貴人エレクシア、その威容
<強攻試験>に入ったことで、錬義も斬竜も、その体に緊張感を漲らせていた。もちろん斬竜は強攻試験のことは知らないものの、恐ろしく手強い何者かが近くにいることは察しているようだった。
と、その時。
「こんにちは。錬義、斬竜」
不意に声を掛けられて、
「!?」
錬義と斬竜は揃って弾かれるようにしてその場を飛び退き、声の方に向き直った。
そこに立っていたのは、
「エレクシア……様……?」
錬義も実際の姿を見るのは初めてだった。ヘルメットの遮光バイザーのような黒い仮面を着け、<神官>を思わせる白いゆったりとした服をまとい、そして、斬竜のそれに似た青い髪を胸まで垂らした、女性……?
その女性は、ゆったりとした、それでいて淡々とした印象のある話し方で、
「私の名は、エレクシア。この世界の道行きを見守るようにマスターから命じられたロボットです。ゆえに今回、竜女帝の子について評価するために参りました」
そう口にした。その上で、
「マスクについては非礼をご容赦ください。かつての竜女帝との戦いの際に破損し、見て心地好い状態ではなくなってしまいましたので、それを隠すために着けています」
とも。そんなエレクシアに対し、錬義も、
「お初にお目にかかります。エレクシア様。自分は<錬義>。天照の一子で、現在は新天地ハンターを生業としています。こちらの<斬竜>と同じく恐竜人間>です。ですから僕は、彼女の味方をします」
静かに、しかしきっぱりと、決意を伝えるかのように語り掛ける。
「はい。情報については確認しています。ですので、もし何かご質問があれば、この場で承ります」
どこまでも丁寧なエレクシアの物言いに、錬義は、
「今回の試験の後、彼女はどうなりますか?」
単刀直入に問い掛ける。今までに判明していることから考えれば殺されるようなことはないはずだが、それでも不安はあるからだった。そんな彼に、エレクシアも、
「それは、今回の試験の結果次第です。ここまでの情報では彼女が<凶竜>でないことは分かっています。ですから、一般的な試験及び観察では分からない部分について、今から判定します。その結果、斬竜がこの社会の根幹を揺るがすほどの危険な存在であると判明すれば私はマスターの指示通り、この社会を守るために脅威の排除もためらいません。
これは私に与えられた大前提です。例外はありません。許しも請いません。私は、私が発揮しうる最大のパフォーマンスで、対処します」
それまでと全く変わりない淡々とした様子で告げたのだった。




