錬義、強引なテクニック
そうして錬義は、今夜の宿に適した場所を、ミネルバに乗って探し始めた。
高度は百メートル程度。速度は六十キロ程度か。ルーンとわずかにプロペラの音はするものの、ほぼ滑空する鳥のようにも見えた。
やがて、いくつかの岩が折り重なるように地面から突き出ていた場所を見付け、
「うん、良さそうだ」
と呟いて降下した。そして、ミネルバが地面に着陸する前に、高さ五メートルほどのところから飛び降りて、岩の上に降り立った。
するとそれは、長さ約二十メートルから約三十メートル、幅約十五メートルから約二十五メートルほどの岩が四つ、絡み合うようにして重なった場所だった。
が、錬義が岩の上から下を見下ろすと、地面を、<尻尾が生えたダチョウ>という印象のある生き物が何頭もうろついていた。
<ストルティオ竜>
そう呼ばれる、亜竜の一種である。鵺竜と亜竜は、おおむね大きさによって区別されている。体長が十五メートル以上のものを鵺竜、体長が五メートル以上十五メートル以下が亜竜とされているが、この区別は実は必ずしも厳密ではない。例えるならクジラとイルカの関係に近いだろうか。
クジラとイルカも、一応は大きさで区別するとされてはいるものの実際にはその境界は曖昧なのだとか。鵺竜と亜竜の区別もその感じとも言える。
ただ、標高七百メートル以上には鵺竜はいないとされており、それより高いところに住んでいるものは亜竜と思って間違いないだろう。
一方、逆に標高七百メートル以下の場所でも、亜竜は住んでいる。
とにかく<ストルティオ竜>は、尻尾まで含めた体長が五メートル強の、全身を長い毛で覆われた亜竜であり、どうやらこの岩の下の方が彼らの巣のようだ。
ストルティオ竜らは、自分達の巣の上に怪しい生き物がいるということで警戒しているのだろう。
「ごめんごめん。ちょっとお邪魔させてもらうよ。まあ、明日にはいなくなってるから」
言葉が通じるわけではないが、錬義は両手を合わせて詫びるような仕草を見せた。それから、上を向いて、
「さてと、おいで、ミネルバ!」
上空を旋回しているミネルバに声を掛ける。するとミネルバは彼目掛けて急降下し、軽量な機体を活かして岩にぶつかる直前で急上昇に転じる。しかも、ほぼ垂直に。
しかしさすがにそれは無理があり失速。空中で停止してしまう。普通ならこのまま墜落するところだが、なんと錬義が跳び上がってミネルバの機体を掴み、そのまま岩の上に着地してみせたのである。
岩の上にミネルバを下すための強引なテクニックであった。




