25.意外とあっけない
ハヤブサがロストした。
それはまだいい。いや、よくないんだけど、戦闘の中でやられてのロストだからまだいい。
清姫も消えた。これがわからない。
ハヤブサがロストして、仕方ない、あとは私達だけでやるぞ! ってなった時に消えたのだ。頭の中は疑問符だらけである。
「………もしかして、さ、」
リュウが思いついたようにゆっくり話し出す。
「清姫はハヤブサに憑りついている霊だろ? ハヤブサがログインすると後ろにいるって言ってたからさ、ハヤブサがロストして、騎士団宿舎にリスポーンしたらさ、清姫も憑いていくんじゃないか?」
それを聞いて、ああー、と頭を抱えたい気持ちが湧き上がってくる。
そうだった、ハヤブサが走り回っている時は追いかけっこ状態になっているとはいえ、スタートはハヤブサと同じ地点からなのだ。
しかもハヤブサがいないときに宿舎や街でキヨの幽霊を単体で見たという話はなかった。ハヤブサがログインすればキヨは姿を現していた。
それでいくなら、ハヤブサがロストしたら清姫も消え、ハヤブサがリスポーンすれば清姫も同じ場所に現れるというわけもわかるが、
「…………ヤバくない?」
ヤバくない? それ。
清姫が宿舎に現れていたら最悪だ。街中で戦闘が発生してしまう。
「やばいと思う。あの状態の清姫が宿舎に現れていると思う? またキヨに戻ってると思う?」
「……キヨに戻っているならまた心閉の鐘をぶつけなきゃいけないし……、そういえば、心閉の鐘って使い捨てなの?」
ホラーゲームには重要なアイテムは使ったらなくなる、ということがある。いやホラーゲームじゃなくてもあるけど。
なくなったのなら今後は使わないアイテムなので、清姫状態で宿舎に現れているはずだし、あるのならキヨ状態の可能性は高い。
「えと……、あった、心閉の鐘。アイテム欄にばっちり残ってる。」
ということはキヨに戻っているのか。
「じゃあ、やり直しだね。キヨを清姫にしてここにおびき寄せる。そのあと戦闘して、ハヤブサを守りながら清姫の最後をどう削りきるか色々試そう。」
「わかった。でもハヤブサの守りはどうする?」
これには私に考えがある。
カラクルさんだ。カラクルさんを〈召喚〉して死ぬ前に回復薬をガンガン投げてもらえばいい。最後の清姫はハヤブサしか見えてなかった、ハヤブサを何としても殺してやるという気迫がすごかった。からカラクルさんには攻撃しないだろう。
それよりも削りきる方法だ。キヨ関連のアイテムは心閉の鐘しかなかったし、焼身自殺だから火でもやすとか?
「伝説の方の清姫はなんか弱点とかあったっけ?」
「……ないよ。あの話は清姫を退治する話じゃないし、しいて言うなら最後は入水自殺する……。」
なんか、なんかおかしい? 清姫は『安珍清姫伝説』の清姫をなぞっているけど、よく考えるとおかしいところがある。
清姫は焼身自殺じゃなくて入水自殺だし、どっちかっていうと火で死んだのは安珍のほうだ。鐘の中に入って蛇から隠れたのも安珍。あと術者というか僧なのも安珍。
清姫と安珍の話が混ざっている? まあ、ゲームだしプレイヤーを巻き込んでのイベントなら伝説通りに何て動かないから、創作が混じるのもわかる。清姫は蛇の血を引いているなんて話はないから、蛇様の話は創作だろうし。
「あんぱん?」
「何か思いつきました?」
「思いついたっていうか……まだわかんないけど。清姫は清姫と安珍の話が混じってる存在なのかなって……。」
村長はわからなそうな顔をしていたが、リュウはピンときたという顔をした。
「俺も清姫伝説は概要しかしらないけど、何となく言いたいことはわかる。鐘の中に入ったって話は清姫じゃないしな。」
二人で顔を合わせてうんうん唸ってみたが、どうにもわからない。
するとパンパン! と手を叩く音がした。
「はい、そこまでそこまで、考えるのはまた敵と相対した時でいいんじゃないですか。そんな事よりもう一人のお仲間さんが待っているんじゃないですか。」
「「あ。」」
それもそうだった。ハヤブサが王都でまた叫びながら逃げ回っているかもしれない。
私達は〈帰還〉で王都に戻った。
◇◇◇
私は宿に帰ってきた、そばには村長もいる。リュウとハヤブサにも話したし、一々また王都出てから召喚するのも面倒くさいのだ。
外に出ると何だか騒がしい。NPC達がバタバタ走り回って、貴族街の方を見てガヤガヤ喋っている。
何だか嫌な予感がする。
目の前に半透明な画面が現れる、リュウからのチャットだ。
『大変だ! ハヤブサが戻ったら、清姫も清姫状態で騎士団宿舎に現れたらしい! 宿舎はもうボロボロだ! 加勢にきてくれ!』
やり直しじゃなかった!!
NPC達があんなに騒いでいる理由がわかった。予想外なことに清姫は大蛇の姿で現れてしまったらしい。街で暴れられたら、NPCが死にかねない。急がないと!
貴族街に続く階段から、人が逃げてくるのを逆らって騎士団宿舎へ急いで走ると、宿舎は壊滅したようにボロボロで周りには騎士の人達が倒れている。
清姫にはリュウとハヤブサ他にもプレイヤーが数人手伝って抑えているようだ。弓を持っているプレイヤーが火矢を放つが清姫はびくともしていない。
「カラクルさん! 村長! 倒れている人達を安全な場所に移動させましょう!」
私はカラクルさんを召喚しNPC達を移動させる、何とか命は助かっているようで、体力はギリギリだが残っていた。
悪いが回復は後回しにして、加勢に向かう。
「今どんな状況!?」
「清姫が消えた時と同じだ! 体力はあと少しで動かなくて、執拗にハヤブサを狙っている! 」
清姫に目を向けると、他の攻撃するプレイヤーにも目をくれずハヤブサを追い続けている。
とりあえず私はカラクルさんにハヤブサを回復し続けるように伝える。
「倒し方は何かわかった!?」
「……協力してもらって試したけど、水も火も駄目だった。憑りつかれたハヤブサの攻撃しか通らないかもとも思ったけど、それも効かなかった。……だからあとはこれしかないと思う。」
リュウは心閉の鐘を取り出した。
「清姫は鐘の中に入った安珍を殺しただろ。さっきあんぱんは清姫と安珍が混ざっているのかもって、だったらあの清姫に鐘をもう一度ぶつけたら倒せるんじゃないか?」
「可能性は高いと思う。このイベントで手に入ったアイテムってそれしかないわけだし。」
じゃあ、そういう訳で、ということで、リュウは心閉の鐘を清姫に投げつける。
ポンと鐘が清姫の体に当たると、
――――あ ああぁぁぁあぁあああぁぁぁあああ!!
清姫の体が黒い靄に包まれる。
――――嫌! 嫌! 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!! 一緒に 一緒にぃ ……―――
そのまま鐘に吸い込まれるように消えていった。
シンと静まり返ったなか、ハァーーーーーーーッと大きなため息をついてしまう。
あんなに引っ掻き回されたのに終わりはあっけないものだ。
▽ おめでとうございます! 清姫が封印されました!