42.隠し部屋
マルスは行き止まりの床をツンツンと突きながら、私達を見る。
これは、地下室があるんじゃ……? 周りに仕掛けがない事を見ると、これは
「これは謎解きですね!」
「謎解き?」
頭に?マークを浮かべる村長とカラクルさんに謎解きの説明をする。
「廊下にこれ見よがしに絵が飾っていますから、決められた絵を動かしたり触ったりすれば、地下室への扉が開くんですよ!」
「ほう? 人間は中々変な事を考えますね。それで、どの絵をどうすれば?」
絵は羽を広げている蝙蝠の絵、眠る茶トラの猫の絵、草をはむ赤い目のウサギの絵、月と白いフクロウの絵、シマウマに飛びかかる雌ライオンの絵、飛び跳ねているカエルの絵。
全部動物だ。
「えーと、こういうのは大体共通点がある奴か、仲間はずれを選ぶんですよ。」
共通点……、色は違うし、食べ物もバラバラ。仲間はずれだと、カエルが両生類ってくらい?
うーむ、と唸っていると、マルスがアリエスの頭の上で何か指示を出しているのが見えた。
「二人共、絵を傷つけちゃダメだから」ドゴォ! 「ね………!?」
アリエスが角を絵画の額縁の下に引っ掛けて勢いよく押し上げたのだ。絵画は壁から外れなかったが、元の位置より上にズレてしまっている。
「ちょっ! ちょちょ! ちょっとぉ!? 何してんの!? 弁償とかできないからやめてやめて!」
貴族の家に飾られていた絵画の値段とか、知りたくもない。お揃いのアクセサリーにそれぞれ八十万とか出す人の家だぞ! 絵画も死ぬほど高いに違いない!
しかし二人は私の言葉を無視し、他二人の絵画もドゴォ! ドゴォ! と押し上げずらした。
「わー!!」
慌てて押し上げられた絵画に近寄ると、傷がついてないか、欠けていないか額縁をチェックする。
細かい傷はついているかもしれないが、見た目的にはそれほど変わりはない。黙ってたら気づかれないだろうか……。
「こらぁ! 二人共っ!」ゴゴゴゴ……
? 二人を怒ろうとしたら、何かが動く様な音が聞こえた。音の方を見ると、床が動き地下へと続く階段が現れていた。
「ぴいぃ!」「メヘヘ!」
マルスとアリエスはドヤと顔をこちらに向けている。
なんで答えがわかったの? と思っていると、村長があ、と気がついた。
「……マルスはバネ足と隠し部屋に入ったハズですから、謎解きしなくても答えを見ていましたね。」
「あ゛。」
そ、そうだった……。バネ足が隠し部屋に行ったんなら、その手順もマルスは見ていて当然である。
「ぴぃ〜?」
「え、偉い偉い……、よく覚えてたねー。」
えらい〜? と期待に目を輝かせるマルスを何だか残念な気持ちになりながらも、褒めてあげる。
ズレた絵画は蝙蝠、ネズミ、カエルだ。共通点は何だったんだろうか?
◇◇◇
階段を降りていくと、扉が一つ。開けると、一人暮らし用のワンルームほどの部屋があった。
窓はないが、灯りはあり、ベットもある。開放感はないが、住めそうな部屋ではあるが、しかし。
「うわぁ……。」
「なんか……気持ち悪いわね…。」
カラクルさんがそう呟くのも無理はない。その部屋は壁中に女性物の服がズラッとかけられていたのだ。中には切り裂かれた様に破れている物もある。
女性から無理矢理剥ぎ取った物だからだろうか? 異様な雰囲気があり、気持ち悪い。
「とにかく、ここがバネ足の戦利品置き場ですね。夫人のイヤリングを探しましょう。」
これで夫人のイヤリングが見つかれば、決定的な証拠になるだろう。
どんな理由があるかは知らんが、女の敵だ。こんどこそ仕留めてやる。
「あった、ありましたよ!」
村長が棚の上に置いてあった高そうなベルベットの箱を見せてくれた。
箱はジュエリーボックスで中にはイヤリング、ネックレス、指輪、髪飾りと様々な装飾品が入っていた。
そして、侯爵に貰った絵と同じイヤリングも。
「決まりですね。これを侯爵に突きつけて、正体を暴きましょう!」
と気合を入れ直したところで。
「待って!!」
「!!?」
入り口から知らない女性の声がした。
しまった! つけられていた!?
