29.胎児探し
ジャッカロープにも会いたいが、まずは近場から済ませようと思う。
装飾の街でエイリアンの胎児探しだ。
リュウの話によると裏路地のジメッとしたところにいたらしい。大きさは四センチくらいと非常に小さいので見つけるのは大変だろう。
リュウはたまたま猫に咥えられていたのを発見。猫は急に迫ってきた人間に驚いて、胎児を落とし逃げていったそうだ。餌にでも見えていたのだろうか?
というわけで猫が集まる場所をメインに探してみようと思う。
人通りの多いマーケットではなく裏路地の多いアパートメントがある通りで猫を探しながら考える。
そもそもエイリアンの胎児とは何なんだろうか?
現実でもその存在はそうではないかと言われているだけで、他には何かの突然変異ではないかとか言われていてよくわかっていない状態だ。
色は白濁色で卵みたいな見た目に触手が一本生えていて、表面はぬめぬめとテカっている。なんとなくイカとかタコに似ている印象だ。
……まあ、海鮮物っぽいから猫も持って行くのかな。
そもそも胎児だったとしたら胎児を落とす宇宙人ってなんだ。生き物の親としてダメなんじゃないだろうか。それとも宇宙人は地球生物と考え方も生態も違うから、落としてもいいんだろうか。
…………宇宙人のことを考えると訳が分からな過ぎて駄目だな。未だに実際にいるかわからない存在だから、想像で補うことしかできない。
なんだか訳のわからぬことをつらつらと考えているうちに猫を見つけた。運がいいことに白っぽい何かを咥えている。
直ぐに発見できたことに嬉しい思いを持ちながらも、罠ではないかと疑う自分もいる。前回のマンドレイクの件もあるし油断はできない。
猫はそのまま裏路地に入り込んだ。猫から取り上げてもいいが、アレを食べるのかが気になって少し後をつけてみることにした。
メイン通りから裏路地へ行くと別の世界に入ったかのようにぐっと静かになる。人もいなくなるし、煉瓦造りの家に遮られて声も届きづらくなるし、日当たりも悪い。
人目を避けたい宇宙人ならいるかもしれない。
猫は迷わずスタスタと進んでいる。どこに向かうのだろうか、子猫の餌? それともボスに献上するため?
同じ餌場に暮らす猫は縄張りを守るためにコミュニケーションをとることがある。所謂猫集会だ。
今では野良猫をそのままにしておくことはあまりないので見られないが、昔はよくあったらしい。アニメでも空き地に猫が集まっている描写とかあったりするし。
猫をつけていくと路地の行き止まりで、何匹かの猫が集まっているのが見えた。大きな猫を囲んでそれぞれ座ってうにゃうにゃ鳴いている。
大きな猫はボスだろうか。赤茶色の体毛をしていて、図体もでかいけど尻尾もでかい、何か縦長のうちわみたいな形をしている。
そのボス猫の前に白くて丸い物が、山積みになっている。どうやら他の猫たちもアレを集めてボス猫に献上しているようだ。食べるんだろうか?
「よくやりましたね あなたたち。まだまだ このまちに これはたくさんあるでしょう。こんごも しっかりと さがしてもらいますよ。」
!!!
喋った………!
外国人が慣れない日本語をゆっくり話すような拙さで、その猫は喋っていた。
ボス猫を取り囲んでいる猫は答えるようにニャーニャーと鳴いて返事をしているようだった。
喋れるのはあのボス猫だけらしい。
「まったく こまりますよ こんなものをばらまいて……。」
喋れる猫。猫又だろうか……いや、尻尾が二又にわかれていない。他に猫のオカルトってなんだっけ?
考え事に夢中になっていると足元でニャーンと声がした。
足元を見るとこちらを見上げて鳴く猫が一匹……。
恐る恐る猫集会に顔を戻すと、暗闇で光る目とばっちり目が合ってしまった。
「にんげん! なにしにきましたか!」
ボス猫の目が暗闇でピカッと光ったと思ったら
「いたっ!?」
手に軽い衝撃。体力も減っている、攻撃されたらしい。しかも目からビームだして! 本当に何だ、この猫!?
