第三十四話「土砂降りのデート」
あのレナスとの決闘から3日後、傷も心も癒えた矢先に詩音がレオナに言った。
「お姉様、私と明日お出かけしませんか?決闘のご褒美って事で」
突然のデートのお誘いに戸惑ったレオナだったが、
にこやかに微笑んでこう答えた。
「いいわよ。でも病み上がりなんだから無茶しちゃ駄目よ?」
「はーい」
裏生徒会に入るまでは百合になど欠片も興味が無かった詩音だったが、今なら少し理解できるかもしれないと思っていた。
詩音自身にも分からないが、詩音はレオナの前だけでは自然体で甘えられるのだ。
転生前の両親にさえ心を許せなかった詩音にとって、レオナは特別な存在になっていた。
完璧を演じなくてよいのもあるが、今はレオナがとても愛おしいのだ。
詩音は早く明日がこないかとその日は早めにベットに入った。
「明日がよい天気でありますように・・・」
―デート当日
窓の外を見て憂鬱になる詩音。
外は土砂降りの大雨だった。
「これじゃあお出かけは無理ね」
レオナの表情も残念そうに曇っていた。
「いえ、校内デートという手があります!」
「校内?学校でデートするの?それはちょっと・・・」
「大丈夫です!私は恥ずかしくありません!」
「ま、まあいいわ。行きましょう(私が恥ずかしいのだけれど・・・)」
レオナは詩音の勢いに根負けし、校内デートをする事になった。
「じゃあ手を繋ぎましょう、お姉様♪」
「え、ええ・・・」
恥ずかしながらも手を繋ぐレオナ。
詩音は今回のデートで興奮していた。
片思いのお姉様とのデートなのだ、当然である。
今ならどんな恥ずかしい事も躊躇なくやるだろう。
手を絡ませ繋ぐその二人はまるで恋人の様だった。
―喫茶ポワレ
「どうしてポワレに来たの?」
「学園内の食堂じゃ雰囲気が台無しですからね。シルフィーヌ、紅茶を二つ下さる?」
「はい、紅茶を二つですね」
「こうしてお客としてくるのは久しぶりね」
「相変わらず周囲の視線はありますけどね。気にはなりませんが」
詩音の言う通り、周囲のお客達に詩音とレオナのカップルは注目されていた。
しかし詩音はそれをうっとおしいとは思わず、逆に羨ましいだろう光線を放ってやった。
周囲のギャラリー達は思わず歓声を上げる。
「はい、お紅茶です」
「ありがとう、シルフィーヌ」
詩音とレオナがお礼を言うと、シルフィーヌは一礼しその場を去った。
その後詩音とレオナは優雅に紅茶を飲んだ。
「さすがシルフィーヌの紅茶ですね」
「ええ、彼女のは一級品だわ」
「ちょっと嫉妬しちゃいます」
「後で紅茶の入れ方を教わって来るといいわ」
「そうですね。そうしたら初めにお姉様に飲んで頂きたいです」
「喜んで飲ませて頂くわ」
こうして何気ない談笑をしながら二人の幸せな時は過ぎた。
そして・・・
「そろそろいい時間だし、今日はこの辺にしましょうか?」
「えー、もっと一緒にいたいですー」
「我侭言わないの」
完全完璧な生徒会長詩音は完全にキャラ崩壊していた。
時間が遅く周囲にギャラリーがいないのが救いである。
「じゃあまた明日ね。おやすみシオン」
「おやすみなさい、お姉様」
こうして幸せな校内デートは幕を閉じた。
窓の外を見て、たまには雨も悪くないなと思った詩音であった。