1.過激なプロローグ
「この前配信されたOccult-Life-Onlineてゲームなんだけどさ……」
Occult-Life-Online、通称「OL」
つい最近配信されたフルダイブ型VRゲームだ。今時フルダイブVRゲーム何て珍しくもない。ただ玉石混交で、前に買った時は酷いクソゲーをプレイしてしまったので、最近はゲームに触れていなかった。
「OL」は確かMMO RPGで、オカルト生活系のジャンルのゲームだとか。
ちょっと意味がわからない、オカルト生活系ってなんだ。
「めちゃくちゃ怖いらしいぜ。プレイヤーの中にはプレイ中にバイタルチェックで危険値がでて、プレイNGになった奴もいるってさ。」
「マジ? ヤベーゲームじゃん。」
「そんなの噂だろー? そんなゲームあったら即配信中止だろ。」
「だよなー。」
そこで一旦話は終わったのか、興味もそんなになかったのか、雑談は別の話題に移って行く。
私はクラスメイトのそんな雑談に聞き耳を立てていた。何だか興味をそそる、ひと昔前の呪いのDVDとかゲームみたいな話だ。
◇◇◇
家に帰ると早速カプセル型のVR機を起動させる。昔はヘッドギア型が主流だったが、ヘッドギア型だとVR機をつけてベットに寝るだけだったので、ゲームに夢中で気づいたら漏らしていたとか、食事をするのを忘れていたとか、脱水症状や熱中症になっていたなんて問題がでてきたので、全身を覆えるカプセル型が今の主流である。
カプセル型はバイタルチェック機能、温度調節機能、水分補給機能、排泄機能、空腹サイン機能、緊急アラーム機能に加え、長時間同じ体勢でいることによる血行不全を防ぐために体位変換機能、筋肉不足を防ぐ筋肉運動機能なんかもついている、すごい機械なのだ。もちろんゲームだけじゃなくてネット空間にアクセスするだけでも使えるので、さまざまな仕事でも使われている。
さて、今から起動するのは噂されていたOccult-Life-Onlineだ。何を隠そう私はオカルト話が大好きである。
幽霊、都市伝説、神話、古代生物、UMA、宇宙人、秘密結社にカルト教団。どんとこい。ただしゾンビは嫌い。
気になったらやらずにはいられない、新鮮な気持ちでプレイしたいので、基本ネット評価も見ずに買ってしまう。そのせいでクソゲーを買ってしまうこともしばしば……。その時はその時だ。
このゲームは不思議な事象に溢れすぎている星を、プレイヤーは異世界から来た星の探検家として、この世界の秘密を記録しながら自由に生活をするという設定だ。
カプセルの中に入ると生体認証でスイッチが入る。
ブーンという機械音が鳴り始めると、カプセル越しに見えていた天井が消えて、満点の星空が目の前に広がった。
私が設定したVRホームにダイブしたのだ。コンセプトは宇宙船。部屋にドーム型の透明な天井が被さっていて、宇宙空間を眺められるようになっている。
ゲームをせずにこの空間でダラダラするのも好きだが、今日の目的はゲームだ。
Occult-Life-Onlineを選択して購入。すぐにはじめるを選ぶとまた目の前が変化していく。
周りが真っ暗な空間になったと思ったら、目の前に文字がでてきた。
※注意! このゲームは過激な表現が多数あります。そのため十五歳以下の方や心臓や精神の疾患がある方はできません。
ーー生体情報を読み取っていますーー
ーーOK! 確認が取れました! ゲームをはじめます。
▽ 性別の設定をしてください。
これは変えずに女で。
▽ アバターの設定をしてください。
目の前に鏡が現れると、現実の私をアニメ風にした姿を写し出した。このままでもいいし、手を加えて別人の様な姿にもできる。
ゲームだし、少しくらい見栄を張ってもいいだろう。
背はそのまま百六十㎝くらいで、目の色は緑、髪色も緑にして長さは腰まで伸ばしてみた。
うん。元々アニメ風だった見た目がますます現実離れした感じになった。これでよし!
