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さよならを送る

作者: 奈那志



「........では、失礼いたします。」


いつもと同じように、

いつもと同じ場所で、

いつもと同じ時間に、

いつもと同じ笑顔で、

私は相手に何もさとられないように、

今まで一緒にお茶をしていた人にさよならを告げた。




********************

********************



出会いは私たちが5歳になった頃だった。



ある日、父に連れられて行ったお城でのパーティー。

そこには、同年代の子たちが集まっていた。


後から聞いた話によると、

その会は王子のお友達や婚約者候補を決めるものだったらしい。



引っ込み思案だった私は、みんなの輪の中に入っていけず、

ただ一人ぽつんとお菓子を食べていた。



そんな私がかわいそうに思ったのか

あなたが、声をかけてくれたのが

今思えばきっかけだったのかもしれない。



お茶会があった日から数日後に婚約の打診がきたのだ。

王子から声をかけた女の子が私だけだったのと、

公爵家の令嬢で身分も釣り合っていたのが選ばれた理由だと

後になって教えてもらった。



王家からの打診に断る理由も特にないため、

両親が了承し、はれて婚約者となった。



最初から別に王子のことが好きだったわけではない。

婚約者がなんなのかを幼すぎて理解していないまま

定期的に2人でのお茶会が始まった。



会う回数か増えるに連れて、

彼の優しさや周囲に対する態度、

賢さ、実はいたずら好きなところなど

彼を知っていくたびに

自分が惹かれていることに10年の月日が経つ頃には

さすがに自覚していた。



15歳になって私は王立の学校に入学していた。

王侯貴族の子女はこの学校に通うのが義務づけられているからだ。

3年間通い卒業した年に結婚するということも決まり、

少しづつ準備を始めていた時、ある噂を耳にした。




それは、とある子爵令嬢と王子がいつも一緒にいる

というものだった。



この学校は、社交界に出て行く前の

交流の場としての役割もあったため、

身分に偏りがでないようなクラス編成になっている。



そのため、私と王子は違うクラスになり

学校ではあまり会うことがなかった。



そんな時に流れてきた噂話を、

初めの頃はただ新しい友好関係を築いているだけだろうと

思っていた。



しかし、それが思い違いだったとすぐに知ることとなる。



移動教室のため廊下を歩いていた時、

窓から見える中庭のベンチに2人の陰が見えた。

その陰の1人を私はよく知っていた。



恋人のように隣同士にピッタリくっつき、

後ろ姿でよく見えないが、

2人で、同じ本でも見ているのか

何かを覗き込んでいるようだった。



私とは、テーブルを挟んだ正面にしか座ったことがなかったのに。



悲しみと衝撃で立ち尽くしていた時、

もう一つの陰が頭を上げ、隣に座っている人物を見る。

その横顔は、ただの友人を見る顔ではないことを、

自分が一番よく知っていた。



見ていられなくなり、

急足で移動先の教室へ向かうことなった。



それから、よく一緒にいる2人を、

噂話だけでなく、自分自身の目でも見るようになった。



決定的だったのは、

インクをきらしてしまったため、

買い物に行った際、お店から馬車へ乗り込もうとした時に、

反対側の道で仲良く並びながらカフェへ入っていくのを見てしまったのだ。



彼は王家の人間だ。

見えないところにさりげなく護衛がいるのだろうが、

護衛は護衛でしかない。

休日の日にわざわざ2人で出かけたことに変わりはない。


立ち尽くすわけにもいかず、

馬車に乗り込み家に帰る間、

頭の中でぐるぐると2人の光景が浮かんでくる。



このまま、彼と結婚して果たして2人とも

幸せになれるのだろうか?


これは政略結婚のため、幸せになれるかどうかなど

本当は関係ないことなんてしっている。



でも、私は彼に恋をしてしまった。

そんな一方通行な恋で結婚しても、苦しむだけなのが

みえてしまっている。

苦しむだけならまだいい。

我慢すればいいのだから。

いままでの教育はそのための教育のようなものだ。

しかし、我慢できなくなったら?

それは、のちのち彼の足を引っ張ってしまうのではないか。



そんな結論に至ってしまった時に、

ちょうど家に着いた。

そして、家に帰ってくるのが遅いはずの

父が帰ってきていた。



これは、相談しろと言うことではないのか?

とそんなことないのに、導かれるように

父の書斎へ行き、



今までのこと、自分がさっき思ってしまったこと、

そして、これからのことを話した。



結果として、父は婚約解消を了承してくれた。

別に王家と縁者にならなくても問題はなく、

解消したからと壊れる関係でもないとのことだったからだ。



それから、今まで結婚に向けていた時間を

今度は婚約解消のための準備に費やした。



その書類を提出に城へ向かった日は、

定期のお茶会の日でもあった。

余計な揉め事を起こしたくなかったこともあり

秘密裏に動いていたため、彼は本日をもって

婚約者ではなくなることをまだ、知らされていない。



何食わぬ顔で、

いつものように挨拶をし、

いつものような、距離感で。

いつものように、無難な話をし、

いつもの時間になり、お開きになる。

最後にいつものように、別れの挨拶をする。



いつもとおなじ別れのあいさつだ。

ただ、いつもとは違う気持ちをのせているだけで。



あなたのことが、大好きだった。と



何も気づかないあなたはただ、

いつものように、あぁ。と返すだけ。



それから、馬車に乗り込み家へと帰る。

数日後には、国を出ることを決めた。



もし、あの2人の関係がうまく行った時

私は素直に祝福できない。

2人を見ていられないと思ったからだ。



学校は、婚約解消の準備の間に死ぬほど勉強して

飛び級して卒業した。

ちょうど長期休みに差し掛かった時期であったため、

知れ渡るのは、休み明けだろう。



これで、私たちの道はわかれた。

この先どうなるのかはわからない。

だけど進んでいくだけ。

きっとこの気持ちは時間が解決してくれるはずだから。






















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