26.後始末
騎士団宿舎はボロボロで住めそうにない。ハヤブサがリスポーンした時に、大蛇姿の清姫も部屋に現れたので内側から壊れてしまったのだ。仕方がない。狭い部屋にあんなでかいものが出現したらそりゃそーなる。
だが怪我人はいるが死人はいない。ほとんどが宿舎が崩壊した時に巻き込まれた者で、清姫の攻撃に巻き込まれた者もいたが、清姫はハヤブサを執拗に狙っていたので他の人には見向きもしなかったので、ちょっと攻撃が掠ったとかその程度で済んだ。不幸中の幸いといえるだろう。
清姫は完全に鐘の中に吸い込まれ沈黙している。
どうやらこれで完全に終わったらしい。
何だか長かったとも思うが、私達が鈍すぎたともいえる。体力が減らない状態になった時に、アイテムを使うことを思いつかなかったこと、清姫伝説を知らなくても手に入れた重要アイテムは鐘だけだったので、アイテム欄に鐘が残っているのを確認していたなら、平原で決着をつけられただろう。
でも悪いことばかりじゃなかった。
クエストクリアの報酬はなんと五〇〇〇ゴルド。今までの苦労も吹っ飛ぶ良い報酬。ドロップ品を売って稼いだ金なんて雀の涙。
そして最終決戦に巻き込まれたプレイヤー達もクエストに参加したとみなされ、キヨの背景を調べた私達よりも少ないが報酬を貰っていて、いいの? でもラッキーという顔をしていた。
清姫が封印された鐘はキヨの自殺した部屋に置かれることになった。
これからは繰り返しできるミニゲームクエストになったのだ。
鐘に触れると異空間に飛ばされ、清姫に追われながら清姫の背景を調べ、アイテムを手に入れ、最後に戦闘という感じのよくあるホラーゲームみたいな感じだ。
このミニゲームを受けることで、今回のクエストに参加できなかった人も清姫をオカルト図鑑に登録できるのだ。
私も気になってやってみたが純粋にホラーゲームとしても面白い。おどろおどろしい清姫に追いかけられ、隠れたりする緊迫感が面白かった。
そしてやっと解放されたハヤブサはというと、騎士団の人にめっちゃ怒られてた。
まあ、ハヤブサが原因だからね。
でも憑りつかれるとか普通は思わないから少し可哀想。リュウもそう思ったのかフォローしていた。
流石にクビにはならなかったが好感度は駄々下がりなので、当分は好感度上げのために騎士団の仕事を頑張ると言っていた。
そして憑りつかれたことで新たなスキルを手に入れたようだ。
その名も〈怨霊召喚〉。
キヨに憑りつかれるほど好かれ、清姫になるほど執着された結果、発現したスキルらしい。
このゲーム、好かれれば好かれるほどに好感度は上がるが、その好感度はプレイヤーとっていいものばかりではないということがわかった。
甘くなったり、優しくなったりはするのが大半だが、今回は好きすぎて殺されかけ、ついには恋情が行き過ぎて憎しみになってしまった。滅多にないと思うが私も気を付けようと思う。
〈怨霊召喚〉の内容だが、これはそのまんま清姫を召喚できるというもの。火を噴けるし、あの巨体だ、戦闘にはすこぶる役立つだろう。だが、強力な代わりにデメリットもあった。
まず〈召喚〉スキルが消えた。
スキルが消えた時にアナウンスがでたそうだ。
▽ 残念! 清姫の嫉妬により清姫以外を召喚することができなくなってしまいました!
と。
召喚する相手は増やせないかもしれないけど、ボス級が召喚できるならいいじゃん。と思う人もいるかもしれない。
だがハヤブサは恋愛ゲームみたいなことできるかもしれない、という理由もあってこのゲームを続けていたのだ。
複数の女の子とわちゃわちゃしながら探検したいという、ゲームでしかできないような夢は潰えたのだ。可哀想。
それでも折角危機を乗り越えたから、とハヤブサはこのゲームを続けると言っていた。頑張れ。私には応援することしかできない。
というわけで何だか長かったような、実際はそうでもなかったようなこのクエストは終了したのだった。
◇◇◇
「むうぅぅ……。」
困った。
目の前にはむくれるカラクルさん。
「私って役立たずね……!」
どうしよう。
清姫のクエストが終わると私は羊村に一回帰ってきた。
数日はここで羊飼いをして遊ぶのも悪くないと思ったのだ。
村長に挨拶をして、カラクルさんに会いに来たら、これだった。
「あんぱんちゃんが呼び出してくれるのは嬉しいんだけど、私、戦ってないじゃない。役に立ててないわ。」
困った。
確かにカラクルさんは戦闘要員ではない。それは村長ほどの力と体捌きを持っていないからだ。だからといって戦えないわけでもない、実は。食人木と戦った時ナイフでダメージを食らわせたこともあるので、やろうと思えばできるのだ。強くはないかもしれないが。
「村長は結構呼ばれてるわよね……、私も戦えるようになった方がいいのよ、絶対。」
だって村長強いんだもん。戦闘面では物凄い頼りにしている。
カラクルさんはサポート面をお願いしているから、別に苦労しない普通の戦闘では呼んでない。やることないのに呼んでも失礼だと思うのだ。
「……私、村長に戦いのやり方教わってくるわ!」
「ええっ!」
カラクルさんは走って家を飛び出してしまった。
戦闘のやり方って教わってどうにかなるんだろうか? この世界レベル制じゃないし、誰でも〈召喚〉で呼べる可能性があるから、それなりに戦える人が多いだろうし、戦えない人、戦ってこなかった人は、カラクルさんのように召喚されてから特殊能力を得る可能性がある。
カラクルさんも食人木と戦った時は、戦闘慣れしていないことは自分でもわかっていたと思うし、だからこそ協力して倒せたことに凄く喜んでくれたけど、村を出て通常戦闘、ボス戦闘で優先的に呼び出すのはどうしても村長になる。村長がめっちゃ戦える人だから、カラクルさんは余計に無力感を感じてしまったのかもしれない。
とりあえず私もカラクルさんを追うことにする。村長に戦闘を教わると言っていたから村長の家だろう。
村長の家に着くと怒っているカラクルさんと困っている村長がいた。
「だから無理ですって。」
「でも私役立たずはいやなのよ~!」
「役立たずじゃなかったでしょう。サポートも立派に役に立ってましたよ。」
「でも~。」
清姫の時も回復薬をハヤブサに投げてもらって助かったけど、カラクルさんは多分普段の戦闘も出たいんだろうな……。
あ、そうだ。
「カラクルさん、これは前から考えていたんですけど、使い捨ての戦闘アイテムがあったらカラクルさんに投げてもらおうかと考えてたんです。」
そうファンタジーゲームではお馴染みの、でも使わなくていつの間にか大量にアイテム欄に居座ることになるもの。炎の石とか氷の石とか投げてダメージを与える魔法アイテムだ。進化の石ではない。
カラクルさんは私の所持しているアイテムを自由に引き出せるので、もしそういうのがあったら任せようと思っていた。
が今の所そういうものはない。ないが、ないなら他のものを投げればいいのだ。




