23.除霊
「で、どうやって倒すんスか?」
今度はこっちの調べた情報を伝える。パン屋の女将さんの話には落ち込み、旦那さんの話にはビビり、『邪婚の儀式』の話は気味悪そうにし、心閉の鐘を見つけたことにはすごい喜んでいた。
忙しいなこいつ。
「で倒し方なんだけど、心閉の鐘をキヨにぶつけるだけで倒せると思う?」
私が問うと二人は黙ってしまった。
そんな簡単にいくか? って気持ちとホラーゲーム的に考えるとこれでいけるんじゃないかって気持ちの半々ってとこだろう。
「ハヤブサが攻撃できたって言ってたから、キヨと戦闘になる可能性もある。まずは鐘をぶつけて、駄目だったら戦闘に入ろう、三人なら倒せるかもしれないし。」
「そうだね、それでいこう。」
「ありがとっス! じゃあ戦闘になった場合も考えてなんスけど、オレ今〈召喚〉使えないっス!」
「「え。」」
二人して思わず声が出てきてしまった。声かけまくった女の子達はどーした!?
「実は、あの女が怪我させちゃったのって召喚登録できる子達の一人だったんス。怪我させたのプラス憑りつかれてるって噂が流れたら、好感度下がりまくったみたいで……、召喚の名前欄から消えてたんスよ……。」
哀れな……。最後の方は泣きそうな声だったぞ、流石に同情する。
「えーと、俺は騎士団の先輩を呼べる。先輩は盾持ちの騎士だから防御なら任せていいと思う。で俺は両手剣を使ってる、スキルも一つ覚えてるよ。」
リュウが空気を換えるように話し出す。
リュウが攻撃して先輩が防ぐ、バランスのいいコンビだ。ここで遠距離攻撃できるのが加わればもっと強くなるな。
……ふと思ったのだが、ゲームの定番魔法をOLでは見ないのだ。でもキヨみたいな術者もいるからそのうちに出てくるんだろう、多分。
それはさておき、私の手の内を明かさねば。羊男のことを伝えることになるが大丈夫だろう、リュウは信用できる。ハヤブサは……まあ、悪い奴ではない。
それにメリノさんも言っていたが、簡単に来れる場所じゃないし、交流する気もあると言っていたから大丈夫だろう。私もそろそろカラクルさんと村長と一緒に王都を楽しみたいし、いつまでも隠しておけるもんじゃないし。
「私は、〈召喚〉で羊男を二人呼べるよ。一人は戦闘向きで、もう一人はサポート向き。」
「羊男?」「えっ、どこであったんスか!?」
リュウはあまりピンときていないようだったが、ハヤブサは食いついてきたので説明する。
ランダムスタートだったこと、人に警戒していた種族だったこと、北の森と山を越えていかなければ行けないこと……。
「なるほどー、簡単には会えないんスね。あ、でもあんぱんさんが召喚してくれたら会えるのか。」
「羊男は知らなかったよ、そんなUMAがいるんだな。」
二人ともオカルト存在に興味津々だ。まあOLをやっている人は大体オカルト好きだと思うから、当然っちゃ当然か。
「貴重な情報あざっス! 代わりにオレも情報出します! 王都の北東に『のどかな山林』があるんスけどその山林にジャッカロープがでるっス!」
「!! ジャッカロープ! ウイスキー大好きジャッカロープ!?」
ジャッカロープは鹿の角が生えているウサギのことだ。ウイスキーが大好物で、キャンプファイヤーをしていると偶に現れるという。
「じゃあ俺も、装飾の街にはエイリアンの胎児がいた。」
「えっ、嘘! いた!?」
「小さいから見つかりづらいけど、路地裏にいたんだ。」
エイリアンの胎児は四センチほどの大きさの白い楕円形の形をしていて、触手のようなものが一本生えている謎の生物だ。ちょっとミジンコに似ている。
どっちも絶対に見に行きたい……!
その後もオカルトトークで大いに盛り上がって、随分長いこと話し込んでしまった。
◇◇◇
王都掲示板の前。ここでハヤブサとリュウを待つ。
作戦はシンプル。リュウとハヤブサがきたら、私がハヤブサに話しかけてキヨを出現させる。キヨは私とハヤブサを殺そうとすると思うので、その隙にリュウが心閉の鐘をキヨにぶつける。
ここで解決できればバンザイ何だけど、失敗したら走って王都から出て戦闘。といった流れだ。街中で戦闘したら迷惑だからね。
シンプルというか行き当たりばったりだ。キヨがどんな行動をしてくるかわからないので、まともな作戦など立てられないわけだ。
暫く待っていると、二人が走ってくる。今回は叫ぶ必要がないので静かだ。街の人たちはいつもと違う様子を見て訝しげな顔をしている。
私の前まで来ると止まり、リュウだけ少し離れると私は声をかける。
「こんにちは、ハヤブサ。」
声かけは何でもいいのだ。でも確実にヘイトをこっちに向けるために、名前を呼んで知り合いアピールしてみる。ハヤブサも緊張したような硬い顔で挨拶を返す。
「ちわっス、あんぱんさん……。」
さあ、でてこい…………。
するとハヤブサの肩あたりからぶわっと黒い靄が立ち上ってきて、キヨがハヤブサにしがみつく様に出現した。
と思った瞬間、私の目の前に顔がある。
思わず後ずさるが今回は怖くない。ここまでは前回と同じだ。違うのは、
「くらえっ!」
リュウがキヨに素早く近づき、殴りつけるかのように心閉の鐘をキヨの頭に当てた。
その瞬間三人とも息を呑んだ。
「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁー………」
悲痛な叫びとともにキヨの魂は鐘の中に吸い込まれていった。
「…………………………。」
鐘は地面に落ちてガランッと重い音をたてる。
「……終わった?」
「終わったみたい……。」
ハヤブサは気が抜けたようにドサッと地面に座り込んだ。
「終わったんスね~、よかった~~! 二人とも本当にあざっしたぁ!」
「いやいや」
「いいよ、こっちも面白半分だったしね。」
戦闘にはならなかった。考えすぎだったんだろうか、構えていたのであっさり終わったことに何だか拍子抜けしてしまった。
でも謎解きしている時は楽しかったし、また別の幽霊クエスト受けてみようかな。
「いや~~、ははは、緊張しすぎて、未だに心臓バクバクっスよ~。」
「あはは、俺も。何でかドキドキしてる。緊張してたんだな。」
確かに私も何だかドキドキしてるかも、心臓の音が、ドドドドドドドとドラムのように…………………いや、おかしいでしょ。拍子抜けしたってのにそんなにドキドキするわけない。これはアレだ、久々の……。
ちらりと地面に落ちた鐘を見ながら、二人に声をかける。
「二人とも……、」
「ん?」「どしたっスか~。」
呑気している声に苛立つ。そんな状態で心臓が高鳴るかっ!!
「まだっ…!」
―――――― おのれ………
「え……。」「まさか……。」
二人も思い当ったようで顔を青くさせる。
――――――おのれ、おのれおのれおのれっ! 逃がない……逃がさないから!!!!
鐘の中から勢いよく黒い靄が噴出したと思ったら、靄とともに巨大な蛇がその姿を現し、長大な体力バーが出現する。確実にボス級だ。
――――――許さない……! きて 一緒にきて……
▽ NPCキヨが清姫に覚醒しました。




