斬竜、食事の時の習慣
こうして錬義と力を合わせて狩った<ハゲアリハゲナシハゲハゲ>を、斬竜はその場で貪り始めた。首筋に食らい付き、分厚い皮膚を食い破り、ガツガツと喰らっていく。その姿は、初めて出逢った時と何も変わっていなかった。しかも、全裸である。ああでも、髪がサラサラのツヤツヤになっているのは違うか。体自体、土埃で汚れてもいない。
なお、服については、食事の時には血塗れになるので、脱いでもらうことにしている。でないとすぐに血で真っ黒に染まってしまう。
斬竜も慣れてきて、錬義が脱がさなくても自分で脱ぐようになってきた。ただし、着るのはまだできない。錬義に着せてもらうしかない。
でも、それでよかった。そんなことは些細な問題だった。彼女と一緒にいられることが錬義にとっては喜びだった。
そして食事を終えると、斬竜は妊婦のような大きな腹を抱えて錬義と共にコテージへと戻る。と、部屋に入る前にトイレに入り、
「は~……♡」
すっきりとした表情で出てきた。腹もいくらかへこんでいるように見える。で、部屋に入ると、勝手に食糧庫を開けてカップラーメンを取り出し、
「ん……!」
錬義に『作れ』と差し出してくる。あれだけ食べて大きな腹を抱えているというのに。どうやら、
『ラーメンは別腹』
ということのようだ。
「はいはい♡」
そんな彼女に、錬義は嬉しそうに応える。さっと湯を沸かして注ぎ、彼女と一緒に待つ。
斬竜も、<待つ>ということができるようになっていた。待てばラーメンが食べられるということを理解してきているらしい。人間として人間の社会で暮らすにはまだまだだが、それでも確実に彼女は変わってきている。
けれど、
『別に、無理に変わってもらう必要はないけどさ。僕は、今の彼女を愛してる』
錬義はそう思っていた。思いながら、カップラーメンの器を、まだかまだかと指でつついている彼女を、微笑ましそうに見ていた。
我儘で傲慢で尊大で冷酷無比な<凶竜の姫様>ではあるものの、彼にとってはかけがえのない<愛しい人>でもある。彼女のためならこうして人里離れた原野に住むことだって苦にならない。
それはまあ、生活するのには困らないというのもあってのことではあるが。
三日に一回、食料品をはじめとした生活必需品が届く。フライトユニットと呼ばれるロボットを連結したホビットMk-XXXが届けてくれるのだ。
金は、彼が集めた鵺竜や亜竜のデータをアンデルセンが買ってくれた。そういう仕組みになっていた。
また、
「錬義が帰還したことで、お前の記録がさらに更新された。おめでとう」
錬是から一万二千キロの行程が新たな記録として認定され、それに伴って報奨金も支払われたのだった。




