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<episode 42> 幕間狂言:有能執事、お嬢様へ寄せる信頼が絶大すぎる。

 親愛なるエトランジュお嬢様。

 あなたがこの世を去ってからというもの、目に映るものすべてが灰色に見えます。復讐を遂げるためにも必要最低限の食事は摂取するように心がけていますが、何を食べても味がしません。

 思うに俺にとって世界はお嬢様あってのものだったのでしょう。あなたと過ごした色鮮やかな日々を振り返ることだけが、唯一の心の支えです。

 罪のないあなたが処刑されるという暴挙がまかり通るこの世には何の未練もありません。

 ですが、あなたの無実を証明して、やつらを皆殺しにするまでは死んでも死に切れません。

 この無間地獄のような世界で精神崩壊することなく生き永らえていられるのは、ひとえにやつらへの復讐心と、あなたとの思い出があるからに他なりません。


 あれは確か、あなたが聖ウリエール学園・中等部に通っていた頃のこと。

 夏季休暇を利用して領地の温泉を訪れたあなたを待っていたのは、200年ぶりに目覚めたファイアドラゴンと火山噴火でしたね。

 あなたは臆することなく冷静に、闇魔法で地面から大量の岩を削り出し、半時も経たないうちにファイアドラゴンを火口もろとも埋め立て、あわや歴史的大災害というところを被害者0で終わらせる偉業を成し遂げられました。

 たまたま近くにあって、たまたま邪魔だったランデール公爵夫妻の別荘とその中にあったであろう宝飾品の数々まで躊躇うことなく破壊し、迅速な鎮火活動に利用されたことは、領民の命を守るためなら別荘も金銀財宝も惜しくないという高潔な精神を表すもので大変感銘を受けたものです。


 高潔な精神と言えば、第一王子との婚約に珍しくストレスを抱えていたあなたが、俺とスイーティアを伴い、ピクニックに出かけたときのこと。

 あのときは、たまたま古代遺跡を発見し、たまたま秘宝を守る死霊たちの魂を闇魔法で手懐け、たまたま古代魔法の奥義が記された魔導書(グリモワール)を手に入れるという驚きと偶然の連続でしたね。

 普通なら群がる死霊たちから逃げ惑うところを、彼らの死を悼み、慰め、闇魔法によって使い魔にするという離れ業をやってのけたあなたは、慈愛に満ち溢れた女神のようでした。

 世間では悪役令嬢、稀代の悪女などと陰口を叩かれていても、あなたが常に世のため人のために行動されてきたことを俺はよく知っています。


 エトランジュお嬢様。あなたは今、汚れ切った現世から解放され、天国にいらっしゃることでしょう。

 どうかそのまま現世での苦しみはすべて忘れて、天国で心すこやかにお過ごしください。

 あなたをお救いできなかった無能なジュエルは、やつらの悪行を暴き、地獄の底へ叩き堕としてから、あなたの後を追うことにします。

 俺は地獄行きとなり、二度とお会いすることはできないでしょうが、それでも構いません。

 心の中には、いつもあなたがいてくれるから……。

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