ハゲアリハゲナシハゲハゲ、迫る
＜ハゲアリハゲナシハゲハゲ＞
それは、錬是の台地に生息する、鵺竜を祖先とする動物の一種である。鵺竜に比べれば小型ではあるものの、体長二メートル、体重二百キロ超の、錬是においては大型に属する獣だった。
その外見は、
＜まだらに濃茶の毛が生えたハダカデバネズミ＞
という印象であり、実は元々、＜ハゲハゲ＞と称される近似種の動物がおり、そちらはそれこそ、
＜巨大なハダカデバネズミ＞
そのものの姿をしていた。それを誰かが＜ハゲハゲ＞と呼び始めて定着した頃に、
＜全身を体毛に覆われた、ハゲハゲの亜種＞
が発見され、それが、
＜ハゲナシハゲハゲ＞
と命名され、さらにその後に、
＜体毛がまだらに生えた、ハゲナシハゲハゲの亜種＞
が発見されたことにより、＜ハゲアリハゲナシハゲハゲ＞などという、地球人の感覚からすると珍妙な名前になってしまったというのが経緯であった。
ただし、朋群人には＜薄毛を揶揄する感覚＞がそもそもないので、アーカイブの中にあった映像コンテンツで、
『体毛がない状態を＜ハゲ＞と称する』
と受け取ってしまっただけであり、ゆえに知らずにこのような名前を付けるに至ったというのが実際のところである。
そのため、誰もその名を嘲ったりもしない。単純に、
『そういう名前だ』
と思っているだけである。そして今、その＜ハゲアリハゲナシハゲハゲ＞が、錬義と斬竜の前に立ちはだかっていた。
狩りをするために密林に入ったところで、遭遇したのだ。
「これは食べ応えのある奴だな。ちょうどいい」
錬義がそう口にする。一方、斬竜はそれこそ＜狩る気＞満々のようだ。とは言え、このハゲアリハゲナシハゲハゲ、そのみすぼらしささえ感じさせる見た目とは裏腹に実に凶暴な捕食者であった。野生の獣にも劣らない身体能力を持つ朋群人でさえ、油断すると危険な相手だ。
「ミネルバ、下がってて」
手を差し出したながら錬義が言うと、
「無理しないで」
言いながら、
＜ホビットMk-XXXにリンクしたミネルバ＞
が声を掛けた。
「もちろん。分かってる」
錬義はニヤリと笑みを浮かべながら、ハゲアリハゲナシハゲハゲを睨み付けながら、応えた。
そして、次の瞬間、弾かれるように斬竜と同時に動いた。
「ギピイッ！？」
ハゲアリハゲナシハゲハゲが二人の動きに驚いたように声を上げる。直後、その首の両側から挟み込むようにして途轍もない衝撃が襲い掛かった。それによって頸椎が粉砕され、
「ギ……ッッ！？」
とかろうじて断末魔を上げただけでほぼ即死したのだった。錬義と斬竜が、寸分のズレもなく息の合った打撃を加えて仕留めてみせたのである。
この地に二人で、いや、ミネルバも含めてだが、暮らし始めて半月。すっかり馴染んでいたのだった。
