、私も捌ききれなくなってきました。あんぱん、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。」
「すぐに回復するわね。」
カラクルさんがすぐに私と村長に回復薬をかけてくれる。
分身だから回復は必要ないと思うだろうがここは必要だ。何故なら分身が消えた後、再召喚するのにもクールタイムがあるからだ。召喚スキルのクールタイムは少ないのに対して、同じ相手を再召喚するクールタイムは五分ほどあるのだ。ゲームでこれは長い。戦闘中に五分も待ってはいられないので回復したほうがいいのだ。
体力は二人とも回復したが、さてどう攻撃していこうか。
食人木は蔓をうねうねと動かし威嚇している。その蔓がタコやイカの足が蠢いているようにも見えて、気持ち悪い。デビルツリーといわれるのも納得がいく見た目だ。
結構攻撃した甲斐があったのか、食人木の体力はあと半分ほどだ。でもまず蔓と枝を減らさないと近づけない。
「蔓と枝を減らしましょう!」
「なら私が蔓を担当します、私の力で引きちぎれますからね。あんぱんは枝を叩き折ってください。」
「了解です!」
シープホーンをぐっと握って、村長と一緒に駈け出す。