斬竜、エレクシアとぶつかる
錬義がまったく反応することもできずに無力化されたエレクシアを相手に、斬竜は猛然と打ち合っていた。
エレクシアが身に付けている<神官を思わせる白い衣装>が見る見るボロボロになっていくが、それは単に、エレクシアの動きに耐えられなくて裂けていってるのだろう。
一方、斬竜の方は、手足の動きを一切邪魔しないタンクトップとホットパンツという格好だったからか、それほど破損もしてない。
だからそれはいいとして、問題は斬竜だ。斬竜は確かに強かったが、それでもあくまで錬義と互角程度のはずだった。なのに、今は、エレクシアの動きについて行っている。これは本来、有り得ないことだった。何しろエレクシアは、仮にとはいえ戦闘能力も有したロボットだからである。
肉の体を持つ生物ではできない挙動をするために設計されているのだ。だから、錬義のように手も足も出なくて本来は当然なのだ。
にも拘らず、斬竜は互角に戦っているようにも見える。
『今まで手加減してたのか……? いや、僕にだって手加減してるかどうかくらいは分かる……と言うことは、これは普段は使えない、タガが外れた時にしか使えない、斬竜の<本当の力>……?』
まだ体がほとんど動かず、地面に横たわったまま、錬義はそう思った。そしてそれは正解だった。<凶竜・竜女帝>から彼女が受け継いだ力は、<ただの動物>として生きるには明らかに過剰なものだった。必要のないものだった。だから普段は使えなくなっていたのだろう。けれど、一度タガが外れると、その<過剰な力>も使えてしまう。
では、なぜ『タガが外れた』のだろう?
それについては後ほど触れるとして、今はとにかく、エレクシアを相手に、普通の動物では有り得ない戦い方をしている斬竜のことだ。
しかもこの時、錬義は何度か、自分の体にビリッとくるものを感じていた。それは単にエレクシアに打ち据えられた所為で体が痺れているのかとも思ったが、実はそうじゃなかった。
「電磁パルス攻撃か……」
自分の部屋で<強攻試験>によって得られるデータを同時に解析していたアンデルセンが呟いた。それを示すデータがあったのだ。斬竜が複数回、<電磁パルス攻撃>を放ったことを示すデータが。
これまた、普通の動物には有り得ないものだ。しかし、斬竜にはそれができてしまう。
<凶竜の姫様>
<竜女帝の子>
であるがゆえに。
この運動能力も電磁パルス攻撃も、竜女帝が有していた能力である。斬竜は間違いなくそれを受け継いでいる。
「確かにこれは、通常の試験では引き出せないものだな……」
と、アンデルセンは唸ったのだった。