▽ 貴女の名前を設定してください。
※他のプレイヤーを不快にさせる表現があった場合やり直しを要求する場合があります。
名前はいつも使っている名前を使う。『あんぱん』にする。
理由は普通に好きな食べ物。
▽ 最後にスタート地点場所を選んでください。
▷ のどかな山村
▷ 賑やかな港町
▷ 華やかな城下町
▷ ランダム
これは選んだ所によって、起こるイベントが違うってことだろうか。あとは生活系ゲーム要素もあるみたいだし、生活の仕方とかも変わってくるとかかな。
…………これはランダムにしてみようかな。山も海も都会もどこを選んでも楽しそうだし、運で決めてみるのも楽しそうだ。
▽ 了解しました! ランダムを選んだ場合はこの世界のどこかがランダムでスタート地点として選ばれます。
※ランダムではプレイヤーがロストする確率が非常に高いです。またスタート地点選びでロストした場合は、再度ランダムでスタート地点が選ばれます。生き残れるように頑張ってください!
「えっ?」
ランダムを選んだあとにでた注意事項に思わず声を出してしまったが、私の疑問を待たずに景色は変わっていく。
そして私は宙に放られた。
「えっ? えっ? あっきれ、えぇええぇぇぇぇぇっ!?」
目の前に広がる青い空と真下にある青い海。感動している暇などない!
落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる!! ランダムスタート地点が空中ってどういうこと!? どう頑張れと!?
とにかく物凄い勢いで落ちている。下は海。地面よりかはマシだけど、落下ダメージはあるのか。あったらその時点でロストしそう。
よく見ると海にぽっかりと巨大な穴が空いている様な部分がある。浅瀬に穴が空いて綺麗な円になっていて、私はあの穴の真ん中に落ちそうだ。おそらく円の中は水深が深い。海水の色が暗い青色で穴が空いているように見えるのだ。というか、
「アレってもしかしてーーーー!」
穴の正体に気づいても何もできず、そのまま勢いよく着水した。物凄い音がして耳がジーンとする。
痛みはない。ダメージもなかったのでロストはしていない。それでも混乱する。海上に上がりたいが、落ちた勢いが凄すぎてどんどん海中に沈んでいく。
光がどんどん遠ざかっていく。心臓が激しく動いている様な音が頭の中を木霊する。滅茶苦茶怖い。此処が私の思っている場所で、このゲームがオカルトゲームなら、必ず海に纏わる怪物がいる筈だ……!
身体の横をシュッと何かが泳いでいく。下から下から、シュッ、シュッと大きい何かが私の身体を避けて泳いでいく。
サメだ。しかもホホジロザメ並みの奴が何匹も泳いている。
しかし私という格好な餌には見向きもせずに通り過ぎていく。訳は分からないが、襲われないなら生き残るチャンスだ。
漸く落ちる勢いがなくなってきたので、動き出す事にする。すると目の端に数字が現れてカウントダウンが始まった。
多分呼吸カウントだろう。海上まで結構遠い。間に合うかはわからないが、必死になって泳ぐ。
ゲームなので息苦しさはないが、仄暗い海中は気味が悪い物だ、嫌な予感に心臓の音が耳に響く。
焦燥感を感じているのだろうか、鼓動はどんどん早くなっていく。
……いや、それにしても早すぎる。鼓動は今やマラソンした後くらいの早さで鳴っているが、頭ではそんなに焦っている感じはしなかった。しかし心音は耳に響いている。
カウントダウンが進むが気になってしょうがない、水をかくのを少しやめて音に集中する。
…………これBGMだ。
本来呼吸ができない不安と焦燥感の演出BGMなのだろうか。よく出来ているが、タチが悪い。
BGMを本物だと思い込んでたら、本当に同じ様に心臓が高鳴り、パニックを起こしてたかもしれない。
とりあえずBGMだと分かれば、それほど怖くない。また水を掻き出そうとすると。
ゴゴゴゴと下から地響きの音が近づいてきた。
今度は本当に心臓がドッと跳ねた気がした。
いる。下に何かがいる。
おそるおそる振り返り下を見ると、 目が合った。
魚の視力は良くないとか、頭の片隅に浮かんだが、確実に何かと目が合ったとわかった。というか認識されたのがわかった。ゲームの仕様だろうか、今度は目の前が赤く点滅し始めた。
急いで身体の向きを変え、必死にもがく様にして上へと向かう。
地響きはどんどんどんどん近づいてくる。もう真下まで来ている!
もうダメだ。私は諦めて、好奇心でせめて奴の姿を確認しようと下を見るが、すぐに後悔した。
視界いっぱいに奴が口を広げていた。びっしり並んだ鋭くデカい歯。真っ暗な口の中。
「!!! がぼぐぼ ぼぼぼが 〜〜〜!!!!」
そして目の前は真っ暗になった。
初っ端からメガロドンとかふざけんな!!!
▽ プレイヤーがロストしました。ランダムでスタート地点が変わります。