マヒルとヤナカ、錬義や斬竜との再会を誓う
「ふん! またな!」
錬義と斬竜の前から立ち去る時、ヤナカはそうぶっきらぼうに挨拶した。けれどそれは決して怒っていたりするのではない。狂暴といっても差し支えない激しい<アクシーズとしての気性>を受け継ぐ彼女がそういう性分なだけだ。
「ああ、またな!」
錬義も満面の笑顔で応えた。
「また遊びに来るよ」
マヒルも笑顔で手を振りつつ、ヤナカを肩車したままゆっくりと下がっていく。猛獣としての気性を持つ斬竜に背中を見せるのは自殺行為なので、自然とそういう仕草になる。それが身に沁みついているのだ。
そんな二人を、錬義と斬竜も穏やかに見送る。今日はそれこそ顔を合わせにきただけだ。アカネは『遊びに行く』と言っていたものの、こうなることは分かっていた。地球人のように、
『握手を交わし茶を飲みながら談笑する』
ことだけが<交流>ではない。
互いの<気持ち>が交わるなら伝えられるなら、それは立派な<交流>だろう。時間はそれこそ十分ほど顔を合わせただけだが、必要なことはお互い伝えられた。機会はこれからもある。なにも焦る必要はない。
こうして再びワイバーンに乗り込んだマヒルとヤナカに改めて手を振り、草原を滑走して飛び立っていくのを見届け、錬義は斬竜に顔を寄せる。すると彼女の方から唇を合わせてきた。緊張から解き放たれたことでさらに心の安定を求めたのかもしれない。
錬義もそれに応じ、彼女を受け入れる。
彼女と一緒にいられることが何より幸せだった。
その上で自分の生があった。まさかこんな風に考えられる相手に出逢えるなんて思ってもいなかった。ただただ鵺竜の研究をし、新天地ハンターとしての仕事を続けられればそれで満足だった。
けれど彼女に、斬竜に出逢ってしまった以上は、もう昔に戻れない。しばらくこうして二人きりの時間を過ごせば、今度は彼女を伴って仕事に戻ることになるだろう。そのための準備も行っている。ミネルバを再設計し、二人で乗っていても快適に過ごせるようにするのだ。
それでいて従来のミネルバのような運用ができるように、複葉機型の機体を<母艦>のように使い、そこからウルトラライトプレーンとしてのミネルバが離脱できるようにという形を考えている。
普通に考えるといささか無茶な設計のため、それを成立させることに手間取っているそうだが、焦る必要はない。じっくりと待てばいい。<世界>は逃げない。
錬義にとっても斬竜にとっても、<新しい世界>が広がっているのだ。




