18.女の霊
怖くはないと思いますがホラー表現あります。
キーワードにもホラー追加しました!
職人街から出て火事になったアパートメントを探していると、またあの男が走り回っている。
今はへばりついていた女の姿は見えない、今なら何か話を聞けないかな。
どうしても気になって男の後を追う。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
叫びながら走る男を街の人たちは、気味悪そうに避けていく。観光客か別の所から来たプレイヤーは男の奇行にビクッとするが、街の人達が慣れたように彼らを誘導していく。慣れるほどこれは続いているのか……。
しかし、ずっと追いかけていても何にもならないな。
変化を求めて声をかけてみる。
「おーーーい! そこの走ってる人ーーーー!」
「あ゛ーーーーーーー!」
変化なし。
「おーーーーーーい! そこの憑りつかれてる人ーーーーーー!」
「あ゛、あああ?」
男は気づいたのか走るのをやめて、くるりと振り返りこちらを見る。
やっと気づいたのか!
「あの! ちょっと聞きたいことが……。」
「え゛、あ、お、お、」
何だか様子がおかしい。
「ちょ、大丈夫ですか?」
「お、お、オレに、」
「オレに話しかけるなああーーーーーーーーーッッ」
男が叫んだ瞬間、何もなかった男の後ろにいつの間にか女が抱き着いていた。そして首に腕を回していた女の幽霊は伏せていた顔をあげて私を見る。
「は?」
目が合った。
と思ったら顔は目の前にいた。
目が、合っている。
血走ったそれが私の目を真っ直ぐ見て、
近づいて近づいて近づいて近づいて近づいて近づいて
顔と顔が重なるかと思った瞬間。
目の前が真っ暗になった。
▽ プレイヤーがロストしました。拠点へと戻ります。
◇◇◇
悔しい。
あの後気づいたら宿屋に移動していた。
ロストしたので宿を使用したと判断され30ゴルドの出費、でも保険で拠点登録しておいてよかった。
しかしあんな一瞬でやられるなんて……。
何だろアレ、呪い?
最後に見た女の顔を思い出す。
血走った目が一番に思い起こされるが、男の肩から顔を上げた瞬間に顔の全体が見えたのだ。
真っ黒な顔に目と剥き出しの歯が見えた。
肌の色が元々黒いわけじゃないだろう、アレは何というか、お肉を間違えて焦がしてしまった時のようなそんな感じの色だった気がする。
……焼身自殺した人って言ってたっけ、気を取り直して火事が起こった場所、探してみるか。
行動しようと宿屋から出ると、目の前にいきなり半透明の画面が現れる。
「うわっ、何?」
画面には『リュウからチャット着信がきています』と出ている。こんな機能あったんだ。
通話を選ぶと画面が『通信中』に変わりリュウの声が聞こえてきた。
『もしもし? 繋がっている?』
「繋がってるよ、どうかした?」
『あいつ、ハヤブサの、あ、幽霊に憑りつかれているやつのプレイヤーネームね。詳しいこと先輩から聞いたら、憑りついている女が自殺した部屋がわかったから連絡したんだ。』
おお、ナイスタイミング。
「助かる! 今からそこ探そうとしていたんだよね。」
『じゃあ、今から行ってみようぜ!』
「ん? リュウも来るの?」
あんまり興味なさそうかな、と思ってたんだけど。
『実は先輩に話を聞いたときに、上から何とかならないかってクエストが出たって聞いてさ。騎士団しか見れない掲示板に本当にクエストあったんだよ! 報酬も結構いいし、一緒にやろうぜ!』
なるほど。王都であんだけ騒ぎになっているし、住民も気味悪がってるから騎士団の上部も動くか。でもプレイヤーの行動でクエストでるとか面白いな。
「いいよー。実はさっき接触したら一回やられてさ、このまま引き下がれないって思ってたとこ。」
『え、何があったんだよ……。』
歩きながら説明するからと断り、広場で待ち合わせをしてから現場に案内してもらうことになった。
