表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Occult-Life-Online  作者: シンヤ
42/49

40.不審者

 元メイドの家は貴族街に繋がる階段の近くにあったが、メイン通りではなく外れた人通りの少ない道に面した家に住んでいた。

 恰幅のいい人の良さそうな顔をした彼女は、突然訪ねて来た私に驚いていたがフォード家の奥様の件と伝えると、家の中に招いてくれた。

 名前はミサさん。歳の頃は六十くらいだろうか? 息子夫婦と暮らしているとのことだったが、家には彼女しかいなかった。夫婦は仕事に出ているんだろう。


 「お嬢様は大丈夫なんでしょうか?」


 お嬢様か……、そういえば夫人には会っていないが何歳なんだろう? ナイスミドルのフォード侯爵が、五十代くらいだから、四十代くらいかな?

 まあ、伯爵家に支えていた元メイドのミサさんにとっては侯爵夫人になってもいつまでもお嬢様なんだろう。


 「ええと、奥様はひどく塞ぎ込んでしまっているようで……。」


 「ええ、ええ、そうでしょうね……、あんな酷いことが起きたんですもの。必ず犯人を見つけ出してくださいね。」


 ん? 犯人?


 「待ってください、犯人って……。」


 もしかして、侯爵夫人はイヤリングを落としたのではなく盗まれたのか? でもそれだとなんで落としたなんて言うんだろう?


 「犯人は犯人です。あの日お嬢様を襲った犯人をお探しになられてるんでしょう?」


 「襲ったぁ!?」


 ただの泥棒じゃなくて、襲った!? まさか暴行されたとかじゃないだろうな……、それだったら確かに旦那には言いづらいわ……。いや、でもゲームだぞこれ、そんな生々しいことある!? でもこのゲーム十五歳以下はできないゲームだし、いやそういうのは十八禁のゲームじゃないのか? でも表現だけならありうるかも……。


 「……違うのですか? 侯爵様がクエストを出したと聞いたので、そうかと思ったのですが……。」


 「襲われたことは聞いていません! 侯爵様もイヤリングをなくされたとしか話していませんでしたし、奥様が話していないかもしれません。お話詳しく聞かせてください!」



 話を詳しく聞いたところ、あの日夫人はミサさんの家で料理を習いに来た時にあのイヤリングをつけていたらしい。髪を綺麗にセットして、メイクもばっちりで服装もそんなオシャレしてどこに行くのと言いたくなるような、つまり庶民にお料理を習いにくる格好ではない格好できたらしい。

 そんな恰好でこんなところに来るものではないとミサさんは怒ったらしいが、夫人はたいそう浮かれていて、イヤリングを自慢したかったのだと語ったそうだ。


 その後、簡単なお料理を一緒に作り、帰る夫人が家から出て扉を閉めた瞬間、夫人の悲鳴が聞こえた。慌てて家から出ると夫人は蹲っていていて、その夫人の前には男が一人。

 真っ黒いマントに血の様な赤い目。悪魔のような姿の男にミサさんは怯んだが、夫人を助けようと走り寄ると男は後ろに飛び退いたのだが、驚くことに男は一足で三、四メートルほど飛んだのだ。

 そしてそのまま今度は上に飛び上がり、十メートルはあるアパートメントの影に消えてしまったそうだ。

 夫人は怪我はなかったが、服を鋭い刃物のようなもので切り裂かれており酷いショックを受けていたので、ミサさんの息子嫁の服を着せて、フォード侯爵の屋敷まで送っていったとのことだ。


 「おそらくその時にイヤリングを奪われたのよ、服を着せた時にはなくなっていたから。」


 よかった……、服を切り裂かれただけか。いや、良くはないんだけど、最悪なことが起こってなくて安心した。

 それにしても


 「悪魔のような飛ぶ男ですか……。」


 「ええ、アレは人の姿をしていたけど、あんな風に飛ぶなんて人とは思えないわ……、もしかして吸血鬼かも!」


 「ううん……、とりあえずはそんな男がいないかの聞き込みをしてみます。」


 吸血鬼かどうかはわからんが、吸血鬼だったら血を吸われているだろう。でも夫人は服を切り裂かれてイヤリングを盗られただけ……。

 ただの探し物クエストかと思ったけどオカルト絡みかな? 報酬が高いわけだよ。




◇◇◇




 ミサさんの家を出て、付近の家で聞き込みをする。

 黒マントの男を見たことがあるか? と聞くと大体は見たことがないと言うが、数人の女性は、もしかしてという反応をしていた。

 詳しく聞いてみると、皆言いづらそうにするが私が星の探検家で犯人を捜していることを伝えると、重そうに口を開いてくれた。


 何でも奴は人の少ない道を歩いていると突然現れ、服を引き裂いたり、顔に火を噴きつけたりしてくるらしい。しかも持ち物を持っていたら物を、持っていなかったら服を脱がされ奪っていくという。

