5.やっと探検へ
「おはよー。」
メエエ!
ログイン後からおはようございます。いつもの羊小屋です。羊たちに挨拶をすると元気に鳴き声を返されたので、扉を開けて誘導してやる。
結局羊飼いやることにしたのかって? いやいや、いつもだったらこの後羊の面倒を見ているところだけど、今日からは違う。
水浴びをして汚れをとった後、装備を着けて森の中に入る。そう、ようやっと探検に出れるのだ。
あの後、村長の家からカラクルさんの家に行くと、ものすごい悲しい顔をされてしまった。
「寂しくなるわぁ、……でも仕方ないわね。星の探検家さんだものね。」
理由に「星の探検家だし」というのが必ず入っていることから、もしかしたら星の探検家は一か所には留まらないというのが、この世界の住人には刷り込まれているのかもしれない。
それはそうと、そんなに悲しまれてしまうと罪悪感がすごい。
「いえ、探検にはでますけど、この村を拠点登録していますし、当分はこの村でお世話になりながらになります。」
そうつげると彼女の顔はパッと明るくなる。
「なら、よかったわ! いつでも頼ってね。あ、ご飯! 今までと同じように毎日食べに来てね!」
なぜ彼女がここまでしてくれるのかわからない。この村の人たちの好感度は皆、羊も含めて高いほうだが、彼女は明らかに好感度が一番高い。何なら、初めから高かった。
まぁ、助かるんだけど、謎だ。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね。あと、装備とか、虫よけハーブとかそろえたいんですけど、誰のところに行けばいいですかね。」
「装備とアイテムだったらメリノさんの所かしら。メリノさんはたまに人のいる街に村の特産品を売りに行くから、そういうのが集まっているはずよ。」
この村は畑があるし、羊もいることから、野菜、肉、乳製品、とあるが、さすがに完全自給自足はできないようで、二ヶ月に一回は羊毛、毛皮、肉を人間の街に売りに行ってお金を稼いでいる。(ゲームなので羊毛はすぐに生えるし子羊もすぐに成長するようだ。)
メリノさんはその商売を担っている人で、アイテムの保存管理もしているそうだ。
早速メリノさん宅へ向かうと、
「売っても構わないけど、お金はあるの?」
「三〇〇〇ゴルドあります。」
「……虫よけと安い武器か防具のどちらかだったら買えるよ。」
うう、やっぱり全部は無理か。何とかしてお金を稼がないと。売れるものもないし…………? あ、一つだけある。
≪蜘蛛毒の小瓶≫だ。森の中で初ドロップしていたの忘れていた。売れるかなこれ。
「蜘蛛毒の小瓶? おー……いいよ。でも買取じゃなくて、物々交換にしない? それ、人間の街だと売ってもそんなにお金にならないけど、この村の防衛には使えそうだからさ。」
「ありがたいですけど、いいんですか?」
「いいよ。あんぱんが羊の面倒見てくれたおかげでさ、製品の加工に人を回せたから、今回の売り上げは多くなりそうなんだ。だからサービスね。」
本当にありがたい!! 真面目に羊飼いしてて良かった!
その時、ピロン! と音が鳴り、目の前にアナウンスが現れた。
▽ クエストが発生しました。
〈蜘蛛毒の収集〉
村の防衛のため蜘蛛毒を集めてメリノに渡そう。
※本数によって交換してもらえるアイテムは変わります。
これだ! お金はもらえないけどアイテムと交換してもらえるなら全然良い!
「やります! 蜘蛛毒沢山集めてきますね!」
「じゃあ、期待していい装備用意しようかな、リストはこれね。」
▽ 交換リスト
▷ 羊の防具セット 10本
▷ シープホーン 5本
▷ 虫よけハーブ 2本
▷ 回復薬セット 2本
これ全部欲しい。
「羊の防具は体、頭、足装備のセットね。」
「このシープホーンは武器ですか?」
「そう、羊の角を加工した武器でね。丈夫だし、攻撃力も中々あるよ。」
「わかりました! 十九本全部集めてきますね!」
というわけで、今日から羊飼いではなく星の探検家として行動できることになったのだ。
さくっと蜘蛛毒集めますか!
◇◇◇
「やあっ!」
腕に噛みついてきた蜘蛛にナイフを突き刺す。蜘蛛はそのまま息絶え何も残さずに消えていく。
「ドロップ出なかったか……。」
森の中に入ってどれくらいたっただろうか。蜘蛛毒の小瓶は初めに手に入れていたのを含めるとまだ四本しかない。
この森に出てくるエネミーは虫系しかいない。大体ナイフの一撃で倒せるから戦闘に苦労はしていないけど種類が結構いるし、もし蜘蛛が出てきても必ずドロップするとは限らないのだ。
あとそろそろ体力が厳しい。虫系エネミーは相変わらず不意打ちしかしてこないから、戦うたびに体力が地味に削れていく。一回カラクルさんから貰ったお昼ご飯で回復したが、ここいらで限界かもしれない。森と拠点を行ったり来たりして小瓶を集めるしかなさそうだ。
とりあえず今日は一回帰ろう。別にトッププレイヤーになりたいわけでもなし、のんびりプレイしていこう。
ガサ
「!」
歩き出そうとした足を止める。何かいる。虫ではないだろう、奴らは音なんか立てない。音もなくやってきて不意打ちしてくるのだから。
ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ
久々に聞いたこのBGM。いる。初めにここに来た時に会わなかったから、いないと思っていたけど、ボス級がいる。
音の間隔からしてそんなに近くにはいないようだけど、油断はできない。見つかった終わりだ。
どうしよう。なにもできない。じっとしてそのままどこかに行ってもらうのを祈るしかない、走って逃げたら音で気づかれるかもしれないし。
ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ
「…………………………。」
………………………………………………………………………………、いなくなった?
葉を踏む音は聞こえない。BGMも聞こえなくなったから、遠くへ行ったんだろう。
「はあぁーーーーーーーー……。つっかれた……。」
何だか精神的にドッと疲れてしまった。八回もボス級にロストさせられているから、慣れたと思ったけどやっぱり緊張する。それにランダムスタートの時はデスペナルティはなかったけど、拠点登録した今はどうなんだろう。
ランダムスタートで死にまくった時はさすがに調べたけど、普段はゲームは何も調べずにプレイする派だから、そういうシステムも調べてない。けどこれは調べてみるかな、アイテムやお金が減るタイプだったら、何か対策を取らなければならないし。
ボス級が戻ってくる前に、とっとと帰ってログアウトして調べよう。
私は村に向かって走り出し、走りながらそういえば、と思う。
姿が見えなかったけどどんなボスだったんだろう。