7.新装備と心配
リベンジを誓ったのはいいが、今の状態では勝てないだろう。
とりあえず蜘蛛のクエストをクリアして装備を整えてからリベンジしよう。
そこから森に入って蜘蛛を探し出し、ドロップを漁る時間が続いた。あまり奥の方には入っていないからだろうか、甘い匂いはしなかった。また食人木に会っても嫌だし、地道に蜘蛛探しを続ける。
そして、遂に≪蜘蛛毒の小瓶≫を十九本集めきったのだ!
「メリノさん! ≪蜘蛛毒の小瓶≫集めましたよ! 交換お願いします!」
「頑張ったね! ここで装備していく?」
勿論! と頷き、小瓶とアイテムを交換してもらう。
▽ クエストクリアしました!
<蜘蛛毒の収集>
報酬:蜘蛛毒と交換できるアイテム
やった! 羊装備を早速着けさしてもらう。
防具は羊毛と羊毛皮で作られた物で、装備すると頭の先から足もとまでモコモコになった。頭装備には羊の角もついていて、私も羊男の仲間になった気分だ。効果としては防御力は勿論、寒さに強いという効果もあって、寒い場所での寒さダメージを受けない+氷系ダメージを半減してくれる効果があった。
武器のシープホーンは、槍くらいのリーチがある棍棒で棒の両先に羊の角がついている物だった。手にもって殴ることもできるし、バトンみたいにくるくる回して連撃もできる、うまく使えばブーメランみたいに飛ばして距離のある相手にも攻撃できるそうだ。
…………できるかな。練習しよ。
「どう? いい装備でしょ。」
「滅茶苦茶良いですよー! ありがとうございます! これでリベンジできそうです!」
羊装備は思った以上にいい性能だった。初期装備と比べると雲泥の差があるので、ゲーム初期で手に入るようなものではないのだろう。
嬉しさに小躍りしていると、メリノさんは怪訝な顔で聞いてくる。
「リベンジって何かあった?」
そういえば、カラクルさんや村長にも言ってなかったけど、虫以外の森の中に出てきたエネミーだから伝えたほうがよかったかな。
「ええと、森の奥で食人木に会いまして、一回やられているんですよね。で、そのリベンジをと思いまして……。」
「…………そっか、普段はあまり森の奥に行かないし、行ったとしてもあの甘い匂いがあるからね、近寄らないのさ。こんなに早く森の奥に行くとは思わなかったからさ、ごめん。伝えとけばよかったよ。」
「そんな、いいんです! 調子に乗って初期装備で奥に行った私が馬鹿でしたし!」
そうだよね、初期装備の人間がそんな奥に行くとは普通は思わないよね! でも彼らにとっては危険だけどプレイヤーである私達は、死んでもペナルティないならズカズカ進んじゃうんです。だから謝られると罪悪感すごい。
「一回アルガリさんに相談したほうがいいと思うよ。協力してくれると思う。」
なんだろ、攻略法を教えてくれるとか?
「というわけなんですが……。」
「なるほど食人木ですか……。」
そんなわけで村長の家にやってきたが、村長は難しい顔で唸っている。
「食人木は枝と蔓の攻撃が厄介ですよ。新しい装備を手に入れたようですが、 あ、とてもお似合いですよ。 厳しい戦いになるでしょう。」
「あー……。」
確かにあの枝と蔓は厄介だ、拘束されたらなかなか抜け出せない。新しく手に入れたシープホーンで遠距離攻撃で戦うのはどうだろう。でもブーメラン攻撃ってどうやるんだろう、適当に投げても大丈夫かな。あとは、相手は植物だし火を使うとか? うん、火ならすごい効きそう。火種を借りて、枝や蔓が届かないところから投げまくったらどうにかなるかな。
うんうんと悩んでいると村長が意を決したように立ち上がった。
「……もう貴女は我々にとって大切な村の一員です。貴女が星の探検家で我々とは違う存在でも、これから危険な目にあうのが貴女の使命だとしても、無視することはできません。」
村長……。
「ですから我々も腹をくくります。貴女と一緒に戦います!」
「えっ!」
それって仲間に、パーティを組んでくれるっていうこと? ……でもNPCは一回死んだらもう生き返らない。死なせないようにって言えればいいんだけど、ランダムスタートの時に思った。このゲームのボス級はそう簡単に勝てるような奴はいないと思う。
だから一緒に戦うって言ってくれるのは嬉しいけど、
「皆さんを危険な目にあわせたくないんです! 火種をありったけください! 奴を一人で焼き尽くしてやりますよ!」
「森が焼けちゃうから駄目です!!!!」
「あっはい。」
ちょっと熱くなりすぎた。
お互い落ち着いたところで話し合いを再開させる。
「やっぱり危険ですよ。もし死んでしまったらと思うと怖いです。」
理由はそこしかない。ゲームキャラに何をと言われるかもしれないが、もうただのゲームキャラと思えないから困るのだ。
何でも開発者は異世界を創りたかったそうだ。
このゲームはNPC一人一人に高性能感情AIを積んでいて、このゲームの中で生きていると前にもいったが、このゲームは高性能すぎるのだ。
NPCの説明書きを見たときに注意書きがされていた。このゲームで出てくるNPCは本当の人間のように、本当の生き物のように接してきます。と。NPCたちにはゲームのキャラクターという自覚はない。NPC達にとってはここがリアルの世界なのだ。
いうなればここはゲーム風の異世界と同じなのだ。
それでもゲームだし、NPCはデータでしょっていう人もいるかもしれない。実際この世界はゲームだし、ずっと昼で夜はないし、私の視界には体力バーがあるし、私もそう思ってた。
でもソーンさんとサモ君、羊男の村の人たちと交流するともう駄目だった。彼らは生きているのだ。羊にだって感情と温かさがあった。
だから彼らを仲間として連れ歩くことはできない。
「しかし……。」
「私なら大丈夫ですって! 死んだって死にませんし!」
明るく言うが、村長の顔は曇ったままだ。でもこれは譲れない。そのまま村長の家を出ようとしたが、
バーン!!と勢いよく扉が開いた。
びっくりした! 顔にぶつかるかと思った。
「あんぱんちゃん!!」
「カラクルさん!?」
「カラクル!?」
勢いよく入ってきたのはカラクルさんで、普段おっとりしている彼女しか知らないのでびっくりしてしまった。
「あんぱんちゃん。確かに貴女が死なないかもしれないけど、私も村長も心配なの! 怪我したって痛くないかもしれないし、すぐに治るかもしれないけど、心配なのよ!」
彼女は涙目で訴えかけてくる。私のことが心配だと大事だと言ってくれてる。でも……。
何を言われても断ろうと口を開こうとすると。
シャララ~ ピロピロピン
……え? 何?
「な、何かしら、この音?」
「これはもしかして、」
カラクルさんと村長にも聞こえているようだ。いや、ホントに何?
▽ おめでとうございます! 絆が結ばれました!
貴女は〈召喚〉を覚えました!
召喚? 召喚ってあの幻獣とか呼び出せる召喚? えっ?
あんぱんの装備
頭:羊の帽子 体:羊スーツ 足:羊のブーツ アクセサリー:羊の手袋
武器:シープホーン