12.人間の街
「ということでメリノさん、人間の街に行くとき付いて行かせて下さい。」
「んー、いいよ。そろそろ行こうかと思っていたしね。」
というわけで、人間のいる街に行けそうだ。
明日行くと言っていたので、今日は羊飼いをするとする。
この世界は夜がなくて昼だけだけど、時間の概念はあるし、一日二十四時間なのは現実と同じ。現実より時間が経つのは早いけど。
「さて、今日も村の周りぐるぐるしようか?」
「メエメエ。」
羊達は親愛の表現なのか体を摺り寄せてくる。
何か前に見た時よりでかくなったような気が……、いや体じゃなくて、毛が増えたのか! もっふもっふしている!
ほっといていいんだろうか? と悩んでいると、別の小屋で羊飼いをしているお姉さんに話しかけられた。
「あんぱんとこの羊、そろそろ毛を刈ったほうがいいんじゃない?」
毛刈り! やってみたいかも。
「毛刈りってどうすればいいですか?」
「毛刈り小屋があるからそこに連れて行って鋏で切るんだよ。着いてきて。」
羊を連れて着いて行った先で毛刈りのやり方を教えてもらい、思いっきりもふもふの毛を刈り取らせてもらった。バリカンはないようで、和裁の立ち切狭の大きくした鋏を使って切り取っていった。
うーん、楽しい。戦闘もいいけど、やっぱ生活も楽しいわ。
何だかんだで充実した一日を送り、次の日になった。
「じゃあ、メリノさんお願いします。」
「はいはい。」
馬車のようなものに商品を詰め込む。私が昨日刈り取った毛は入っていない、加工していない羊毛も売れるのだが、洗浄に時間がかかるので一日だと間に合わなかったのだ。
私も乗り込むが荷台を引く馬はいない。というかこの村で羊以外の動物を見かけたことがない。
「あの、メリノさん…………、わっ! 誰!?」
メリノさんに聞こうと荷台から顔を出すと知らない人間がいた。
ここはまだ村の中。他に人間がいるなんて聞いたことはなかったので、混乱に陥っていると、その人から話しかけられる。
「ふふふ、驚いた?」
ん?
「…………その声は、メリノさん?」
「そ、人間の街に行くときは人間の顔にしなきゃ大騒ぎになるだろ?」
そりゃあ確かにそうだけど、びっくりした。
聞くとどうやら魔法道具を使っているらしい。厳密にいうと変身じゃなくて、人間に見えるような幻覚が体を覆っているらしい。
昔村に来た人間から貰ったものだそうで、それからこの道具を使って人間相手に商売するようになったそうだ。
「でもそんなにいい道具じゃなかったみたいでね、一人分の顔しか変えられないんだよ。」
「だから一人で行くんですね。」
「まあ、贅沢は言ってられないさ。それに転移の魔法道具も貰ってるしね。これですぐに街に行けるし、村の場所を知られる心配もないってこと。」
メリノさんは大きな布を荷台に被せると、自分も布の内側に入る。布には魔法陣のような意味の分からない模様や文字が沢山縫い込まれている。
「じゃあ行くよ。『装飾の街へ』。」
………………………………何も起こらない?
布が被さっているから、周りの様子もわからないし、音も何もしない。
「え、メリノさん。何も起きてないですけど……。」
「いや、まだ着いていないだけだから。そんな慌てなくても、ちゃんと移動してるよ。」
布めくっちゃダメかな。なんて思っていると、布の模様が赤く光る。
「お、着いたね。ほらここが『装飾の街』だよ。」
布がバサッと取られると、無音だったのが嘘のように喧騒が溢れ出す。
「うわぁ……!」
目の前には煉瓦造りの中世ヨーロッパのような街並みが広がっていた。
ゲームではよく中世ヨーロッパの世界観が採用されるけど、やっぱり日本人には見慣れない別世界への憧れがあるからだと思う。
あと綺麗だしテンションが上がる。
「あっちの広場でマーケットが開かれているから、そこで売ろう。」
そう言うとメリノさんは荷台を自分で引き始める。
「あ! メリノさん、ちょっと……!」
人間に変装しているのに荷台を一人で引くなんて、人間離れしてますよ。と言っているようなもんじゃないだろうか?
私は慌てて止めようとしたが、街に来た時はいつもこうしちゃって今更だ。と笑われてしまった。
「それに人間だって、偶に僕たちみたいな怪力のスキルをもっている人もいるから、そんなに心配しなくても大丈夫。」
なるほど、そういうところは異世界というか、ゲームというか。周りに歩いている人達もそんなに気にしていなかった。
荷台を引くメリノさんの横をキョロキョロと、辺りを眺めながら歩いていると少しだけだがプレイヤーがいることに気づく。
この装飾の街は初期スタート地点から近いのだろうか。
「さあ、着いたよ。」
「ここがマーケット……!」
広場には沢山の露店が立ち並び、人々の活気に満ちていた。入り口の近くは食品を扱う店が集まっているのか、いい匂いが鼻を刺激する。
お腹が空いてきたような気がする……。
「チェックをお願いします。」
入り口に立っていた騎士みたいな人にメリノさんが声をかけ、商品のリストを渡す。その人はリストを見ながら、商品をチェックしていく。
警備員みたいなものかな、変な物持ち込まれたら大変だしね。
うんうん頷いて、納得しているとメリノさんに呼ばれる。
「あんぱん、身体チェックを受けてもらってもいい? それがなきゃ入れないんだ。」
「わかりました。」
警備員の人に装備を確認され、旅の者か聞かれたので星の探検家であることを話す。
「そうでしたか。貴女も王都から? ……え? 違う? そうでしたか。いえ、この町にも他の星の探検家の方がいたでしょう? この街は王都に近いんです。」
なんでも街を出て平原を超えると直ぐに王都につくらしい。
王都といえば、スタート地点で選べる『華やかな城下町』じゃないか、羊の村と結構近かったんだな。でも大丈夫だろうか? 羊村の皆は初め人間に警戒していたし、近い場所なら星の探検家が来やすい場所になってしまうのでは?
冷たい態度をとられても私にはカラクルさんがいたから、他の羊男の皆とも打ち解けようとしたけど、外から来たプレイヤーが冷たい態度をとられて、敵と勘違いして倒しちゃったら嫌だし、変に人間と対立して欲しくないな。
身体チェックを終え、空いている場所に案内してもらっている時に、周りには聞こえないように村が王都に近いことの不安を伝えてみると。
「ああ、大丈夫。ここに来るのに転移の魔法道具を使ったのは、単純に遠いからもあるんだ。この街の北は山林でね、山を越えて、あの虫の沢山いる森を抜けないと村には辿り着けないのさ。」
一日二日で来れる場所じゃないし、景色も変わり映えしないから迷うだろうしね。とメリノさんは笑うとそれに、と言葉を繋げる。
「村の皆も君と接して、人間も悪くないと思ってるんだと思うよ。だからもし、星の探検家が来れたら歓迎すると思うんだよね。」
「んふふふ。それなら安心です。」
照れて変な声が出てしまった。
「ここです。」
話をしているうちに出店場所についたようだ。
メリノさんが売るのは、羊の毛や毛皮でできた服や装備と羊の角を加工してできたアクセサリー。ハーブで作ってあるポプリなんかもある。
「店番は僕がするから、あんぱんはマーケット回ってきたら? 他の星の探検家と交流をしてもいいし。」
悪いと思ったが、素人がいても逆に邪魔だし、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
三〇〇〇ゴルドしかないけど何か買えるかな?




