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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
新生活
88/96

仰せのままに、姫様♡

ラーメンを食べた後は、二人で風呂に入る。すると斬竜(キル)は、


「洗え!」


と言わんばかりにどっかと風呂椅子に座って錬義(れんぎ)に背を向けた。


「はいはい♡ 仰せのままに、姫様♡」


錬義は嬉しそうに石鹸をしっかりと泡立ててそれを自分の手に付け、撫でるように洗っていく。


野生での水浴びではどうせゴシゴシこするようなことはない。こすらないと落ちないような角質は、自然環境の中に溢れる様々な有害物質や細菌から皮膚を守る役目をしているので、こすり落としたりはしない。あくまで触れるだけで剥がれ落ちてくるようなものを洗い流すためにしていることだ。


そんな錬義の洗い方が心地好いらしく、斬竜はうっとりとした様子でされるがままになっていた。そんな彼女の全身をくまなく彼は洗っていく。全身くまなくだ。


とは言え、その様子も、セクシャルな印象はさほどない。ただただ<幼い我が子を洗ってあげている父親>という光景だった。


こうして一緒に暮らせている以上は事実上の<(つがい)>であり、それ以上は焦る必要もなかった。いずれ彼女が<発情>すればその時には応える用意はあるものの、そうでなければ無理をする必要もない。


地球人のように常時発情が可能な種族とは違い、ダイナソアンである錬義には、


<発情しやすい時期>


がある。その時期を迎えても我慢しようと思えばできてしまうが、それ以外の時ならそれこそ彼女を見ても、


『綺麗だ』


と思うだけでそれ以上には気持ちが昂ることもない。ただ、それはおそらく、斬竜が発情していないからだろう。彼女が求めるなら、応えることもできてしまうであろうことは分かっている。彼女の性フェロモンに励起される形で昂るであろうと予測はされていた。


なお、<総合研究施設アンデルセン>での詳細な検査の結果、錬義と斬竜の遺伝子はそんなにかけ離れておらず、簡単には妊娠しないかもしれないが、可能性はゼロではないということも判明している。光莉(ひかり)号のAIによるシミュレーションでは、妊娠の確率は八パーセントと出たそうだ。


数字だけを見ると低いように思うかもしれないものの、地球人同士でも必ず妊娠するわけではないので、たとえ数字上は八パーセントに過ぎなくとも、可能性は十分にあるだろう。


それに、錬義自身、必ず子供が欲しいと思っているわけでもなかった。そもそも、斬竜と出逢うまでは、錬是(れんぜ)の地にはダイナソアンは二人しかおらず、そのどちらも男性なので、そもそも子供を残せる可能性はなかったのだ。


そのことを思えば、『可能性が出た』だけでも大変なことなのである。



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