エレクシア、斬竜の力を引き出す
「……」
激しい怒りの形相で猛然と攻撃を仕掛けてくる斬竜に対し、エレクシアはただ淡々と受け止めていた。まだ余裕はありそうだ。だから斬竜の力を確かめようとしているだけにも思える。
しかし同時に、
「ガアッ!!」
斬竜が繰り出してきた右手の爪の一撃をそれこそ紙一重で躱し、エレクシアは同時に右の掌打を斬竜の胸に打ち込んだ。
<ハートブレイクショット>
とも言われる、心臓を狙い撃ちにした打撃である。心臓を持つ生き物の場合、強い衝撃を受けると<心室細動>を起こし、下手をすると死に至る危険性もあるので、心臓を狙って攻撃を加えることは、地球人社会におけるスポーツ格闘技では基本的に禁止されていることの多いものだった。
が、これは<スポーツ>ではなく、斬竜の能力を確実に把握するための<強攻試験>である。吹っ飛ばされた斬竜の体がコテージに叩きつけられて建物が壊れても、それも想定の内だった。施設の損害よりも試験の完遂が優先されるのだ。
斬竜の方も、胸に強い衝撃を受けてもまるで意に介することなく、コテージを蹴って再びエレクシアに襲い掛かる。蹴られた瞬間、建物自体がミシッと音を立てて歪んだ。それだけすさまじい応力が掛かったということだろう。斬竜がぶつかって壊れた部分もそうだが、もしかすると今ので躯体そのものが歪んだかもしれない。
だがそれすらエレクシアは厭わない。ロケットのように頭から突っ込んできた斬竜を、体を回転させることで躱しつつ、今度は蹴り飛ばしてみせた。
普通の動物なら、さっきのハートブレイクショットの際に、肋骨が粉砕され、今度の蹴りでも体の骨がいくつも破砕されていたに違いない。なのに、先ほどのとは別のコテージにぶつかった斬竜は、やはり動きすら鈍ることなくエレクシアに襲い掛かる。
「ガアッッ!! グアアッッ!!」
途轍もない咆哮を上げつつ、憤怒の形相で。
と、その時、
「!」
エレクシアが何かを察したように、身を躱す。瞬間、エレクシアがそれまで立っていた部分の地面が、パワーショベルででも引っ搔いたかのように大きく抉れた。
何も見えなかったのにだ。
「むう! まさか空間干渉の能力まで……!」
その光景を、あらゆるところに設置されたカメラを通じて見ていたアンデルセンが呻る。
<空間干渉の能力>
それは、竜女帝が備えていた、最も強力な<力>だった。これにより、七賢人をはじめとした無数のロボットの攻撃を無効化し、かつ、攻撃にも使ってきたのだ。それは、空間そのものを捻じ曲げることによって、どんなに固く強靭な材質でも水飴のように捻じ曲げてしまうことのできる力であった。




