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Occult-Life-Online  作者: シンヤ
25/49

24.恋情が憎悪に変わる時

 清姫。

 安珍清姫伝説にでてくる少女である。

 簡単に説明すると綺麗な僧の安珍に一目惚れした清姫が、安珍に迫るが安珍は僧のためこれに戸惑う。

 安珍は適当に、寺に行った帰りにまた会いましょうと清姫を言いくるめとんずらをこくが、騙されたことを知った清姫はぶち切れて安珍を追いかける。

 追いかけ追いかけ、安珍憎しでついには大蛇に姿を変えた清姫は、鐘の中に逃げ込んだ安珍を鐘の外から炎を吐き焼き殺してしまうのだ。


 歌舞伎や人形浄瑠璃でも有名な話である。





 ――――恨めしい 恨めしい どうして どうして……。


 しまった! こんな展開は想像していなかった!

 今思えばヒントはそこら辺にあったのだ。

 鐘に蛇に思い込みの激しい女! 全部安珍清姫伝説にでてくる代表的なものばかりだ!


 大蛇はとぐろを巻いて私達を見下ろしている。口からはシューシューという音と共にチロチロと火が見えていた。


 「きゃあぁぁ!」「化け物がでたぞーー!」「逃げるんだっ!」


 周りのNPC達が騒ぎ出す声でハッとする。呆けている場合じゃない、この王都の中で火を噴かれるわけにはいかないのだ。


 「二人とも! 戦闘移行作戦! 外にでるよ!」


 私が大声でそういうと二人もハッとしたような顔で頷くと、身を翻して王都の外へ走り出す。私も遅れないようについて行くと、清姫は周りで騒ぐ人々は目に入らないようで私達に真っ直ぐ向かってきた。


 ――――待て 逃げるか! 逃がさない!




 走って走って、王都から少し離れた平原で遂に清姫の口から炎が溢れでてきて、火炎放射器からでるように私達に真っ直ぐと襲い掛かってきた!