攻撃されたからには仕方がない、やられるわけにもいかないし、こっちも反撃させてもらう。
幸いなことにあまり攻撃力は強くない。
ビームが対した攻撃にならないことを悟ったボス猫は毛を逆立てながら叫んだ。
「あなたたち! にんげんおそいなさい!」
その声に周りにいた猫たちはぎらんと目を光らせ襲い掛かってくる。猫の体力バーが猫の頭の上に現れる。
えぇーー、街猫攻撃していいの? 倒しちゃっていいの?
散々虫だの牛だの攻撃しておいて何を、と思われるかもしれないが、街にいる動物はエネミー判定になったことがないのだ。羊村の羊も普通の家畜で、エネミー表示されたことないし、攻撃だってしてこなかった。街の外にいる動物は敵、中にいる動物は家畜かペット、もしくは動物に触れ合いたい人向けのサービスだと思っていたのだ。
だからとても戦いづらいのだが、襲い掛かってくるものはしょうがない。倒すしかない。
しかし
「くっ、できない! わぷっ! うぅ……」
ボス猫の呼びかけでもっと増えた猫が、私に襲い掛かってきたわけだが、痛くはない、ダメージも大したことない、だが、
肉球が……!
肉球が私の顔に押し付けられる! ぷにぷにでちょっと香ばしい匂いの肉球がぁーーー!
しかも私を攻撃するために猫たちが私にしがみ付いてきている!
猫カフェでも動物の触れ合いパークでもこんなにもみくちゃにされたことはないっ!
攻撃しなければという気持ちと、このままでいたい気持ちが私の中で戦っている。
「ふふふふふ わたしはしっている おまえたちにんげんが ねこによわいということを。」
く、人間をよく見ているなこの猫。
しかし! 私は攻撃できないが私以外なら攻撃できる!
「〈召喚〉!」
召喚でカラクルさんを呼び出した、村長だと直ぐに済むけど倒しちゃいそうなので。彼女には買ったばかりのアレを試してもらう。
「カラクルさん! あのボス猫を捕まえてください!」
「わかったわ!」
カラクルさんはボス猫の方に走り出す。猫達はそれを見て私から離れようとしたので、しがみつかれている分はそのまま抱き込むようにして拘束する。
カラクルさんは手に牛のナイフを取り出してボス猫を攻撃し始めるが、でかい図体のくせに身軽にひょいひょいと攻撃を躱している。
「にぶいですね このていどのこうげきは あたりませんよ。」
「えぇー、悔しい! このこの!」
やっぱりカラクルさんは戦闘に向いていない。力も速さも羊男だからそれなりにはあるけど、鈍いというかどん臭いというか……。
このままだと決着が着きそうにない。名残惜しいが猫達を攻撃しようとした時。
「えーい!」
カラクルさんが瓶を投げた。その瓶はやっぱり猫に当たらずに地面に落ちたけど、瓶が割れて中の液体が地面についた途端、ブシュウ! と音を立てて煙が上がった。
「な な なんですか それは 」
「これは毒薬よ! 他にもまだたくさんあるからあなたに当たるまで投げ続けるから!」
そう宣言するとカラクルさんは牛のナイフを消して、両手に状態異常の瓶を持てるだけ出現させた。
思ったよりもビビっている。あの毒薬は当てると毒状態になり、動くたびに体力が減っていく。定番の状態異常だが回復手段がないと厄介だし、麻痺や睡眠状態になれば動きは鈍くなる。
この裏路地は行き止まりで唯一の出口は私がいる方向だ。逃げるには瓶を避けつつ私達をも躱していかなければいけない。私達を倒すには猫の攻撃力が足りない。
しかもこちらには最終兵器村長の召喚もあるのだ。逃がさん。
「にゃ にゃ にゃ ……わかった こうさんする たのむからそれをしまってくれ……」
ボス猫は観念したようで私にしがみ付いていた猫達も離れていった。……もう少しあのままでもよかったような気もする。
「わたしは あるたーごぞ・えるばっきー・むにゅーだのひとり わたしたちは にんげんをこうげきするいしはない。」