15.連携
「ふふふ、満喫できたみたいだね。」
クレープを食べながら、もう片手にチョコ掛けリンゴを持っている私を見て、メリノさんは笑った。
一個だけのつもりが誘惑に負けまして……。
せっかく増えた所持金は三〇三〇ゴルドまで減り、増えた分はあっという間に消えた。
「王都に行きたい?」
「ええ、やっぱり星の探検家として行くとこ増やしていきたいと思いまして。」
他のオカルトを探したいし。王都によく出る幽霊にも会いたい。
「んー、そうだね。星の探検家だしね、しょうがないか。いいよ、行っといで。」
「ありがとうございます。たまに羊村にも帰ってきますので!」
「ふふふ、土産話を楽しみにしているよ。」
メリノさんと別れて宿屋で拠点登録する。
星の探検家は、宿屋で拠点登録するとまず登録代として宿代を払い、リスポーンか〈帰還〉で宿屋に帰るとそのたびに宿を利用していると判断され、追加料金を払うシステムとなっている。そして五日以上登録者が宿に現れない場合、登録が消去される。
つまり死にまくるとその分金もかかるというわけだ。だからと言って拠点登録しなければ、もしロストした時に羊村に飛ばされてしまうので、保険として登録しておくわけだ。
街の入り口に行くと王都までの馬車がでているが、お金を節約するために歩いていくことにする。王都は大きいのでこの街からも城壁がよく見えるが、歩いていくと時間はそれなりにかかるだろう。
歩いていると、小動物がぴょこぴょこ動いていたり、体も角も大きな牛達が呑気に草を食んでいるのが見える。
長閑だな……。
それらを眺めていると一体の牛が私に気が付いたのか、顔を上げる。
「モォ~。」
「お、何何。」
動物の扱いは羊で慣れたもの。挨拶か? と思って手を振ると、牛は前足でガッ、ガッ、と地面を蹴り始める。
「……。」
嫌な予感がして手を下し走り出すと、後ろから、ダダダッと重量感のある音が私を追いかけてきた。
振り向くと予想通り、牛が先ほどの長閑さをかき消した顔で追いかけてくる。
あの牛、エネミーだったんだ!
牛のほうが速いのかだんだん距離が縮まってくる。突進されたらたまらないので、当たる寸前で横に飛び込んだ。
そのまま真っ直ぐに走っていく牛だが、途中で止まり方向転換して、また地面を蹴り始めた。
逃がしてはくれなそうだ。
突進してきた牛を動かずに待つ。そして当たる寸前に躱し、すれ違いざまにシープホーンで殴る。
牛の体力が削れるが、虫と違って流石に一撃で倒せはしないらしい。
でも次の攻撃で……!
もう一度突進してきた時に攻撃を当てると、体力バーが弾けて牛の姿が消える。
「よし!」
ドロップ品はなかったが、危なげもなく倒せたことに満足する。
先に進もう。
モォ~。
ん?
周りを見回すと牛が何体も私を見ている。さっき倒した牛と草を食べていた牛達だ。
仲間の敵…。と言っているような目が突き刺さる。まだ突進はしてきていないけどじりじりと近づいてくるのでその隙に。
「〈召喚〉村長。」
すぐに村長の分身を呼び出し、牛に備える。
「おや、いきなり戦闘ですか?」
「ゔっ、すいません……。」
「しょうがないですね、構いませんよ。」
流石に何体もの牛を一人で相手するのはキツそうなので、召喚で村長を呼ばせてもらった。これで手分けをして撃破を……。
「いえ、ここは連携してみましょうか。」
「え、連携ですか?」
「貴女この間の戦闘でスキルを覚えたでしょう、それを活用して仲間と連携してみましょう。」
なんか先生とかチュートリアルみたいなこと言ってる……。
私が覚えたのは〈回転連撃〉。どうやって連携を?
「いいですか、…………………………………。です。」
「な、なるほど。」
よくこんなこと思いつくな。でもやってみる価値はある。
村長が少し屈んだので、肩に上らしてもらう。そして立ち上がったかと思うと、斜め上方向にぶん投げられる。
「うわおおおお!?」
結構勢いが凄い! でも狙い通りに落下地点には牛達がいる。
私を空に飛ばしてすぐに村長は牛の近くへ走っていき、動かないように、固まるように牛を押したり、殴りつける。
落下地点は牛の密集地。私はそのまま牛の上でスキルを発動させた。
「〈回転連撃〉!」
ホーンが自動的にクルクルと牛にぶつかりながら二回転すると、同時に二体倒すことができた。
地面に足を付ける前に村長にキャッチされると、
「ちょっと高すぎましたね、次は低めにっ!」
また投げられた。
さっきより高さは低め、落下地点にはまた牛二体。
スキルを出そうとすると、二体の牛がいる場所にもう一体の牛が飛んできてぶつかる。どうやら、村長が離れた所にいる牛を殴り飛ばしてきたらしい。
「もういっちょ、〈回転連撃〉!」
今度は三回転するホーンが三体の牛に当たる。〈回転連撃〉は最高四回回転する連続技だが、回転数はランダムのようだ。
さっきのでラストだったようで、周りは静かになった。牛が消えた所を確認するとドロップが落ちている。
≪牛の角≫
大きい牛の角。刺さると痛い。
三十センチくらいの角が四本手に入った。換金かな、でも武器の強化に使えそう。
「連携どうでした?」
「上手くいったと思いますけど、牛には使わなくても勝てたと思います。」
ホーン攻撃二回で倒れたから、飛ばさなくても回転連撃で普通に倒せたと思うし、最後に村長が殴り飛ばした牛なんて、あと少しで体力バーが弾けそうだったから、もう少し力を入れて殴っていれば一撃で倒せたと思う。
わざわざ普通のエネミーに連携しなくてもいいんじゃ、と思っていると。
「おや、ボス戦で急に連携してもうまくできましたか?」
「ええと、」
「何事も練習は大事ですよ。貴女は落ちてきた時に、どのくらいの距離で技を出せばいいのか確認できましたし、私も貴女を投げ飛ばす高さを調整できましたね。」
「はい……。」
確かに、コントローラーで操作しているわけじゃない。VRとはいえ、自分の感覚で動かしているから何回もやってみた方が感覚が掴めて、いざという時にうまくできるのかも。こういうところ、現実と同じなんだなぁ。
その後は牛を見つけては連携の練習をしながら、真っ直ぐに平原の道を進んでいくと道が南と東に別れていて看板が立っている。
南:ナイタカの湖 東:王都
ナイタカの湖……、絶対に何かいそう。行ってみたいけど、今日は王都。東へ続く道の方へ進む。
歩き続けていると、ようやく王都の入り口が見えた。王都は城壁にぐるりと囲われていて外からだとよくわからない。
村長にお礼を言って召喚解除すると、王都の入り口へと歩き出す。
本当は村長やカラクルさんと観光したいけど、羊男の存在は大っぴらにしていないから危険かもしれないと判断してのことだ。メリノさんが持ってる人間に見える魔法道具複数あったらいいのに。
入り口で鎧を着た兵士に挨拶をし簡単な身体チェックを受けてから王都に入る。