 「横に飛ぶんだ!」


 リュウの声に反応し、私とハヤブサは転がりながらも横に飛ぶ。

 炎は平原の草を一瞬で黒焦げにし、辺りに煙が立ち上った。


 注意すべき点は広範囲攻撃できる火と清姫の大きさだ、マンションの二階、いや、三階ほどの大きさがあり、胴も太い。締め付けや薙ぎ払いも危険だ。


 「「〈召喚〉」」


 私は村長をリュウは騎士団の盾持ち先輩を呼び出す。


 「これはまた……、凄い相手ですね。」


 「頼りにしてます、村長。」


 「リュウ、お前やべーの相手にしてんな……。」


 「防御頼みます、先輩。」


 基本盾先輩が攻撃を防いで、私達はその隙に攻撃する作戦だ。

 …………攻撃範囲が広いであろうことと、盾先輩に必ずヘイトが行くわけじゃないので、作戦とも呼べない作戦、というかもう、やっぱり行き当たりばったりだ。

 しかしまともな作戦を思いつく頭もないので、当たって、砕ける前に回復して、また当たるしかないのだ。


 「よし、いくぞ!」


 「これ、俺が大変なやつだよね……?」


 盾先輩が何かぼやいているが、聞いている暇はない。


 私達は一斉に攻撃にかかる。私はホーンで、リュウとハヤブサは剣で攻撃すると、体力バーは削れる。

 攻撃は普通に通るようだ。


 そのままもう一撃くらわそうとホーンを振り上げるが、急に襟首を掴まれ引っ張られる。


 「ぐえっ! 何……」


 文句を言おうと思った、次の瞬間。


 ドゴン! と音を立てて鱗がびっしりと生えた尾が目の前の大地を砕いた。あのまま攻撃を続けていたら、大ダメージをくらっていただろう。


 「少し周りを見て攻撃しましょうね。」


 「ふぁい………。」


 そのまま村長に連れられて後ろへ下がる。リュウとハヤブサは盾先輩が庇いながらこちらに向かってきた。


 「さて、皆さん。普通に攻撃していても相手は中々簡単にやられてくれませんので、適当に攻撃するのではなく、役割を決めて戦いましょうね。」


 やっぱり村長は頼りになる。…………考えなしですいません。




 清姫は待ってくれないので作戦は手早く伝えられた。

 私と村長と、リュウと盾先輩、ハヤブサでまず左右に別れる。


 清姫は左右に別れた私達を見て、少し迷うそぶりをしたがハヤブサを攻撃することにしたらしい。

 こちらからは、ハヤブサの方を向いた清姫の後頭部が見えるが、それが狙いだ。村長はそこに向かって、私を勢いよくぶん投げた。


 「〈回転連撃〉!」


 清姫の頭に回転するホーンが当たると、ギャアッと悲鳴をあげて私の方に攻撃しようと振り向くと、


 「こっちだ! 〈渾身斬〉!」


 その隙にリュウたちが攻撃をする。

 清姫がリュウたちを攻撃しようとあちらを向けば、私達がまた攻撃し、こちらを見ればリュウ達が攻撃をする。を繰り返す。単純なヒット&アウェイ攻撃だ。


 だがこれは有効だったようで、清姫は見事に翻弄され折角の巨体もこれではいい的である。

 偶に攻撃が当たるけど、一撃でやられるほどでもないので清姫がリュウ達の方を見ている隙に回復薬を被る。リュウ達も盾先輩が防いでる隙に回復薬を被り、先輩にもかけているようだ。

 これなら順調に倒せる、食人木より苦戦はしない感じだ。はじまりの街の一つだし、そんなに強くないのかもしれない。


 清姫の体力バーは半分以下へと減り、いける! と思った瞬間。


 ――――あああああああああーーーー!! どうしてっ!


 清姫は手当たり次第に炎をまき散らし始める。


 「あちっ!」「さがれっ!」「もう少しなのに!」


 ――――どうして どうして どうして 一緒に来てくれないの!?


 清姫は叫び続ける。


 ――――貴方のために死んだのにっ! こんな姿になってまで!


 清姫がハヤブサの方を見る。


 ――――許さぬ 許さぬ 許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ!


 清姫はハヤブサしか見ていない。


 ――――せめて せめて貴方を  貴様を殺さねば気が済まぬ!!



 そう叫んだ途端、清姫は勢いよくハヤブサの元へ迫った。


 「げぇ! やば! 村長! 投げてください!」


 盾先輩とリュウがハヤブサを庇いながら戦っているが、清姫は見向きもせずハヤブサを狙っている。

 私も清姫の頭部に着くと殴りつけ、村長も追撃で殴るが清姫は止まらない。体力バーがどんどん減っていくたびに清姫の猛攻は激しさを増す。


 「くそっ、すまん!」


 「先輩!」


 ついに盾先輩が耐え切れず消えてしまった。


 「ハヤブサ! 相手はお前を狙っている! 逃げることに専念しろ!」


 盾がいなくなった今、まともに攻撃をくらえばロストしてしまう。数撃なら耐えられるが、今の清姫は回復する隙を与えずに攻撃してくるだろう。

 幸いといっていいのか分からないが、ハヤブサを狙っている分、私達は清姫からの攻撃を気にせず攻撃に専念できる。


 ――――まて! まて! 逃がさぬ 決して逃がさぬ! 焼き殺してくれるわ!


 清姫はまるで私達が見えていないように、攻撃されながらも真っ直ぐにハヤブサに向かう。この巨体だ、すぐに追いつかれてしまうだろう。その前に倒さねばならない。

 

 早くしないと! 体力はもうすぐ削りきれる!


 「あんぱん! 何か変だ!」


 リュウが斬りつけながら叫ぶように声をかけてくるので、私も叫び返す。


 「何!?」


 「よく見てくれ! 体力が減ってない!」


 「えっ!?」


 清姫の頭上に表示されている体力バーを見ると、あと数センチで削りきれるというところで止まっていた。

 こうしている間も村長が殴りつけているのに残体力はピクリとも動かない。


 「何で!?」


 「わからない! 何かしないといけないのかもしれない!」


 何かって何!?


 私達が混乱に陥っているとついに清姫はハヤブサに追いついてしまった。


 ――――恨めしや 恨めしや この恨みはらさでおくべきか


 清姫はその巨体でぐるりとハヤブサを囲むと炎を吐き出す。

 ハヤブサの体力バーは弾けてしまった。


 「チックショ、もうすぐだしあと頼んだっス!」


 「わかった! 私達で何とか倒せるかやってみる……」


 ▽ プレイヤーハヤブサがロストしました。


 ハヤブサが消えたその時。



 清姫もその姿を消した。



 え……?

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