 ただしそれ以外のことはせずに去っていくらしい。

 被害にあった女性は恐ろしい思いをしたが、暴力を振るわれたわけではないので、訴えるには恥ずかしく言いたくないとのことで泣き寝入りしていたらしい。

 火を噴きつけられた人も軽いやけどだけで済んだのが、またいやらしい。


 何か決定的な悪行をしていないから、悪戯で済まされてしまいそうなところが性質悪いな。窃盗もしてるし、服を引き裂くってのも十分最悪なんだけどさ、痴漢と似てるかも。やられたことを訴えたいけどされたって知られるのが嫌、みたいな。

 とりあえず、犯人を捕まえなくては。プレイヤーの前に出てくるかはわからないけど私も女だし、一人でうろうろしていればでてくるかな?

 皆を召喚して、隠れてもらい。目撃証言の多かった人気の少ない道でウロウロすることにした。



 今いるのはメイン通りから二つ外れた通りだ、夫人が襲われた道の隣の道。メインと比べると道が細く、建物に囲まれているため少し薄暗い。人通りも一人二人すれ違ったくらいだ。


 来るだろうか? 


 ……………………。

 静かだ。メイン通りのざわめきも遠い。

 先に夫人の話を聞くべきだったかと思っていると


 「きゃああああああああ!!」


 !! 隣の通りから悲鳴が!


 慌てて駆け付けると、尻餅をついた女性の前に男がいた。買い物帰りに襲われたのだろう、辺りに籠と散らばった食材が見えた。


 「マルス! 熱線を!」


 「ぴっ!」


 男は黒いマントを身につけていた。顔は髪をダランと前に垂らしているので、ハッキリとはわからないが髪の隙間から赤い目が見えた。間違いない、例の男だ。

 男の元に行くよりマルスの熱線のが速いと判断して指示を出し、私と村長は男に向かって走り出す。

 細い熱線は真っ直ぐしかし素早く伸び、男に当たるとジュッと音を立ててマントを焦がした。


 「!?」


 「カラクルさんとアリエスはその人をお願い!」


 二人にまだ座り込んでしまっている女の人を任せて、男が怯んだ隙を狙って、私と村長は男の元に辿り着き同時に武器と腕を振り下し攻撃した。


 「ぎゃああああ!!」


 「よっしゃ! ど真ん中!」


 男の胸と腹にそれぞれ攻撃が当たり、男は悲鳴をあげた。

 ここで男の頭上に名前と体力バーが現れる。そんなに強くないのか体力は今の攻撃で半分は減っている。

 名前は『バネ足ジャック』。バネ足?


 「もう一発当てますよ!」


 村長がもう一度腕を振るうが、今度は当たらなかった。

 バネ足ジャックはぴょん! と飛んで攻撃を避けていしまったのだ。


 「なっ!?」


 その飛距離は異常だ。

 私達の頭の上をゆうに超す高さを飛んだのだ。そして近くで見たからわかる。飛び上がる瞬間、名前の通りに足がぐるぐると渦を巻いたバネのようになっていたのだ。


 「来るか!」


 「ヒヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」


 重力に任せての蹴りは凄い威力になりそうだと思い、身構えていると奴は不気味な笑い声をあげ、ぴょんぴょんと建物の壁を蹴り、私達と逆方向へ去っていく。


 「え、ちょ、逃げる!?」


 私達は慌てて追いかけるが、アイツの方が速い。一足で何メートルも飛ぶ奴だ、このままでは見失ってしまう。


 「村長! マルスを投げてください! マルス! アイツにくっついて、行先を突き止めて! 」


 「ぴぴ!」


 「なるほど!」


 召喚された方のマルスを村長が、バネ足ジャックに向かって投げつける。

 相手はぴょんぴょんと跳ねているから、上手くくっつけるか不安だったけど、マントの裾を何とか掴んだのが見えた。


 バネ足ジャックは物を盗む。盗んだ物がこの王都の何処かに置いてあるハズ、後でマルスの〈召喚〉を解除すれば、分身の記憶が本体にもわかる様になるので、瓶の中のマルスに案内して貰えばいい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