35.マルスの能力
▽イベントのお知らせ
⚪︎月⚪︎日19時よりイベントを開催いたします。
イベント詳細は当日に発表いたしますので、是非参加してみてください。
ログインすると、公式からイベントのお知らせメッセージがきていた。
しかし、これだけじゃどんなイベントなのか何もわからんな。相変わらず秘密主義というか、ビックリさせるのが好きというか……。
まあ、イベント限定のオカルトとかアイテムとか出てくるかもしれないし、参加するけどね。
でも、その前に!
「マルスー! 頑張れー!」
「ぴーー!」
マルスは目の前でヒラヒラ飛んでいる蝶にビビり散らかしていた。真っ黒な目には涙が溜まっている。
イベントの前にマルスの育成をしなくては!
◇◇◇
「蝶も怖いの?」
「ぴ」
うん。と頷くマルス。言葉はもうバッチリ通じているようだ。
しかし蝶も怖いのか……。
蝶はエネミーだが、攻撃力はそんなにない。状態異常をおこす鱗粉を降らせてくるだけだ。沢山いたり、存在に気づかないと厄介なエネミーだが、一体だけなら鱗粉は色がついていて避けやすいし、鱗粉を落とす前に一撃入れてしまえばそんなに怖くはない。
そんな弱小エネミーですら怖いのなら、本格的に戦闘に向いていないのかもしれない。
これはエルバッキーに相談したほうが、いいのかもしれない。同じ宇宙生物だし、火星人の戦闘の仕方とかは聞いてなかったし。
それにそろそろ、拠点の更新もしないと。
装飾の街と王都の私の拠点は宿屋だ。利用しなくては拠点登録が削除されてしまう。
そうと決まれば、善は急げ。とっとと行こう。
「という訳で相談しに来たよ。」
「……しかたないですね げんきにしてましたか かせいのこ」
「ぴぃ〜!」
マルスは元気よく返事をすると、エルバッキーの尻尾へと駆け寄り遊び始めた。
尻尾をパタパタと動かしてくれるエルバッキーも、なんだかんだでマルスを可愛がってくれているようだ。
「えへへ、ありがとね。」
「しょうがなくですよ…… つめたくして てきいをもたれても こまりますから」
素直じゃないな、ツンデレかよ。
「っと、それより、マルスの戦闘についてなんだけど、火星人って戦闘できないの?」
「そんなことはないですが…… まるすはたたかいを いやがっているのですか?」
「嫌がっているっていうか、ビビってる。超怖がってる。」
エルバッキーは少し考えて、もしかしてですが、と口を開く。
「うまれたときの じょうきょうが ほかのかせいじんと ちがいすぎているのではないでしょうか」
つまり、他の火星人は例えビビりでも一人で産まれて、隠れながら血を吸って、生活して、の一人きりである程度まで生きなくてはいけないので、大きくなった個体は自然と戦闘能力が身につくんじゃないだろうか、というわけだ。
マルスは私達がいる。お腹が空いたら食事を貰えて、呑気に寝ていても襲われない。怖いときは庇ってもらえるし、寂しいときは甘やかしてもらえる。そういう状況だから、マルスは戦闘能力を必要としていないのかもしれない。とのことだ。
「じゃあ、戦いは難しいのか……、まあ、しょうがないよね。」
「……まるすにたたかってほしいのですか?」
「戦ってほしいっていうか、戦えたら今後の探検にも召喚でつれていけるなーってだけ。戦えないならそれはそれでしょうがないし。」
「ふむ………… すこしまちなさい」
少し考えるそぶりをしたエルバッキーは振り返り、尻尾で遊んでいたマルスと話し始めた。
しかし、そうか。育った環境の違いか。
生きるか死ぬかの野生とぬくぬく暮らしている人飼いでは、確かに違うだろう。こりゃ戦闘は無理か……。ちょっと残念な気もするけど、しょうがないね。
「またせましたね」
「あ、話終わった? ってどうしたのマルス。」
「ぴ」
さっきまでエルバッキーの尻尾に楽しそうにじゃれていたのに、今は見る影もなく大人しい。
「何話したの?」
「ないしょです」
「えええ、なんでよ。マルス凄い静かじゃん、何言ったのさ。」
「うちゅうせいぶつどうしのひみつです にんげんにいっても わかりませんよ」
「なんだとう。」
ふふん。と鼻で笑うエルバッキーにカチンとくる。この野郎。
マルスはじっと黙って、まるで何かを考えているようだった。
「それより まるすのせんとうくんれんは つづけてください」
「それは、大丈夫なの? 嫌がっているけど……。」
「ようはなれですよ たたかえないわけではありませんから そのうち ねっせんだせるようになります」
熱線! ビームみたいなものか。でもそれが出せるなら、遠距離から攻撃できるし、ビビりでも安心して戦えるかも。
「おおー! いいね! 宇宙人じみてきた!」
「もとから うちゅうじんですが…… まあ いいでしょう なのでせんとうの くんれんをつづけるように まるすにはつたえてます かれも どういしました」
「そうなの? マルス大丈夫?」
「ぴ」
マルスは静かに頷いた。何を言われたのか気になるけど、嫌がってはいないみたいだし、大丈夫かな……。
「わかった、またなんかあったら相談に来るね。」
「ええ また」
エルバッキーに挨拶をすると、マルスを手の上に乗っけてから羊村に〈帰還〉する。
マルスがやるって言っているうちに戦闘訓練させてみようと思う。
羊村に帰って来ると森から蝶を一匹捕まえて、森と村の境目で放し、マルスと対峙させる。
マルスはビクッと一度身を震わせたが、逃げたり泣いたりはしなかった。
そして、ひらひらと飛んでいる蝶に向けて触手を一本向けたと思ったら、触手の先端が光り始める。
もしかして、もう熱線を!? アドバイスしてもらっただけでもう打てるとか、うちの子天才かもしれない。
と親ばかみたいな事を考えながら見守っていると、触手の先端から光がこぼれた!
ぴゅるる~
「ぴぴぃ……。」
熱線は出た。出たには出たけど、触手から出た光はまっすぐ飛ばず、へろへろと波線を描きながら重力に負けたように地面に落ちた。
マルスは熱線を失敗してしまったせいか泣きそうだ。私は蝶が私関係ありませんわと言わんばかりに森に帰っていくのを見ることしかできなかった。
先は長いかもしれない……。