33.子育て
火星人を飼い始めた。
名前はマルス。マーズでも良かったが、強く育って欲しいので火星に関わりがあり、軍神でもあるマルスにした。
マルスは産まれたばかりで、まだ小さい。手乗りにできるくらいの大きさだ。
食事は血。私の血をあげてはいるが、際限なく飲まれても困るし、他の人から飲まれても困るので私が手を差し出し、飲んでいいという時だけ血を飲む様に教えた。言葉は伝わっているようで、理解は早い。
子供の今は血のみを飲ませて、成長したら他の液体に血を混ぜて飲ませることも可能だそうだ。ただ一番の栄養になるのが生物の血だから暴走させないようにと釘を刺された。
マルスを飼えるようになった事は喜ばしいのだが、残念な事もあった。
エルバッキーのクエストは失敗扱いになってしまった。
卵を全部集めきれなかったし、孵化した火星人を退治しなかったので報酬を渡す訳にはいかない。と言われた。
水晶の卵も気になっていたので残念。どういう効果のアイテムか聞いてみたが、それは教えてもらえなかった。
その代わりに集めた火星人の卵を貰った。
この卵はもう私が手に入れてしまった時点でアイテム扱いになり、孵化はしないそうだ。
使い道は今までより効果が高い回復薬を作れるそうだ。あとで薬屋に持って行ってみよう。
そして次の目的はというと、まだ決まってない。
本当はジャッカロープを探しに、叫びの森を越えて山村に行こうかとも思っていたのだが、まだ小さくて弱いマルスを連れていくのは危険すぎるのではないかと考えたのだ。
私がマルスの教育と監視する必要があるので、羊の村に預けるわけにはいかない。そうすると連れて歩くことになるのだが、マルスはまだ強い攻撃に耐えられないと思うので、ある程度成長してからじゃないと怖くて外に連れていけないのだ。
「というわけで、お世話するのにアドバイスとかない?」
「にんげん…… なぜわたしに きく?」
エルバッキーは鼻にシワ寄せて聞く。めっちゃ嫌そう。
「だって、同じ宇宙生物でしょ?」
そうそう、あの後ログアウトしてエルバッキーについて調べたのだ。
驚くことにエルバッキーは日本の神奈川県で目撃された宇宙生物らしい。全然知らなかった。
外見はそのまんま猫で、尻尾がビーバーみたいに大きい。
穏和で優しく平和を愛する性格で、地球には地球を破壊する可能性のある核兵器、毒ガスの調査のために来ており、人間を見守っているらしい。本当にウルト○マンみたいな存在だった。
「マルスがそこら辺の人間を襲うようになったら、エルバッキーだって困るでしょ。どう育てていくかの相談乗ってよ。」
「それをいわれると そうなのだが…… しかたがないですね…… しっかりそだてるのですよ」
エルバッキーは嫌そうだし、ちょっと図々しいかな? とも思ったが、成長したマルスが人を襲うようになってしまったら、始末しなくてはいけないのは多分私だ。
もしかしたらマルスの味方をして人を餌として差し出す、悪役プレイみたいな選択肢もあるかもしれないが、別にそんなプレイはしたくないので、友好的な火星人として育てたいのだ。
エルバッキーは私の掌で平たくなって寝ているマルスをまじまじと見る。
「いちおう あなたをおやだと おもってはいるみたいですね」
「よかった、すりこみはできてたんだね。」
懐いているそぶりはあったので、親だと思ってくれているとは思っていたが、私の血しか与えていないのでちょっと不安だったのだ。餌と思われていたらショックだった。
「そだてかたは にんげんのそだてかたと そうかわらないでしょう しかるときはしかって ほめるときはほめる にんげんのかちかんを おぼえさせるのです ただし あまやかしすぎては だめです おやではなく げぼくあつかいになったら かせいじんのほんのうが めざめ ひとをおそうでしょう」
なるほど、可愛いからって甘くなりすぎる対応はダメってことね。自分の子供のように接しろってことかな。
…………私、子育てしたことないけど大丈夫かな……。
「にんげんは かわいいそんざいのげぼくになってしまうと よくききます きをつけてください」
可愛い存在の下僕……。
猫とか犬飼っている人は甘やかしすぎて下に見られているっていう、アレだよね。
今はペット飼育している人は、定期健診の際にペットとの関係性も見られて厳しく指導されるって聞いたことがある。
エルバッキーは見た目猫だから、人間がそうなりやすいのをよく見るんだとか。
猫に好かれたいプレイヤーが、野良猫に低姿勢でご飯を上げているのとか、赤ちゃん言葉で話しかけたりとか、アイテムを奪っても許されていたりだとかをよく見るらしい。
そういうのはごく一部だと思うけど、猫的にはよく見る人間がそうだから不安らしい。
「あー、気を付けるよ……。もし甘やかしてたりしたら注意してね。」
カラクルさんと村長にも言っておこう。
「あとは そうですね だっぴをにかいしたら せんとうにさんかさせても いいでしょう」
「火星人って脱皮なんだ!? ……脱皮ってどの位ではじまるの?」
「しょくじをやって よくねむれば すぐにでも」
「へぇー、……そういえばさ、野生の火星人とかっていないの? 私は孵化させちゃったけどさ、他は孵化する前に回収できてるの?」
「ぜんぶがぜんぶでは ないです ふかしてしまったこたいも いるでしょう しかし ふかしたてならば にんげんにきがいがおよぶまえに なるべくたいしょできます」
何でも野生の火星人は食事をとるのも、眠るのも隠れながらやっているので、そんなに早くには成長しないらしい。その間に猫ネットワークで見つけエルバッキーが対応していたそうだ。
もしかしたら見逃していて、生態になっている個体もいるかもしれないから気は抜けないとのことだ。エルバッキー本当に忙しいな。
今回クエスト失敗してしまった負い目もあるわけだし、また何かあれば協力することを約束した。
「ふむ かせいじんとたたかうことに なってもですか?」
「べつに? マルスが嫌がったら考えるかもしれないけど、火星人と戦うって展開も楽しそうだしね。」
オカルト好きとしては侵略してきた宇宙人と戦うってのも有りだし、仲良くなるってのも有りなのだ。
それを聞いたエルバッキーは呆れたように息を吐き出した。
「にんげんは ふくざつで わからないですね」




