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<episode 68> 悪役令嬢、二つめの質問をする。

 ワタクシは、なぜ処刑されなければならなかったのか?

 王族暗殺計画をでっち上げてワタクシを罠に嵌めたのは誰なのか?

 その真相を解き明かすのは後日のお楽しみにするとして、二つめの質問に入るとしよう。


「義叔父様と叔母様にもう一つ大切な質問をします。よく考えてお答えください」


 よほどやましいことがあるのか、二人そろってゴクリと唾をのみ、質問する前からだらだらと冷や汗を流し始める。


「もしかして、アレか? アレのことか? 義兄さんがお前の結婚資金として貯蓄していた金をこっそり先物取引に回して全部溶かしてしまったことを怒っているのか? あれは違うのだ、あれは一時的に借りただけのことであって、ちゃんと後で全額返すつもりだったのだ」


 親族とはいえ人のお金を無断で使うのは立派な犯罪だ。黙って使い込んだうえに、あとで返すつもりだったなんて言い訳が通じると本気で思っているのだろうか。

 このような輩が宰相を務めていたのだからエーデルシュタイン王国500年の歴史もそろそろ幕を閉じる日が近そうだ。

 しかも義叔父はすでに死んで地獄に堕ちているわけだから返済能力はないと来ている。

 結婚資金のニーズはないが、このまま泣き寝入りする気は毛頭ないので、投資で溶かされた額はきっちり利子をつけて返してもらうことにしよう。

 利子は……そうですわね。

 トイチでどうかしら?

 (※トイチ=10日で1割の略。闇金は犯罪です)


「ひょ、ひょっとして、あなたの母親が将来譲ろうと思って大切に保管してあった貴金属類を私が勝手に持ち出していたことを恨んでいるのかしら? だったら、とんだ誤解だわ。だって、あんなに美しくて貴重な宝石たちを引き出しの中に眠らせておくなんて罪なことじゃない? だから、あなたが成人するまでの間、カビが生えないように私が使ってあげていたのよ。むしろ感謝してほしいぐらいだわ」


 お母様がワタクシのために遺しておいてくれた宝石を汚しておいて、挙句に感謝しろとは盗人猛々しいにも程がある。

 義叔父といい叔母といい、自らの行為が犯罪であるという認識は皆無らしい。


「義叔父様、叔母様。ワタクシは貴方がたのそんなみみっちい罪を問いただしたいわけじゃありませんの。ワタクシが聞きたいのは、お父様とお母様の死についてですわ」


「ウォルフ兄様の、死ですって……?」


 思いもよらない質問だったのか、叔母が意表を突かれた表情でお父様の名をつぶやく。

 我が父の名はウォルフガング・フォン・ローゼンブルク公爵。

 母はカトリーナ・フォン・ローゼンブルク公爵夫人。

 叔母は実兄であるお父様の前では二重どころか五重にも六重にも猫をかぶり、健気で可愛い妹を演じていたことをおぼろげながら記憶している。


「あの事故は、本当に事故でしたの?」


「ど、どういうことだ、エトランジュ。まさか義兄さんたちが亡くなった原因は事故じゃないとでも言いたいのか?」


「お父様とお母様が亡くなって一番得をなさったのは、義叔父様ですわよね?」


「なっ!? なんてことを言うんだ、エトランジュ! 私がお二人を害したとでも言うのかね!? 確かにお二人が亡くなられた結果、私がお前の後見人となりローゼンブルク公爵家の財産と領地を管理する立場になった。ちょいちょい金をつまませていただいて懐もホクホクになった。お二人がご健在なら断固阻止されたであろう、半ば身売りに近い形でお前を第一王子と婚約させることに成功し、私はエーデルシュタイン王国宰相の座に就くことができた。おかげで金も権力も名誉もすべて手に入れてウハウハだった。そこまでは認めよう。ただし! 義兄さんと義姉さんを殺害したなどと、そんな恐ろしいことをするはずがない! それだけは信じてくれ!!」


 こんなにも真剣で誠実な瞳の義叔父は初めて見る。こうして見ると、ひとかどの人物に見えなくもない。

 欲をかかずに地道に真っ当な道を歩んでいれば、公爵にも宰相にもなれなかったかもしれないが、領民に慕われる貴族として余生を過ごせただろうに。


「そうよ! この私がウォルフ兄様を手にかけるはずがないでしょ!! 私からウォルフ兄様を奪ったカトリーナを殺してやりたいと思ったことは何度でもあるけれど、それでも兄様の悲しむ顔を見たくないから多少いじめる程度にとどめておいてあげたのよ! その私がウォルフ兄様を殺すだなんて……馬鹿も休み休みに言いなさい!!」


 普段からヒステリックな叔母ではあるが、いつもとは迫力が違う。思わずたじろいでしまう。

 この心のゆがんだ叔母も、幼少期からずっと共に過ごしてきたお父様のことだけは本当に愛していたらしい。

 優しいお父様のことだ。どんなことがあっても兄として妹の味方をしてあげたのだろう。

 お父様を慕う叔母の気持ちに偽りはなさそうだ。


 お父様とお母様を殺害するのに動機は十分。事故が起きた場所もランデール伯爵領。両親の死が事故ではないとしたら叔母夫婦の仕業に違いないと思っていたが、今回ばかりはワタクシの決めつけだったようだ。


「義叔父様、叔母様、申し訳ありませんでした。どうやらワタクシの間違いだったようです」


 そう言って深々と頭を下げて詫びる。


「おいおい、エトランジュ。こんな連中に謝る必要なんてないぞ」


「いいえ、ネコタロー。そういうわけにはまいりませんわ」


 たとえ相手がどれほどの悪党であろうと詫びるべきものは、きちんと詫びる。

 それが、ワタクシが勝手に作ったローゼンブルク公爵家の家訓。


「お嬢様、さすがです」


 笑顔で尊敬のまなざしを向けるスイーティア。

 だって詫びるべきところは詫びておかないと、ワタクシだって後ろめたくなる。

 後ろめたいところがあったら、その後の処置に手心を加えたくなるのが人情というものだ。

 人情派のワタクシが、これから冷静に、冷酷に、冷徹に、冷血に、叔母夫婦を断罪するのに、万が一にも億が一にも情が入ってはいけませんもの。

 それを考えれば、頭を下げるぐらい何てことないですわ。おほほほほほ。

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挿絵(By みてみん)

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みてみん:喜多山浪漫

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