37.新しい仲間
▽ 火星人マルスが召喚出来るようになりました!
▽ 羊が召喚出来るようになりました!
「ん?」
「ぴ?」
「メ?」
そのアナウンスにそれぞれ種族の違う三人で顔を見合わせてしまった。
マルスが召喚出来るようになった。これで戦闘にも参加できる。熱線も少しずつ飛ぶようになってきたので、イベントまでに実戦に慣れさせねば。
羊が召喚出来るようになった。私が見ている群れのリーダー羊だ。あのマルスに突っかかってた子。いやなんで?
あのマルスと羊の喧嘩事件から、二人は仲良くなろうとよく一緒にいた。
偶に些細な事で喧嘩したりもしていたが、今度は止めなかった。
ログアウトした時に子育ての本を読んだのだが、子供の喧嘩は成長に必要と書いてあったので、手が出ない喧嘩なら止めずに見守る事にした。
そうすると喧嘩してても、私が間に入らない事が気になるようで、あんまりヒートアップしなくなり、自分達で仲直りするようになっていったのだ。
つまりマルスと一緒にいる=私と一緒にいる、だから好感度が急上昇して〈召喚〉出来るようになったのかもしれない。
ピロン
▽ 羊の名前を決めてください。
「そっか、〈召喚〉出来るようになったから。羊のままじゃ味気ないもんね。」
しかしどんな名前がいいかな。
シープ、モフモフ、リーダー、ラム、マトン…………。
「よし、ラムに…」「やめなさい。」
「うわあぁ!」
名前を決めようと口に出したら、真後ろに村長が立っていた。ビックリしたので文句を言おうと思ったが、
「ラムはやめなさい。」
村長の迫力に負け、口をギュッと結びコクコクと頷くことしかできなかった。
「全く。食肉の名前をつけられても嬉しくないでしょう?」
ごもっともで……。でも、豚にチャーシューとか牛にビーフとかつけてる人っていると思う。ラム……可愛いと思ったんだけどな。言ったらまた怒られるから言わないけど。
「じゃあ、名前どうしましょう?」
「そうですね……、異世界の神話や御伽話からとるのはどうです? マルスは神話からとったんでしょう?」
神話……。羊の神話だと、ギリシャ神話の金の羊毛の羊? でも名前なかったし。
御伽話だと狼と七匹の子羊……、ダメだ、これも名前ない。
「あとは〜〜……、牡羊座のアリエス…なんてどうですか? アリエス。」
牡羊座の学名アリエス。オカルトオタクはそういうの詳しいんだよね。
「アリエス、いい名前ですね。」
「メェー!」
「彼も喜んでるようですね。」
良かった。では、名前はアリエスで決定、と。
予想外の〈召喚〉登録だったけど、仲間が増えるのは嬉しいことだ。
イベントが始まるまでまだ時間はあるし、マルスだけじゃなくアリエスにも実戦を経験させて置かないと。
王都周辺で慣れさすか、まだ行ってない場所に行くか。行ったことないのは叫びの森の北の〈のどかな山村〉か東の〈賑やかな港町〉、装飾の街の西の〈小さな漁村〉か……。
ハヤブサに教えてもらったジャッカロープが山村にいるみたいだし、そっちに行こうかな……。
でも海も捨てがたい、海に関するオカルトも多いし。人魚、クラーケン、シーサーペント、海坊主、船幽霊etc.どうしようかな……。
「村長、召喚登録もできましたし、そろそろ外で実戦させたいと思います。」
「わかりました。それではこれを……。」
村長はそう言って瓶を一つ差し出した。
受け取ると説明書きが現れるが、何の効果もないただの瓶のようだ。
「これは?」
「それは何の効果もありませんが、装備できる瓶です。」
「装備? でも何のために……。」
確かめてみるとアクセサリー類で装備できるらしい。
でもコレを装備する意味は……?
「マルスをコレに入れれば、いつでも一緒にいれるでしょう?」
「え、あ! なるほど。」
マルスは私がいないときは相変わらず瓶の中で待機しているのだが、私が探検に行くときマルスの本体はどうするか悩んでいたのだ。
村に預けて、〈召喚〉で分身を呼ぶというのも考えたが、分身の記憶が本体に戻るのは分身が消えた時。本体はそれまでずっと瓶の中に居なければいけないのだ。考えただけでも可哀想。
それにマルスのご飯は私の血なのだから、預けていたら探検に出ている間はご飯なしになってしまう。
だからといって本体を連れていくのは、前にも言ったが死の危険性もあるので不安だったのだが、今貰った瓶を装備してマルスを中に入れれば、装備品は壊れないのでマルスは私と一緒にいられるので探検できるし、ご飯も食べられるというわけだ。
「助かります! メリノさんにもお礼を言わないと!」
「ええ、村で面倒をみることも考えましたが、やっぱり親である貴女と一緒にいた方がいいと思いまして。」
早速瓶を装備することにする。装備は頭装備、体装備、足装備、の他にアクセサリー二種類がつけられる。アクセサリーには羊の手袋だけだったので、もう一つ空きがあるアクセサリー欄に瓶を装備すると首に吊る下げた状態で装備された。
「マルス、ここに入って一緒に色んなとこ行こうね!」
「ぴ!」
「次はどこに行くか決まってるんですか?」
「いえ、迷ってるんですよね。」
本当にどうしよう? 適当に決めてもいいんだけど……。
「ふむ、それなら慣れた場所の方がいいでしょう。この子達も戦いに慣れさせないといけませんし、私達も慣れない場所だとリードできませんし。」
「そっか、山だと斜面があるし海だと水中戦あるかもしれないですしね。」
確かにマルスとアリエスを実践させるなら、知っている場所の方がいい。それならイベントが始まるまでは王都周辺で訓練しよう。