「えー、突撃するか普通……。」
「いや、気になったからさ、話せば何かわかるかもしれないと思って。」
「…………(あんぱんっておとなしそうな見た目してるのに、結構イノシシだよな)。」
「あ、あそこ?」
リュウが何か言いたげな顔をしているが、現場らしき場所についたので無視して進む。
火事現場はとあるアパートメントの一室で、焼けた跡がそのまま残っているため、焼けた部屋の窓ガラスは割れてそのままだし、炎が噴き出たのだろう壁に焼けたあとが残っている。
「うわー、結構な火事だったんだね。」
「みたい。一応他の部屋は大丈夫だったみたいなんだけど、火事が起きた部屋はもう使えないくらい酷いって聞いた。」
じゃあ直さずそのままにしておくのかな。自殺だし部屋を綺麗にしても事故物件だし、誰も住まないならあのままでいいと思う。
「うーん、部屋に上がってみる?」
燃えちゃって何もないかもしれないけど。
「一応行ってみてもいいかも、でもその前に管理人さんがいるみたいだから話聞きに行こう。」
管理人室はアパートメントの一階で、管理人室と名はついているが、他の住人と同じように普通の部屋に住んでいた。
「あたしに聞いてもね、何にもわかりませんよ。」
六十くらいのお爺さんがそうぼやく。
何回も聞かれたんだろうなこの話。
「すいません、何でもいいのでお話を聞かせてください。あ、あと、騎士団からこの事件を解決するようにクエストが出て、この騎士団の人と聞き込みをしているところなんです。」
「騎士団から……。本当に詳しいことはわかりませんよ。」
騎士団の名前にある程度の信用があるということは、多分この国にとって騎士団は警察と同じなんだろう。リュウと知り合いでよかった。
「では火事を起こした方の話を聞かせてください。」
「えーと、名前はキヨさん。女性、十六歳。ここの三階に暮らしていたよ、若いのに一人暮らしでな、何でも修行のためにこの国に来たとか言ってたような。」
随分日本風な名前だ。もしかしたらこのゲームにも日本に似た国があるんじゃないだろうか? 日本のオカルトといえば妖怪や都市伝説。日本は何というか湿度の高いオカルトが多いので実に楽しみ。そういえば図鑑に八尺様が載ってたな、ランダムスタートで日本風の場所からスタートしていたこともあったのか。
私が日本のオカルトに意識を飛ばしていると、リュウが気になる点を聞いてくれた。
「修行、ですか?」
「何の修行かはよくわからなかったけど、何だか怪しげなもんだったよ。よく他の部屋の人と騒音や異臭トラブルを起こしていたんだ。」
生前からあまり良い印象の人じゃないのか。こういう集合住宅で騒音や異臭は辛いだろう、管理人さんがうんざりした顔をしていたので、相当揉めたのかもしれない。
「部屋で蛇を何匹か飼っていたみたいでね、それの餌の鼠が脱走したり、腐ったりと迷惑な人だったよ。全く!」
うえぇー、それはキツイ。
「あとは火事の時のことだね。あの日何か焦げ臭い気がしたと思ったら、『火事だ!』って叫ぶ声がしてね。急いで外にでたら、もう窓からは炎が噴き出ていて……。急いで火消しの若いもん達が来てくれたんだけど、部屋で何を見たのか怖がって中々火を消しに行かなくて火消しに時間がかかったよ。しかも死体も残らないほど焼けていたって……、気味が悪い。」
ハァーとため息を吐きながら答える姿は何だか可愛そう。でも火消しが部屋で何かを見たか……、気になる情報だ。
キヨの情報はこのくらいかな、次は。
「なるほど、では男の方、ハヤブサについて何か知っていることはありますか?」
「ハヤブサって言うのかい、あの人。あたしはあんまり面識ないね。あたしもキヨが憑りついているって知ったのは人伝だからね。」
「誰から聞いたんですか?」
「キヨと同じ三階に住んでたパン屋の女将だよ。」