振り向くと、痩せてはいるがブロンド髪の美しい女性がいた。
使用人……じゃない。メイド服じゃなく光沢のあるゆったりしたドレス…ネグリジェ? を着ていた。もしかして、
「侯爵夫人?」
「はい…リズと、リズ・フォードと申します。夫と話をする前にコレを見て頂きたくて……。」
彼女が持っていたのは何枚かの紙だ。
「これは?」
「これは、フォード家の当主の記録…の一部分です。ここに書かれている人物が貴女方が探している人物の手掛かりになるハズです。」
バネ足ジャックの? でもバネ足は侯爵のハズ……間違えていたのか?
夫人から紙を受け取り、見てみるとそこには、ウォーター・フォードという人物について書かれていた。
ウォーター・フォード。
侯爵家の一人息子として産まれた。彼は小さい頃から頭も運動神経もよく、次期当主として大きな期待の元育てられた。
しかし成長するにつれ、彼は荒れていく。甘やかして育てたせいか、我儘放題の傍若無人。
喧嘩はするわ、物は壊すわで、侯爵家は彼に手を焼いていた。大体被害を受けるのは、弱い立場の平民で、侯爵家は賠償金を多めに払い揉み消していたそうだ。
「やだ、最低。」「信じられない、まともな親のする事じゃないですよ。」
カラクルさんと村長が好き勝手言っているが、確かにウォーターは控えめに言ってもクソでは? 金で揉み消す侯爵家もクソでは?
青年期はドラ息子のバカ息子として有名だったそうだ。
ろくに家にも帰らず、賭博か行き過ぎた悪戯をしているか、の生活だった。
行き過ぎた悪戯については、屋根の上から小便をして人にかけるとか、宿屋のベットにロバを寝かせて、泊まりにきた客を驚かしていたりしていたそうだ。最悪。
それでも金の力で揉み消せていたが、遂に揉み消せない事件が起きる。
それが怪人:バネ足ジャックである。
ウォーターは黒いマントで全身を覆い、わざとぴょんぴょん飛び跳ねる珍妙な動きで、女性に近づき驚かせた。
初めは驚かせるだけであったのが、味を占めたのか、服を切り裂き、持ち物を強奪するようになってしまったのだ。
王都ではいつしか、怪人の仕業だと噂されるようになり、女性は皆怯えた。
そしてそれは貴族の子女達まで、被害に遭うようになったのだ。
頭を抱えたのは侯爵家だ。貴族にまで被害が出ては、もう揉み消せない。幸いなことにウォーターがバネ足ジャックだとはまだ気づかれていなかったので、侯爵家は気づかれる前にウォーターを屋敷の地下室に閉じ込め、そこで生活させた。
侯爵家では、こんな事が二度と起きない様に記録にウォーターが何をしたのかを詳しく記録したとのこと。
最後の紙には、ウサギの体にに蝙蝠の羽とカエルの足がくっつけられたキメラみたいな絵が紋章みたいに描かれていて、その下に文で、ウォーターは侯爵家始まって以来の恥。忘れるな、ウォーターの様になるな。と書かれている。教訓みたいになっているようだ。
地下室を見つける謎解きは先にこの資料を見ればよかったのか。
バネ足ジャックは実在の人物で、地下室、此処に閉じ込められたウォーター・フォードだった。でも
「これは…いつの話ですか……?」
「三百年以上は前の記録ですわ……。」
バネ足ジャックは死んで本物の怪人になったのだろうか?