第二十九話「婚約」
詩音は憂鬱だった。
生徒会室に山の様に積み上げられた書類のせいだ。
書類といっても仕事の書類ではない。
ファンレターやラブレターの類である。
そして詩音はそれを整理している時に奇妙な手紙を見つけた。
「果たし状?」
その手紙にはこう書かれていた。
婚約を賭けて決闘してください、と。
あれ?ここって女子高だったよね?
女の子同士でありなの?と疑問に思う詩音。
「ありですよ、シオン会長」
そう答えたのは書記のマリアであった。
心の声が口に出ていたらしい。
とても恥ずかしい。
詩音は正気に戻ると、その果たし状の山を持って裏生徒会に向かった。
レオナなら上手く断る術を知っていそうだからだ。
―裏生徒会教室
しかし肝心のレオナはいなかった。
仕方なく他のメンバーに相談する事にする詩音。
辺りを見回すと見覚えのある女性が一人だけいた。
「あれ?シオンちゃんじゃないか。もしかして私に会いに来てくれたとか?」
「ご冗談を。お姉様に相談事があってきたの」
「ふーん、相談ねぇ。よかったら私が聞いてあげようか?」
「・・・仕方ないか」
詩音は例の果たし状の事をエリシアに相談した。
どうせからかわれるんだろうなぁと思っていたら、
予想外にもまともな答えが返って来た。
「これは受けるしかないね。裏生徒会のみんなも何人かは経験済みだよ」
その何人かにエリシアは入っていたらしく、ことごとく決闘で返り討ちにしたらしい。
それが噂になり、以後果たし状を送って来る生徒はいなくなったとか。
「でも結局決闘しないといけないんでしょ?はぁ…」
「どうしたのシオン?ため息なんかついて」
「あ、お姉様。実は・・・」
教室に戻って来たレオナは詩音から果たし状の事を聞いた。
レオナは少し思案した後とんでもない事を言い出した。
「シオン、あなた私と婚約しなさい」
「へ?」
今のレオナの一言に詩音は困惑した。
嬉しい事には嬉しい詩音だったが、転生前の価値観を引きずっていた詩音は素直に受け入れられないでいた。
「婚約と言っても形式的な物よ。本当に結婚する訳じゃないわ。あなたが好きな時に破棄してくれて構わないわ。それとも私とじゃ嫌?」
「そそそんな事ないです!その婚約、受けさせて頂きます!」
こうしてレオナと詩音の婚約が決まり、その噂は学園中に伝わった。
そして・・・
―学園中庭
「シオン会長、重力の魔女レオナ先輩との婚約、破棄して頂きます!」
「なら私を決闘で負かしてごらんなさい」
あれから婚約を賭けた決闘の申し込みは減ったものの、
未だに婚約破棄の決闘を申し込んでくる人達がいる。
またレオナとの婚約を狙って申し込んでくる人もおり、前回よりも苦労が増えた気がする。
多少は忙しくなったが、憧れのお姉様の婚約者になれるなんてなんて幸せだろうと舞い上がっている詩音であった。
「杖よ!」
「きゃああああああああああ!」
「勝者シオン!」
こうして今回も決闘に勝った。
詩音が満足して帰ろうとしたその時である。
詩音は後ろから声を掛けられた。
そこには装飾の施された絢爛なローブを纏った女性がいた。
「困るねぇ、人の物を勝手に盗っちゃ」
「え?」
「君の婚約者のレオナの事だよ。あれは本来私の婚約者なのさ」
「さっきから物とかあれとかお姉様をなんだと思ってるんですか」
「あれは私の所有物だよ」
「お姉様の事を物扱いしないで!決闘よ!」
「私と君じゃあ勝負にならないと思うけど、それで君の気が済むのならば受けよう」
「じゃあ始めましょう。あなた名前は?」
「私の名前はレナス、時の魔女よ」