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Occult-Life-Online  作者: シンヤ
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39.貴族のクエスト

 「なるほど、貴女が依頼を受けてくださった方ですか。こんなに早く受けてくださるとは……、私は依頼人のウォルター・フォードです。」


 私は貴族街の大きな屋敷で依頼人と向き合っていた。

 フォード侯爵は茶色い髪をオールバックにしたナイスミドルな男性だった。服も装飾品も全部高そうだし、雰囲気がそこらの街にいるおじさんとは違う、うまく言えないけど貴族っぽい。


 「初めまして、あんぱんと言います。」


 こんな高貴な雰囲気を持った人と会ったことがないので、滅茶苦茶緊張する。


 「それで、早速クエストの詳しいお話を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか? えーと、奥様のなくした物を探してほしいとのことでしたが。」


 とっとと内容を聞いてこのお屋敷から出たい。そんな一心で話しを振ると、フォード侯爵は顔を暗くして話しはじめる。


 「実は探してほしいものはイヤリングなのです。そのイヤリングは私が結婚記念日に妻にプレゼントした物でして……。落としてしまったものは仕方がないと言ったのですが、その日から妻が酷く塞ぎ込んでしまって、どうにか妻の気持ちを晴らしてあげたいと思いまして依頼を出したのです。」


 「なるほど……。」


 奥さん思いのいい人だなぁ。

 貴族なんて政略結婚でお互い愛人がいて、ドロドロのお家騒動があったり、なんて思っていたけどフォード侯爵は誠実な方のようだ。


 「では落とした日は奥様がどこにいたのか教えて頂けますか?」


 「それも妻から聞いています。今貴族の夫人たちの中で平民風の食事が流行りらしくて、妻もその日は自分で買い物に行き、材料を買って、調理をしてみると言っていましたので、食品街に出かけていました。」


 おお、普通の家事が貴族の中では流行りものになっているのか……。毎日やっている主婦から殴られそうな流行りだ……。


 「その後、調理を教えてもらうから市街に住んでいる友人の元へ行ってくると言っていました。それで帰ってきた時は随分落ち込んで、見つからなかったと言っていたので、食品街から市街の友人の家に行くまでになくしたのでしょう。」


 「すいません、市街のご友人というのはどういうご関係で?」


 貴族に市街に住む友人がいるのは考えづらい……、この国には学校などないのだから。関係ないかもしれないが聞いておきたい。


 「ああ、その人は妻の家で働いていたメイドだったようです。妻は伯爵家の三女の出なのですが、その伯爵家で勤めていたメイドで、今は歳を理由に退職して息子夫婦と暮らしているそうです。歳は離れていますが、伯爵家で随分仲良くしていたようで友人関係を続けているんですよ。」


 元メイドと友人関係か。奥さんも気さくでいい人なんだろう。


 「わかりました。ではなくしたイヤリングがどういう物か教えて頂けますか?」


 「ええ、あらかじめ絵を描いておきました、こちらを。」


 渡された紙に描かれていたイヤリングを見て息を呑む。

 イヤリングは花びらを模したデザインで、ピンクゴールドの花びらには小さい輝く石が所々に散りばめられている、これダイヤじゃないの……? 見るだけでとんでもなく高そうなイヤリングであった。


 「す、素敵なデザインですね……。」


 「ええ、妻の喜ぶ顔を思ったら奮発してしまって、実は私のブローチとお揃いなんですよ。」


 フォード侯爵の胸元についているブローチを見ると、シンプルなデザインだが決して地味ではないブローチが煌めいていた。キラキラしていると思ったら、アレもダイヤ……!?

 お揃いなんてラブラブですね~、なんて感想が出る前につい


 「し、失礼ですが、お幾らほど……。」


 下品な質問が出てしまった。失礼だとわかっているが、聞かずにはいられない。貴族が奮発したってどの位なんだ……。


 「そうですね。大体八十万ゴルドくらいでしたでしょうか?」


 八十万……!! それを二つも……!? ダメだ、生きてる世界が違いすぎて眩暈をおこしそう。

 これをなくしたら、そりゃあ落ち込む。いや、値段じゃなくて夫からのプレゼントだし、お揃いだから落ち込んでいるんだと思うけど……、庶民じゃ手の届かない代物である。


 「でもこんな素敵なイヤリング、もう拾ってしまった方がいるかもしれないですね……。もしかしたら売ってしまったなんて事もあるかもしれません……。」


 こんなん庶民の行きかう市街に落としたら、そういう可能性もあるだろう。


 「それも勿論考えました。もしそうだったら買いなおせばいいので、露店も探してほしいんです。」


 ひぇっ、金持ちの発言……。貴族って怖い。


 「わ、わかりました。もし売られているようでしたら、またお伝えします。」



 お屋敷から出るとホッと息を吐く。緊張しすぎて疲れた……。

 フォード侯爵が偉そうで鼻持ちならない貴族じゃなくて良かった、偉そうな奴だったらもっと疲れていただろうな。


 調べるところは食品街、市街、露店、元メイドの家といったところか。因みにもし売られているなら職人街は? と思うかもしれないが、イヤリングは職人街で造ってもらった物だから、売られたとしたらすぐに連絡が入るとのこと。なるほどオーダーメイド……。

 オーダーメイドの物なら売ったら足がつきやすいだろう。あんな派手なものが未だに道端に落ちているとは考えづらいし、まずは露店から当たってみようかな。




◇◇◇




 「すいません。このイヤリング探しているんですけど知りませんか?」


 「いや、知らないな。」


 「高級そうね、こんな露店では売ってないんじゃないかな。」


 「露店で売ってたら目立つと思うよ、でも見たことないなぁ。」


 …………露店はなし。食品街の方に向かってみる。


 「すいません。このイヤリングを落としてしまった方がいて。見たことありませんか?」


 「あら素敵。」


 「貴族の方がつけていたのを見たことがあるわ。………落としたのを見たか? 知らないわ。」


 「知らな~い。」「きれー!」


 「この人混みですものもう誰かに踏まれてしまったんじゃないかしら、お気の毒ね……。」


 …………見つからない!

 露店にもないし、食品街でも夫人がつけているのを見かけたことはあっても、落としたのを見たことがある人はいなかった。〈召喚〉して皆で地面を探してみたりもしたけどなかった。クエスト的に踏まれて壊れたってのはないと思うんだけど。

 あとは元メイドの家……。クエストだし何か手がかりがあるといいんだけど、ヒントもなくただ永遠と探すクエストじゃありませんように!

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